一本目 ハッピーナイフライフ part2 So dangerous
振り返ると玄関口にいたのは山谷だった。
山谷ユウヤ、恐らく支部内最年少の彼の背丈は戸桐より頭一つ分ほど小さく、性格は自由奔放で何ものにもとらわれない、そういった印象だ。
自称自作の革製ナイフ入れを腰にかけ、中にはもちろん彼のナイフを入れている。
「今掃除中?」
『いや、作業中だよ』
戸桐は誇らしげに答えた。
『他のみんなは?どこにいるんだ?』
そう戸桐が山谷へ聞いた瞬間、また一人見知った顔が入ってきた。
「戸桐、起きてたか」
『高井!』
「今さっきまで会議中だったんだよ。2階でね」
山谷は天井を指さした。
この建物は3階建てであるのだが、各階を行き来するための階段が外にある。
内心この三人全員が面倒くさいと感じているが、誰も文句をつけられるほどの立場ではない。
『会議ってなんだ?俺がいなくても大丈夫だったのか?』
「それがやばかったんだよ!東圏のs」
山谷が話し始めたところで、高井がその口を封じた。
「むんごんんn!」
「おい、さっき”戸桐には話すな”って言われたばっかだろ……。それと戸桐、お前が必要な会議など無い。」
「でもソーも聞いたときはこの世の終わりだーみたいな顔してたよー!」
『ちょっと待ってくれ、良くわからないんだが、俺に話すなって言われたことって何だ?』
戸桐は状況を飲み込めずにいた。
高井は信じられないような目で戸桐を見つめる。
「あっはっはっは!」
山谷も堪えられずに腹を抱えて笑い出した。
戸桐はポカンとしている。
「いやだからお前には言えないことだ……。あと山谷、俺のことを”ソー”とかいう変なあだ名で呼ぶな。何回目だ。俺のことは”高井さん”と呼べ」
その間も山谷はバカ笑いを続けている。
直後、高井は何か思い出したような顔した。
「そういや戸桐、支部長には感謝したほうがいいと思うぞ。お前が昨日任務を失敗したことに加え、今朝また遅刻したことで城山さん”あいつの頭蓋骨カチ割ってやる”とか何とか言ってたから」
戸桐はゾッとした。
城山ならやりかねないからだ。
「それで城山さんがお前の部屋に行こうとしたところを何とか支部長が止めてくださったんだよ。まぁ、俺はお前がどうなろうが関係ないが、一応伝えておく」
『ありがとう高井!じゃあ支部長のデスクはもっと念入りに掃除しとこう』
「やっぱり掃除だったじゃん」
「”高井さん”、な」
山谷はソファーでくつろぎながら、高井は今にもブチギレそうな口調で言った。
「ソーだね。ブッ、あっはっはっは!!」
山谷は渾身のギャグを言い放った。
高井は一瞬戸惑ったが、その意味を理解した瞬間に”今度こそ許さん”と山谷を追いかけ始めた。
もちろん山谷はソファーから飛び降りて”ソーんなー”などと言いながら逃げ惑う。