悪役令嬢スカーレットの巻き戻らない報復〜リリアンヌの分まで覚悟はよろしくて?〜1
番外編、最終的に夢オチな感じになります。
リリアンヌが殴られ逆行しなかったらどうなったか、といったもしもの世界線です。
本当に夢なのかは解釈次第。
まあ、暇つぶしに読んでやるかくらいでどうぞ。
うーん、これはやりすぎた。追い詰めすぎた。
やらかしやらかし。てへぺろ。
後頭部に衝撃を受け、遠くに聞こえる悲鳴とともに私の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇
目を開けるといつもの見慣れた天井。
じゃない。
ここ、どこ?
ん?
やたらと豪華な調度は私の部屋の物ではなかった。大人向けの落ち着いた家具の中に、金をふんだんに使いましたという痕跡がチラチラしている。
と、扉が思い切り勢いよく開かれた。
部屋の中にいる者が返事もしていないのに、確認もせずに! とそちらを見やればなんと、スカーレット様だ。
青いドレスがとても美しいのだが、お顔が険しい。
スカーレット様!?
私はそう声を発したはずだった。
はずだったのだ。
「リリアンヌ!!」
「スカーレット、あまり揺らしてはいけない」
私の方を見ず、スカーレット様はまっすぐこちらへ向かってくる。
そして私の名を呼ぶのだ。
今ここにいる私を、すっかり通り過ぎた視線は真後ろ。
ゆっくり振り返った先には、血の気の失せた顔で目を閉じたまま横たわる私がいた。
「リリアンヌ。あの場に置いていくんじゃなかった。貴方が何もしないはずがない。わかっていたのに、わたくしは、あまりに……あまりに、動揺して……」
「スカーレット様、気に病まないでください。他の令嬢たちから聞いた話ですと、それはもう立て板に水のごとく思い切りやりきっていたそうですから」
「スカーレットの代わりに言いたいことを言ってくれたのだな」
すみれ色の瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれてきて、私は思わず駆け寄る。
駆け寄ったつもりなのだ。
が、私の差し出した手は、スカーレット様の頬に吸い込まれて消える。
私の手は、身体を伴っていなかったのだ。
幽体離脱ぅーってやつですか!?
「クロフォード子爵、この件は私の方できっちり始末をつけよう」
「はは、ラングウェル公爵様、まさかお一人でやるおつもりですか? 我が家の者たちが黙っておりませんよ。次男はすでに家を飛び出してやらかしております」
「アシュリーか……人をやる。彼はリリアンヌを随分と可愛がっていたから、やり過ぎそうだ。私の分まで持っていかれてしまう」
「お父様、クロフォード子爵。今回はわたくしが後手に回ったのがすべての原因です。リリアンヌをこんな目に遭わせた者たちを、許すつもりはございません」
スカーレット様の顔が、今までに見たことがない、とても威圧的なものとなる。お父様が息を飲み、ラングウェル公爵が薄ら笑う。
「ご協力願えるでしょうか?」
「もちろんだよ、私の可愛い娘をコケにして、社会的に生きていられると思ったら大間違いだ」
「我が家総出でスカーレット様の指示に従います」
「両陛下が外遊からお戻りになられる前に終わらせましょう」
その笑みは、今まで見たことがないほど恐ろしく、美しいものだった。
スカーレット様、美しいお顔、記録更新です……。
◇ ◇ ◇
どんなことをしたとしても、女性の頬を全力で殴りつけるなどといった行為は、認められない。特に戦場でもない限り、言い訳のしようがない。しかも意識を取り戻さない。死んでないだけマシというやつだ。
私を殴り飛ばした後、すぐさま星降る宴は閉幕となったのだ。
ギルベルト殿下は城の自室で謹慎。他の生徒たちもあまり吹聴しないようにと教師陣から念押しされた。
が、まあ、黙っているはずがない。すぐさま手紙が飛び交う。卒業の三年生は自宅に帰り、ことの顛末はあっという間に王都中に広まった。
私は学園で治療されたが、外傷は治っても目を覚まさない。お父様とお母様が駆けつけ、さらに、なぜかラングウェル公爵がやってきて、ここはラングウェル公爵家の客間というわけだ。
そして私は未だに眠っている。
ああ……ほんとやりすぎたてへぺろですわよ。
くっっっ。これは、私がやらかしている。
もしこうやって寝てなかったら、スカーレット様とともにコテンパンに、ぼっこぼこのぎったんぎったんにできたのに!!
