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【本編完結済】逆行令嬢リリアンヌの二度目はもっと楽しい学園生活〜悪役令嬢を幸せにしてみせます!〜  作者: 鈴埜
【本編】

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66/82

さあ、始まりました!!!!

 ダンスは少しずつ場所を移動しながら踊る。特に今のようなゆっくりなものはごくごく少しだけ。

 つまり最初の場所からほとんど動かない。

 私とフィニアスはギルベルト殿下というより、マーガレットに見せつけるよう目の前で踊った。たまに目の端に映る彼女はとても悔しそうな顔をして、そしてギルベルト殿下に語りかけている。

 やがて、曲の途中、二人は手を繋いでダンスの輪に加わった。

 さすがにこれは、周囲がざわりと動揺するのがわかった。


 ああ、やってやった。


 そして彼らはやってしまった。


 最高に楽しくて、フィニアスを見て笑った。彼も嬉しそうに手のひらをきゅっと握り返してくる。

 お互い礼をして、ダンスは終わる。私たちがスカーレット様の下に行くのと一緒に、ギルベルト殿下もマーガレットとともにスカーレット様のいる方向へ向かった。

 


 そうか、始まるのか。



 取り巻きたちもゾロゾロと、やってくる。

 その異様な光景に、次のダンスの曲が始まっても、踊り出す者はいなかった。

「スカーレット・ラングウェル」

 スカーレット様は名を呼ばれて小首を傾げる。

 私がすぐさま隣に立とうとしたら、フィニアスも一緒に向かってくれた。フィニアスのすぐ横にイライジャが立つ。

 メイナードは私と反対側に、スカーレット様に寄り添うように立っていた。


「そなたが行った数々の悪行、見損なったぞ」

 このくだりは同じなのか。

「いったい何のことでしょう? 覚えがありませんわ」

「そう言ってられるのも今のうちだ! そなたがマーガレットを害しようとしたことは聞いている」


 その言葉に、さらにスカーレット様は首を振る。

「申し訳ございませんが、わたくしがなぜマーガレットさんを害しなければならないのでしょう。思い当たる節がございません。教えていただけますか?」

 余裕の表情に、ギルベルト殿下は一瞬たじろぐが、後ろを振り返り取り巻きのニコラスに合図をした。

「こちらがスカーレット・ラングウェル公爵令嬢が指示し、マーガレット様を害した事柄です」

 何やら書きつけた紙をギルベルト殿下に見せる。ギルベルト殿下はそれをちらりと見やり、眉をひそめた。

「人としてどうかと思うな。皆に聞こえるよう知らしめてやれ」


 ニコラスはそれではと、罪状を述べ始めた。


「マーガレット様の根も葉もない噂を広め、マーガレット様を妬み、マーガレット様を傷つけたことはまことに罪深いことです」


 んんんんん?? 待って待って、具体的には? え、前回アーノルドが言ったときはもう少しマシだったが? 側近の質なの?


「もう少し具体的に言っていただけませんか? わたくし本当に、何をしたのでしょう?」

「マーガレット様が愚か者だと触れ回り――」

「ケルピーに愚かにも乗ったときのことなら真実ですわね。そう結論付けたでしょう? それにわたくしはその事実を知りませんでしたし。結局それを皆に知らしめ恥ずかしい思いをしたのはマーガレットさんじゃございませんか」

 同じ話を蒸し返すな。今回は本当に悪口を発信しないよう言い聞かせていたので、本当に言ってないからバリエーションがないのだろう。根も葉もない噂の件はこれで終わり。


「それで? 次の妬み、とは? 正直、マーガレットさんのどこに妬まなければならない要素があるのか……」

「何を言う! マーガレット様は素晴らしいお方だ! なにより聖女でいらっしゃる!」

「聖女という役職には微塵も興味はございませんが?」


 スカーレット様は艶然と微笑む。

「だって、毎日聖力を結界に注ぎ込むだけでしょう? わたくしそんなお仕事つまらないわ」

 マーガレットが目を見開く。

 おい、そこは泣かないと。よよよと泣き崩れてギルベルト殿下にすがれ! あれ、これ、スカーレット様、私が大神官に言い放った言葉知ってる!?


「マーガレットさんがわたくしより優れているのって、聖女であるということだけでしょう?」


 そうですね!!

 ほんとそうですよ!!


「そうですね。マーガレットさんのお立場は別に羨ましくなんてございませんねぇ」

 私が他の令嬢たちに語りかけると、皆がそうそう、本当に、と笑い合う。


 うわー、傍から見ると嫌な笑いだわ。でも、同時に、それはまあそうかと思わせるだけの力がスカーレット様にはある。


「さあ、次へ参りましょうか? 傷つけた、でしたっけ?」

 その言葉にニコラスは息を吹き返す。

「先日、マーガレット様めがけて植木鉢が落とされました。危うく大怪我をなさるところでした。そこは、皆さんがお茶会を開催されている部屋の真下」

 きたきた。あの日だ。

 スカーレット様は小首を傾げて私を見る。頷き返すと、一歩前に出た。


「ニコラスさんのおっしゃってる日付、確かにわたくしたち、お茶会を開催しておりました。外が騒がしかったのも覚えています。そして、奇しくも、なぜかバルコニーにあった植木鉢をわたくしが割ってしまった日ですわね」

 取り巻きたちか驚く。

「珍しくリリアンヌが粗相をしたのよ、覚えてるわ」

「お恥ずかしい限りです」

「危ないからすぐ片付けていただいたのよね。先生にも報告して、他に植木鉢のようなものは無いのを確認していただいたわ」

「外が騒がしかったのはそのすぐ後だったわね」

 令嬢の口から次々と告げられる情報に彼らは眉をひそめる。


「それで? どこの植木鉢が落ちてきたと? だいたいお茶会開催会場はほぼ決まっているとして、マーガレットさんがその時間下を歩いているなんてどうやったらわかるの? 正直彼女にはなんの興味もないのよ」


 いやぁー! スカーレット様のその虫けらを見る目はダメです! そういったことは私に任せておいて欲しい!


