No.1 悪役皇女に転生した
目が覚めた瞬間、私の頭の中に流れ込んできたのは、あまりにも唐突で、理解不能な情報の奔流だった。
──ユリア・フォン・アルセリア。王国第三皇女。高慢で傲慢、性格最悪。
──学園で主人公の恋路を邪魔する悪役令嬢。最終的に国外追放、もしくは斬首END。
……は? ちょっと待って、なにそれ。
「お目覚めですか、ユリア様」
差し込む朝陽、絹のカーテン、ふわふわのベッド。そして横に立つ、どこかで見たような金髪美形のメイド。
ああ、うん、知ってる。知ってるよ。
この子、乙女ゲーム『薔薇の騎士と夢見る花園』のメイド・セリーヌじゃん……!
この世界、乙女ゲームの中の世界だ。
しかも私、死亡フラグてんこ盛りの悪役皇女に転生してる……!
「本日は王太子殿下とのティータイムがございます。ご準備を」
「ねえ、セリーヌ。お願いなのだけれど……それ、キャンセルできる?」
「……え?」
いや、だって、そんなイベント、どう考えても地雷でしかない。下手すりゃヒロインとバッティングして、『またユリア様が邪魔を!』とか言われるやつだ。
そうして王太子の好感度が爆上がりして、私の評判が地に落ちて、BAD END一直線!
……なかかこの世界に転生ちゃったわけだけど。
きっと悪役皇女として死ぬ運命を受け入れなきゃいけないんだろうけれど。
いや、うん。普通に死にたくない。なんで死ななきゃいけないの?
「そうだわ、代わりになんか……寄付とかしたい気分。困ってる孤児院とか……ない?」
「ユ、ユリア様……!? ついに……ついに改心なさったのですね……!」
改心!?
いや、でもそうか。今までの悪行の数々を考えれば改心した、と勘違いされても詮無きこと。
実際は改心なんてしていない。今まで過去の私が稼いできた悪行ポイントの数々を偽善行為で精算しようとしているだけ。言うなればぜんぶ、計算した上の行動である。
今回の発言だって、孤児院に寄付するという偽善行為で悪行ポイントを精算しつつ、隣国かつこのゲームの攻略対象で、私の婚約をいずれ破棄する王太子殿下……セシル・フォン・アルセリアのお茶会をやんわりとドタキャンする言い訳である。
それならしょうがないって言ってくれるだろうし、もしも文句を言われるのなら、そこまで慈悲のない方だったのですね、婚約破棄しますわっ! ってこっちから縁を切ってしまえば良い。あの人と関わらなければそれだけでうんと私の破滅フラグは遠のくのだ。
でも、セリーヌの目がきらきらしてる。なんか信じちゃってる。
感動している。「やっと、ユリア様が」と。
罪悪感しかない。
なんというか。悪いことしちゃったなぁと思う。
いや、いいよね。勘違いでもなんでも、生き残れるなら……!
よし、誤解されてでも、私は生き延びてみせる。
この世界が何をどう捻じ曲げようと、私は絶対に、フラグを折ってやるんだから!