というか、スカーレット様の打つ手が早すぎる。えっ、どゆことこれ。ええっ。
まず、呼び出されたのはグスマン伯爵。
「ごきげんようグスマン伯爵様」
「ああ、……話は聞いている。うちの愚息が随分と迷惑をかけていたようだ」
「デクラン様はそこまでは……特に何をするわけでもなく、ただマーガレット男爵令嬢と一緒にいたといった印象です。彼女が必要な魔導具を作ったり、回復薬の作成に手を貸したりしていたくらい、でしょうか」
「その何もしていないのが問題なのですよ、スカーレット様。今、息子の真意を問うため自宅に戻るよう言っているのだが、なかなか帰って来ないので、そろそろ強制的に迎えに行こうかと思っていたところだ。リリアンヌ嬢の容態は? 何か手伝えることはあるだろうか?」
「うちの専属医に見ていただいて、外傷などは綺麗に治っています。目を覚まさないのが不思議なくらいだという話です」
「……そうか。息子には不用意に、これ以上聖女の周りにいるのをやめるよう言うつもりだ」
「デクラン様はそれで終わるでしょうが……他の方はなかなか一筋縄ではいかないようです。それで、伯爵様にお願いがあります。わたくしが突き飛ばしたという証拠が提出されていますの。それをきっちり検討していただきたいのです。できれば、ヘルキャット伯爵様と、ベルジーク伯爵様とともに」
「すぐ連絡を取ろう」
「あと、息子さんたちと面談をするつもりですので、拒否権はないと言い渡しておいてくださいな。呼びつけますので」
スカーレット様の言い方に、グスマン伯爵は目を見開き、そして笑った。
「きちんと連れてくる。首に縄をつけてでもな」
公爵様の執務室で、スカーレット様は手紙を山ほど書いていた。後ろから覗いて見ていると、……わぁ、言質回収に動いてる。特に他学年の今回星降る宴に出た令息令嬢たちに、見たこと聞いたことを文章に残してくれとのお手紙を送りまくるようだ。
中心の彼らを追い詰めるための証拠、そして、ラングウェル公爵家につくのかどうかを問うているのだ。
さらに一通気になる手紙があった。
グラドン商会への手紙だ。
「お父様、こちらの土地の件ですけど」
「ああ……いいよ。やってしまいなさい」
「ありがとうございます」
土地? 確か、トルセイ男爵が土地を探してきて融資したとか。それで聖女も使っている化粧品として有名になったはずだ。融資分は十分返していけたはずだが……。
と……あー、一部の土地が所有者不明だったのか。たまにそういった土地が王都にはある。たぶんそこをラングウェル公爵家のものだったことにして……乗っ取りです。
「トルセイ男爵の資産に少し不自然なものがある、こことここだが……」
「あらお父様、そこのお二人はマーガレット男爵令嬢の取り巻き二人です。ではそこは即潰しましょう。こちらから手を回せばいいかと」
「ふむ。ではそちらの手配は私がしよう」
やることのスピードと、力の込め方がえげつないです……。ご愁傷さま。
「明日はアーノルド様とクリフォード様とデクラン様を呼びだしております」
「あとは、オズモンド殿下か……」
「オズモンド殿下は、アシュリー様からこのようなお手紙をいただきました」
何々、ラングウェル公爵様の後ろから覗き見ると……お兄様、前半、めっちゃ腹立つ絶対に許さんて、表現変えてずっと言ってる。やめてお兄様。
すっ飛ばして後半を見て、これかと、納得する。
内々に話があった、アーランデ国のジュマーナの輿入れ。
「オズモンド殿下はここを公式発表してしまえば今のような振る舞いは拙いと分かっていただけるでしょう。リリアンヌが調べたところによると、どうやら婚約者もいない状態で立ち位置が不安定な上に、兄であるギルベルト殿下の控えとして扱われ続けていたことに不安を抱いていたようですから。まあ、今もまたギルベルト殿下の控えになっているのですが。マーガレット男爵令嬢の口がよっぽど上手いのか、ああやって彼女の周りにいらっしゃったようです。本当に、男性の心を掴むのが上手い方のようですね」
「その辺りを娘に教えきれなかったのが私のミスか」
「いやだわ、お父様。今となってはギルベルト殿下との婚約が破棄されて清々していますのよ。あの程度の女に騙されるような方は王となるのは難しいでしょう?」
「となると、オズモンド殿下を王太子として推すことになるのか……」
「あの二人を推されては困りますから」
にっこりと笑うスカーレット様に私はうんうんと頷きながらも、とても複雑な気分になっていた。
スカーレット様、やはり優秀でいらっしゃるのだ。自分で解決できることなのだ。
そう。自分で。
心の中に何かひっかかりを覚える。もやもやと、灰色のつかみ所のない感情が渦巻いていた。
評価、ブクマ、いいね、感想誤字脱字、本当にありがとうございます!
なんとなく、もしあそこでリリアンヌが巻き戻らなかったらスカーレットはどうするのか、考えてみた次第。