「他にも、階段から突き落とした件があっただろう!」

「ああ、それもありましたわね。リリアンヌ!」

「はい! 準備いたします」

 私は小型化された映像を再生する魔導具を取り出した。ホールの壁はちょうど白い。

「こちら、あのバンドウェンゴ歌劇団が使ってらっしゃる映像を映し出す魔導具です。皆様あのバンドウェンゴ歌劇団の素晴らしい劇の再現は見られたでしょう? この映像も真実ですわ」


「え、映像!?」

 マーガレットが慌てだした。彼女はこれが拙いとよくわかっているようだ。

 私は準備をして映像を映し出す。皆が注目する。大講堂でやったような大型の物ではないので、自然と人が集まってくる。

「こちらは私視点ですわね」

 私の胸元のブローチからの映像だ。人通りの多い廊下。そこから階段下りへさしかかったところで、マーガレットの姿が。スカーレット様の陰に隠れてはいたが、突然後ろへ倒れる。

「だから、ここで私は突き飛ばされて!」

 決定的なシーンが映ってなかったのでマーガレットが喜色を上らせ訴える。


 馬鹿めが。


「さて、次にスカーレット様視点です」

「えっ」


 同じような映像。前方から来るマーガレットと、画面端にちらりと映るスカーレット様の手はまったく彼女に触れていない。むしろ、いきなりマーガレットが後ろへ飛んだようにも見える。


「スカーレット様は一切マーガレットさんに手を触れておりませんね。本人が自分で後ろ向きに倒れたようにしか見えません。足でも踏み外したんじゃないのですか? あと、あのときも申し上げましたが、薬草学の実習に向かっていたはずなのに、なぜマーガレットさんはそちらからやってきたのでしょう?」

 忘れ物などない。身一つで授業を受けるはずだった。


「よ、よく覚えておりません」

「階段での出来事はそちらの言いがかりだということはわかりましたね? マーガレットさんはかなり虚言癖があるのか、頭を打ったかして記憶が曖昧なのか。まあどちらでも良いですけれど、他に何か言いがかりはありまして?」

 言いがかりという言葉に取り巻きが色めきだつが、本当に今回は何もしていないのですよね。


「それでは次はこちらからですね」

「なに!?」

「リリアンヌ?」

 スカーレット様までその反応で、周囲は私に注目した。

「まず、冬休暇前の薬草学の実技試験で、わたくしとスカーレット様のボロネロ草にとても品質が悪い物が半数以上まざっていました。他の生徒の薬草には一切混ざっていなかった」


「そ、それは今はまったく関係のない――」


「おだまりなさい、マーガレットさん。そちらの茶番に付き合ったのだからこちらの話も皆様に聞いていただきましょう」

 スカーレット様がぴしゃりと言い放つ。

「その頃学園の薬草類を納入していたのは、グレイス・バレンシア男爵令嬢のご実家です。そうですね? グレイスさん」


 私が名を呼ぶと、マーガレットの取り巻きの中から、はい、と返事があった。そして彼女が前に進み出て――私の隣まで来る。対するはそれまで付き従っていたマーガレットだ。


「わたくしと、他数名で、とても品質の悪いボロネロ草を、スカーレット様とリリアンヌ様のものに混ぜ込みました」

 罪の告白に周囲がどよめく。

「マーガレットさんにそうしろと?」

「いいえ、マーガレット、さんはそんなことを直接言いません。絶対にやれとはいいません。けれど、男爵令嬢だと馬鹿にされて悔しい。聖女だろうが魔力が無ければ意味が無いと言われて悔しい。試験の邪魔をしてやりたいだなんて少しでも考えてしまう自分はなんて罪深いんだろう。少しでもそんなことを考えてしまった己が恥ずかしい、と言います。それに対して周りは、思って当然だ。それだけのことをされたからと慰めるのです。このときもそうでした。試験を邪魔してやりたいという望みを、周囲が叶えるように誘導するのです」

 顔色を変えているマーガレットに、グレイスは真っ直ぐ目を向けた。


「やれとは言いません。誰かが薬草を品質の悪い物に変えたらどうなるかと面白がって言い出すんです。それに皆が同意する。そして、私に注目するのです。親の家業ですから、それを貶めるような真似はしたくありません。ですが、皆が私を見るのです。マーガレット様のために働けるのか? と……あのときは本当にご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます」


 私を呼び出し、グレイスの実家について話した時、マーガレットは自分は何も言っていないとグレイスを切り捨てた。


 私はそれを拾っただけ。 

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


次回はお約束のお約束。

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