役名および序幕 村境の野原の場
役名
一、千歳(幼少期)
一、千歳
一、太郎助(幼少期)
一、太郎助
一、谷蔵
一、鶴助
一、泉一郎
一、おひな
一、おゆき
一、千歳父、耕作
一、谷蔵父、浅右衛門
一、庄屋、鍬名源左衛門
一、源左衛門娘、おしん
一、百姓衆
一、村人大勢
序幕村境の野原の場
本舞台平舞台。中央に誂えの大きな道祖神、真ん中にて割れる仕掛け。この左右薮畳。後ろ田舎の景色の遠見。すべて千歳らが住む村の境にある野原の体。在郷唄にて幕開く。時の鐘、バタバタにて下手より子役の千歳、百姓の娘の拵えにて、子役の太郎助、百姓の忰の拵え、の手を引いて出て、道祖神の前に来ることよろしくある。
千歳「こゝまでくりゃ谷蔵たちも追ってはこれまい。これ太郎助、もう大事ないぞ」
ト太郎助を見るが、太郎助は終始息切れのこなし。
千歳「走ってきたのはほんの十町だけというに、もう息切れとは情けない。それだからからかわれるのじゃ」
太郎助「○それじゃというて○足が動かんのではどうにもならぬ○」
千歳「こゝまでは来れたじゃないかい」
太郎助「それは、千歳どんが引っ張っるから」
千歳「○おゝ、それなら今度からは助けてやらぬわい」
ト千歳がそっぽを向くので太郎助は慌てる。
太郎助「いや、すまぬ、すまぬ。おぬしがおらなんだら、おりゃあ今頃あの五人に痛い目にあわされてた。千歳どんのおかげで助かった。これ、この通り」
ト太郎助、辞儀をする。
千歳「それならよい○またなにかあったらすぐに言うんじゃぞ」
太郎助「あい○したが、こゝは一体どこなんじゃろうか」
千歳「こゝは村外れの原っぱじゃ○ほれ、あそこにミシャグチ様が立っておる」
ト太郎助、後ろの道祖神に心付いて怯える。
千歳「なにをそんなに怯えることがあるかいのう。太郎の爺様や婆様がいつも話しておるじゃろ」
太郎助「話には聞いておったが、ミシャグチ様は恐ろしいゆえ近づくな、と耳にたこができるほど言われておったから本物を見るのは初めてじゃ」
千歳「そんなこと言うたら罰が当たるわいなあ。うちの母さんは病がちなれど、わしを授かった時は、どうか丈夫なお子が産まれますように、と毎日のようにお参りをしていたと聞いたぞえ○ほれ、太郎どん、お前の父さんと母さんの病が治るよう、わしらもお参りしていこうわい」
太郎助「そんなら○」
ト両人、手を合わせる。時の鐘、烏笛。
千歳「ありゃもう日が沈む○さっさとうちに帰って飯食べよう」
太郎助「おう」
ト千歳、太郎助の手を取る。合方にて両人は下手に入る。