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【本編完結済】逆行令嬢リリアンヌの二度目はもっと楽しい学園生活〜悪役令嬢を幸せにしてみせます!〜  作者: 鈴埜
【本編】

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マーガレットの突飛な主張

 壮年の男――ウォルポート公爵は、繰り返す国王陛下の言葉に頷いた。

「慣習をやすやすと覆せば国が混乱します」

「だがなぁ、この状況でギルベルトの嫁に来るような者はおるまい。子どもはできなければ養子という手もあるが、嫁のいない王はさすがに問題があろう」

 私はその瞬間、マーガレットを見やった。そして予想通り席を立ち何か発言しようとしたところを慌ててトルセイ男爵が押さえている。


 うーん。やっぱり他国のスパイにしては問題行動が多すぎる。


 そして、ギルベルト殿下も、やはり王は無理だ。

「父上! マーガレットがおります。彼女は聖女です! かの大聖女もまた、この国の王と結婚したではありませんか」

「……今回の騒動となった相手だぞ」

「私は、マーガレットを愛しています!」

 マーガレットはその様子に頬を染め涙をためていた。相変わらず便利な涙だ。


「ふむ、となれば問題は男爵位の娘だと言うくらいですね。ならば、我がウォルポート家で養子とし、残りの二年で高位貴族としてしっかりと教育をすればよろしいのではないですか?」

 トルセイ男爵も、おお! とか言い出しているが、周囲はしらっとした空気に包まれていた。


 たぶんこれ、何も知らないの彼らと私だけだな。


 何かがおかしい。

 おかしすぎる。

 ラングウェル公爵の表情。嘲笑う幻聴が聞こえる。


 私がこの違和感にあたりを見渡していると、スカーレット様とラングウェル公爵と目が合った。そしてにっこり、微笑まれる。

 わぁ……。ここまで茶番決定です。


「ウォルポート家が引き取る……か。しかしな、ウォルポート公爵よ。今日で終わる家門がどうやって養女を取るというのだ?」


「はっ?」


 私はああ、とため息をついた。

 国王陛下が手をあげると、扉から騎士団と王宮魔術師がなだれ込んでくる。

「ウォルポート公爵、そなたを国家反逆罪で拘束する」

 すべて手はずは整えられていたのだろう。騎士たちは迷いなくウォルポート公爵の下へ向かう。

 同時にグスマン伯爵やメイナードも部屋へ入ってきた。

 スカーレット様がちらりとそちらを見やっている。


「何を!? 理由もなくこのような――」

「そなたがなぜこの場に呼ばれていると思うのだ。王都の屋敷はもちろん、そなたの領地にも兵はもう到着している。アーランデ国の国王が、まさかリリアンヌ子爵令嬢に謝罪するためだけに来ているとでも思うのか? そなたたちの持ち込んだ経路はもう割れているのだ」

 後ろ手に捕らえられているウォルポート公爵の顔色が変わる。


「どこまでの罰となるのかは、どこまでが関わっているか細かく調べてからだな。だが、公爵の爵位は完全に消え失せる。フォースローグ王国は今より四公となった」

 そのままトルセイ男爵にも縄がかけられようとした。

「お父様!?」

「わ、私までなぜ!?」


「なぜ、だと?」

 国王の眼光がさらに鋭くなった。

「聖女の価値を高めるために、アーランデ国から魔素石を持ち込む算段をしたのはそなたと、ウォルポート公爵だとすでにわかっている」

 ここでラーヴェリヒ陛下が口を開く。

「アーランデ国からそなたらに石を手配していた者はすでに捕らえ、口を割っている。諦めることだな。あの石は大変危険で取り扱いが難しいものだ。アーランデ国で関わっていた者たちもみな厳罰を受ける」

「申し開きがあるのならば取調官にするとよかろう」

 手を振ると、喚き散らすトルセイ男爵と、憤怒の表情で、だが公爵としての威厳を保つためか自分で歩いていくウォルポート公爵が部屋から連れ出された。


 そして残された聖女は、唇をわなわなと震わせている。


「マーガレット・トルセイ男爵令嬢……いや、もうトルセイ男爵は存在せず、そなたはただのマーガレットとなったわけだが、聖女としての肩書はまだ健在だ。魔力練りの方法は学んだだろう。学園を退学とし、神殿で奉仕に努めるが良い」

 お取り潰しなわけだし、今回の国家反逆罪を考えれば命があるだけマシなはずだ。


 しかしそこで止まらないのがマーガレットだ。

 彼女の、不思議な主張に皆が戸惑う。


「次の、次の秋に魔王が復活するのよ!? その時私がいなければ、国は滅ぶ!! 聖女の私をそんな風に扱っていい訳ないじゃない!!」

 テーブルの上に両手を叩きつけて宣言する彼女に、皆が戸惑う。


「魔王、だと?」

 ラーヴェリヒ陛下が困惑した声を漏らした。

「そうよ! 魔王に立ち向かえるのは聖属性の私だけだわ!」

「確かに、魔王に対して聖属性は絶大な効果を発揮する、が……」

「私をこんな無碍に扱って、国が滅びてもいいというの!? 私はこの国の未来を知ってたはず、なのに、なのに!! 全部あんたのせいよ!」

 マーガレットは私を指さす。


「入学試験のあの日から、起こるはずがないことが起こるの! 何度考えても、あのとき、本当はフィニアスしかいないはずの場面にあなたがいたのがおかしいのよ! リリアンヌ・クロフォード! あなたいったい何者なの!? 私と同じ***なの?」

