赤いレインコートの夜 ― 出会い ―
雨は少しだけ弱まっていた。
少女は歩き続ける。
強い風に背中を押されながら、小さな灯りをひとつ、またひとつと通りすぎていく。
そのときだった。
前方のベンチに、誰かが座っているのが見えた。
フードをかぶっていて、顔は見えない。
けれど、その人の肩が小さく震えているのが、雨の中でもわかった。
少女は、ゆっくりと歩を止めた。
なぜだか、その人の隣に立ちたくなった。
「……寒いね」
声をかけた。
相手は驚いたように顔を上げる。
同い年くらいの、男の子だった。
黒いフードの下の瞳が、少しだけ赤く濡れていた。
「……うん。でも、君の赤、あったかそうだね」
「これはね、わたしの中の火。消えないように、着てるの」
少女は少し照れくさく笑った。
男の子も、ようやく小さく笑った。
「きみも、ここで止まってるの?」
「うん。進み方、忘れちゃって。でも、ここで座ってても何も変わらないよね」
少女は頷いた。
そして、傘を男の子のほうに少し傾けた。
「じゃあ、いっしょに歩く?」
「……うん、歩いてみる」
ふたりは歩き出した。
雨の中、赤と黒のコートが並ぶ。
風はまだ吹いていたけれど、今度はそれが追い風になっていた。
街灯の下、ふたりの影が並んでのびる。
言葉は多くなかったけれど、心はすこしずつ、近づいていた。
赤いレインコートの少女と、雨に濡れたフードの少年。
ふたりは、自分ひとりでは見えなかった景色を、少しずつ見つけていった。
そしてその夜、少女は初めてこう思った。
「前に進むって、
誰かと一緒に“進みながら気づいていくこと”なのかもしれない」