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二幕目 村境の野原の場

二幕目 村境の野原の場


本舞台、前幕と道具変わらず。たゞ、すべて序幕から十年ほど、やゝ荒廃した体よろしく。この際、幕を引かずに道具方が道具を変えること。木魚入り合方、バタバタにて花道より千歳、田舎娘の拵え、太郎助、百姓の拵え、の手を引いて出て、道祖神の前に来ることよろしくある。


千歳「こゝまでくりゃ谷蔵たちも追ってはこれまい。これ太郎助、もう大事ないぞ」


ト太郎助を見るが、太郎助は終始息切れのこなし。


千歳「走ってきたのはほんの十町だけというに、もう息切れとは情けない。それだからからかわれるのじゃ」

太郎助「○それじゃというて○足が動かんのではどうにもならぬ○ハテ、この話は前にもしたような」

千歳「言われてみればそのような○それなら太郎どんも十年も変わっていないということか。オホヽヽヽ」

太郎助「エヽ、笑いごとじゃないやい。ずっと千歳どんに助けられているまゝでは、死んだ親父とおふくろも成仏できないわ」

千歳「イヤ、そんなことはない。太郎どんの(かゝ)さんは亡くなる前、わしを枕元に呼び寄せて○うちの太郎は性根こそよいなれど、大層ひねくれているゆえ、千歳どん、どうか、わしら夫婦がおらんくなっても末永うそばにいてやってくれ、とおっしゃったわいなあ○それゆえ、なにがあっても太郎どんはわしが守るのじゃ」


ト両人思い入れ。


千歳「ハテ、えらい辛気くさくなってしもうた。オホヽヽヽ」

太郎助「辛気くさいといったら、いつの間にかこゝも大層な荒れようだ」

千歳「元から外れゆえ、村の皆々はあまり近寄らぬが○いつの間にか、こんなに草が」


ト千歳、腕をまくり、雑草を抜こうとする。合方になり、花道より鶴助、泉一郎、百姓の拵え、おひな、おゆき、田舎娘の拵え、あとより谷蔵、着流しにてやってくる。よきところにて、


鶴助「エヽ太郎助の野郎め、どこに逃げ失せた」

泉一郎「大方、千歳と一緒だろうが、あの化け物に投げられた腰骨がまだ痛むわ」

おゆき「なにも太郎さんと遊んでやっていただけだというに、」

おひな「いつもいつも余計なところで邪魔立てをば○なあ谷蔵どん」

谷蔵「そうはいうても、今日はちと手荒がすぎたような」

おひな「エヽ、なに意気地のないことを○おゝ、ほれあそこにるわいのう」

泉一郎「ほんにミシャグチ様のところだ。それ谷蔵」


ト四人、谷蔵を先頭に押し出し、本舞台にやってくる。太郎助、千歳、驚くこなし。


千歳「いや、おぬしらは」

鶴助「えゝい、千歳め。こんなところにいやがったか」

おひな「いつもいつも太郎さんと遊んでいるところへノコノコとやってきて、」

おゆき「いじめたやら、いたぶったやらと難癖つけ、」

泉一郎「あげくの果てにはこの俺をいじめいたぶる女郎(めろう)めが、今日という今日こそ」


ト泉一郎が掛かろうとするを谷蔵が止め、


谷蔵「マアマア○千歳どんも千歳どんで、やってくるなり泉一郎の話を聞かずに投げたはさすがに無作法。こゝは互いが非を認め、一つ手打ちに、」

千歳「谷蔵さんは何と言いなさる。太郎助どんがべそかいておったのに、あれのどこが遊びと言うのじゃ」

谷蔵「いや、それは○」

おひな「ハテ、人聞きの悪いことを、」

おゆき「あれはたゞのめんない千鳥」

千歳「目隠しした太郎どんを囲んだ上、棒で叩いたりして何を言う」

鶴助「いやいや、それは了見違い。太郎があんまりにも鈍臭いから、俺らはこゝじゃ、こゝじゃと教えていただけ」

太郎助「そうでない、そうでない。おいらが何度も鬼をやりたくないと言うても、お前は鬼じゃ、鬼じゃと囃し立て、ずっと鬼にさすはそっちのほう」

両人「何を」


ト鶴助、泉一郎が立ち掛かるを谷蔵が止め、


谷蔵「二人とも落ち着きなせえ。鈍臭いゆえ太郎さんがいつもあっさり捕まるとはいえ、泣かせたのはさすがにこっちが悪い○そうであろう、そうであろう(ト鶴助らに言い聞かせ)、して、詫びというわけではないが、これから改めて千歳どんも一緒にみんなでめんない千鳥をやろうというのはどうじゃ、どうじゃ」

千歳「口先ではそう言うても、先の様子を見ていれば、太郎どんをいっちゃん強うぶってたのは谷蔵どんに見えたぞよ」

谷蔵「ヤ○そりゃその○」

千歳「ほれ、見たことか。そういうところがわしは嫌いじゃ。お前の父さんも父さんじゃが、所詮、蛙の子は蛙じゃわい」


ト谷蔵、悔しき思入れ。


おひな「そりゃ、いくらなんでも言い過ぎじゃわい」

おゆき「せっかくの谷どんの情けを無下にした、その上に、」

鶴助「口から出任せ出放題○かくなる上は、」

泉一郎「鬼退治と行こうかい」


ト早目の合方になり両人、千歳に掛かるが投げられる。千歳は太郎助を連れ、客席に逃げる。五人は本舞台にて探すことよろしくあって、トヾおひな・おゆきは下手、鶴助・泉一郎は上手に入る。谷蔵、どちらへ行くか思案ののち、思入れあって上手に入る。千歳、五人がいなくなったのを見計らって、太郎助を連れて本舞台に戻る。


千歳「おゝ、ようやくまけたか○あれ太郎どんは本当にしっこしのない」


ト時の鐘、烏笛。


千歳「あれ、もう時刻も入相か。それなら太郎どん、そなたの爺婆もわしの二親(ふたおや)も案じるであろうから、暗くなる前にさっさと帰ろうか」


ト千歳、太郎助の手を引いて連れて行こうとするが、太郎助よろけ、はずみに道祖神にぶつかる。道祖神、仕掛けにて真っ二つに割れる。両人ビックリする。


両人「ヤ」

千歳「こりゃ村の大事のミシャグチ様が、」

太郎助「真ん中からきれいさっぱりと、

両人「割れてしまったわいなあ」

太郎助「こりゃ一体どうすれば、よかろうか」


ト太郎助慌てるこなし。千歳周りを見て、


千歳「太郎どん、太郎どん。こっちへ来や」

太郎助「なんじゃいな」

千歳「よいか。こゝで見たことは二人の内証事じゃ。よいか。よいな」

太郎助「エ。そんなら○」


ト両人思入れ。


千歳「さゝ、誰も来ぬうちに早う、早う」


ト合方にて千歳、太郎助を連れて足早にて花道に入る。薄ドロドロ、寝鳥の合方にて割れた道祖神より人魂が出る。人魂が花道のよきところに来ると、


拍子幕

ドロドロ、ものすごき合方にて人魂は二人を追って花道に入る。


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