 まただ、急にマーガレットの言葉が聞こえにくくなる。


「誰と好感度をあげるかでスチルが違うだけだけど、とにかく次の次、二年の夏を終えてすぐ、魔王が復活するの。それに立ち向かうのは私と、ギルベルト、アーノルド、クリフォード、デクラン、オズモンドにフィニアス、イライジャ。この八人なの! 揃っていないと、勝てないんだから!!」

 肩で息をするマーガレットに再びラーヴェリヒ陛下が問う。


「魔王が、復活すると?」

「そうよ!」


「魔王は私なのだが?」


 聖女は、へっ? と間抜けな声を漏らした。


 そうなのだ。魔王はラーヴェリヒ陛下だ。


 正確には魔族の王だ。とは言えもう長い年月を経て多少は人とも混じり、力も弱まってきている。それが強く発現するのが赤目だ。

 それ以前に、魔族が暴走を起こすと魔王として力を振るい、魔物が活性化するのだが、五百年ほど前にそれを抑える技術を得たとかで、穏やかに国同士やっていけるようになった。


 アーランデ国は、きちんとした国として認められるようになったのだ。


 あ、と心の中で叫ぶ。

 そうか、魔素石がそれに関わっているのだろう。後でフィニアスにこっそり聞いてみよう。


 そしてさらに、思い当たることができてしまった。


 私は手を挙げ発言の許可を取る。

「なんだリリアンヌ。申してみよ」

「発言をお許しいただきありがとうございます。その、マーガレットさんはかなり意味のわからないことをおっしゃっているのですが、わたくし気づいてしまったのです。ギルベルト、アーノルドと先ほど挙げたお名前。偶然ですが、大聖女エリザベート様のお話に出てきた聖女様をお守りした聖騎士たちと同じお名前なのです」

 その場にいた全員がハッと目を見張る。

「確かに、ギルベルトの名は聖騎士ギルベルト様からいただいたものだ……」

「アーノルドもです。名付けをするときに参考にいたしました」


 そして皆がマーガレットを可哀想なものを見る目で見つめる。私からすればやはりフィニアスのことを知っていたのが引っかかるが。


「エリザベート様が倒したのが最後の魔王様です。その後魔王様の狂化を防ぐ方法を見つけたとか……?」

「ああ。大聖女エリザベート様が共に編み出してくださった方法で、我々は平穏に暮らしている。もう同じ轍は踏まぬ。フォースローグ王国ともあれ以来良い関係を築いていただいている」

「こちらこそ、アーランデ国とは今までも、これからも良い関係でありたいと思っている」

 マーガレットはエリザベートと何度もつぶやいていた。


「マーガレットさんはその、大聖女様とご自分を重ねてしまったのかも……」

「エリザベート……デフォルトの名前が……確か……嘘、嘘よ……」

 呟き続ける彼女を、騎士が連れ出す。


「ちょうどよい、ギルベルト、そなた神殿に行くがいい」

「父上!?」

 それは、貴族としての権利すらなくなるということだ。

「今回神殿の財産目録を提出するように言ったが、ひどい有様になりそうだ。大神官の首をすげ替えることになる。だが、このような掃除後の大神官には誰もなりたくないだろう。神殿で、己の生を見直すが良い」

 愕然とするギルベルトもまた、退出を促される。あの強気な姿が見る影もない。

 これで一段落ということでお茶が用意された。こんな中で飲むお茶は、まったく味がしない。私ももう退出して良いと思うのだが……複製した証拠を出すまでもなかった。


 一息ついたところでメイナードが声を上げる。

「本当に四公にするつもりか?」

 国王陛下にそんな口をきけるのは彼だけだろう。

「侯爵を繰り上げればいいというわけでもない。なんだ、欲しいのか? いいぞ、今回のことといいこれまでといいそなたには山程借りがある」

 その返事に、メイナードはふむ、と言って少し黙り、今度はスカーレット様を見る。

「同年代には家格的に釣り合う者がいないだろう。すでに皆婚約者がいる。嫁に来るか?」


「いやいやいやいやちょっとまってください!!!!!」

「何を言い出すのだ!?」


 ラングウェル公爵より声張った!!

「スカーレット様!! メイナード様は学生の時山程女性とお付き合いしたらしいですよ!? そんな方とは絶対ダメですってぇぇ!!」

「そうだ! 結婚すれば面倒なことが多いと遊びまくっていた男だ!!」

「誠実の欠片もないじゃないですか!! 絶対絶対ダメです」


「リリアンヌ! おだまりなさい!!」


 お母様の一喝で私は席に着く。ついでにラングウェル公爵も黙った。

「だが、ちょうどよい婚約者がいないのも事実だろう? 私がウォルポート公爵領を引き継ぎ治めれば公爵同士だ。問題ないと思わないか?」


「そーいう「リリアンヌおだまりなさい」」

 お母様からの二度目の叱責。次、ないやつ。

 むぐぐぐぐと口をつぐむ。

「外野は黙っていなさい。スカーレット、君はどうなんだ?」

 なんか余裕の表情なのが憎たらしい!!

 だって十以上年上だよ!?

「わたくしは……悪く、ないと思います」

 わかっていた。この間、ダンスの手を取ったスカーレット様を見たときから気付いていた!!!

「曖昧な答えだな」

 そんなことを言いながら笑う。あー憎たらしい!!


「メイナード様こそ!! スカーレット様のどこが良いのですかっっ!! わたくしはたくさん良いところを言えます!」

 お母様から三度目の叱責が届く前に、メイナードは簡潔に答えた。

「私は馬鹿な人間が嫌いだ」

 うわぁ……。

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