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【本編完結済】逆行令嬢リリアンヌの二度目はもっと楽しい学園生活〜悪役令嬢を幸せにしてみせます!〜  作者: 鈴埜
【本編】

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赤目の力の前にはなすすべなし

 数名の教師の間には事実が告げられたが、私の名誉のためということでおおっぴらにはされなかった。相手の三年男子学生にも厳重注意が告げられたが、処分までには至らなかった。処分をすればその理由が広まる。

 お父様と学校側で色々と話し合われてそうなった。

 というのも結局これが噂として広まることが相手の思うつぼなのだ。

 そして、せっかくだからとこちらも罠を張ってある。つまり、この話は絶対に表に出る。そのとき、正しい情報がどこから出てくるかが一番の問題。

 お父様は私の名誉がとかなんだかんだと言っていたが、起こってしまったことはせっかくだから利用すべきだ。

 それに、今はそれ以上の噂が学園内を渦巻いているのだ。

 つまり。


 フィニアスの遠慮が完全になくなった。


 四六時中私と一緒にいて、呼び方も大勢の前で呼び捨てにする。移動時のエスコートは当然。食堂でも、大講堂でも、談話室でも、いつも一緒だ。

 そうなると爆発寸前なのはジュマーナである。


「朝食はわたくしと一緒よ、フィニアス」

「いとこだからと呼び捨てにはしないでくれるかな? 朝も昼も夜も、私はリリアンヌと一緒だから邪魔しないでくれ」

「じゃっ、邪魔!?」

「さあ行こう、リリアンヌ」

 最近は朝食の時間になると寮の前で待っていてくれる。


 ジュマーナの出現により期待を抱いていた者たちが、とうとう諦め、現実的な結婚相手探しに方向を変えたという話があちらこちらから聞こえてきた。


「ちょっと言い過ぎではないですか?」

「あれくらい言わないと、諦めないし次の手を打ってこない」

 今回のことの黒幕はジュマーナだとフィニアスは結論づけた。ただ、彼女はまだ学園に来て日が浅い。あれほどの逸材を探り当てたのはマーガレットの派閥のものではないとか思う。あの二人が繋がっているのは明白なので私もそこに異論はない。


 フィニアスはとても怒っていた。

 ただ相手も王女である。さらに言えば国王候補の王女だ。国へ追い返すことが出来れば一番だが、本人に任せるというアーランデ国の意向から、単に帰れというのは難しいのが現状だ。

 決定的なしでかしをしてもらわなければならない。

 その決定的なしでかしが、なかなか難しかったのだ。


「だから、煽れるだけ煽ろうね」

 楽しそうに言う。


 私の側にいるということは、自然とスカーレット様の周りに、令嬢たちの輪の中にいるということだ。

 食堂での日々の話題は私たちのことだった。

「あらリリアンヌさんはまた新しい髪飾りなのね」

「もちろん私のプレゼントだ」

「本当にフィニアス様はご趣味がよいですわ。大粒の宝石もいいですけど、小粒のものがこうやって連なっているデザインは素敵ですわね」

「リリアンヌに似合うと思って私が選んだ」

 私は黙々と食事に精を出している。


「愛されているって感じで羨ましいわぁ」

 とはコリンナ。横でクリフォードがお茶にむせていた。

「コリンナが望むなら髪飾りを一緒に買いに行くよ」

「あら、クリフォード様、嬉しいわ」

 おねだり上手さんだ。


 そしてこんな私たちの会話を、わりあい近い席で聞いているのがジュマーナだった。この頃になると再びギルベルト殿下はマーガレットと食事をとるようになっていた。以前のような後ろめたさがなくなっている気がしてこちらも不気味だ。

 早々にジュマーナの件の決着をつけてあちらへ真剣に取り組みたいところ。

 




 また呼び出しをくらいました。

 今度はジュマーナ本人からだ。

 あの後こっぴどくそれぞれから説教をいただいたので、今回はきちんと先にフィニアスに相談をします。

 が、相談しに行く前に呼びだした本人に捕まるのは想定外。

 いや、女子寮の中なのだから当然か?


 授業の後、今日はフィニアスは風魔術の教師の下へ行くと言っていた。なので私はスカーレット様と図書館で一緒にと約束をして部屋に戻ってきたところだった。部屋の扉の下に差し込まれた手紙が、ジュマーナからのものだったのだ。

「すぐ来るなんて良い心がけですこと」

 違うんだけどなぁ。さてどうしよう。


 彼女の護衛騎士も一緒で無理矢理逃げるのはちょっと難しい。ただ、人目があるのでフィニアスか、誰かしらに話が伝わることを祈る。いざとなれば本気の火柱でも打ち立てて驚かせて逃げよう。

 ちなみに、向かったのは学園敷地内の外れにある薬草園だ。

 うーん、燃やしたら怒られそう。補填……できるかなぁ。


「今日はお話し合いがしたくてお呼びいたしましたの」

「話し合いなら談話室で出来ると思うのですが……」

 ジュマーナは私の数歩先に立ってこちらを向いているが、騎士は薬草園の入り口に立っている。

 本当にお話し合いがしたいのだろうか?

 今日ももちろんブローチをつけていた。


「話し合い如何では、それなりに現実を知ってもらわねばなりませんからね」

「話し合いにならなそうですわ」

 基本煽って良いと言われている。この間の威圧はこわかったんだけどなぁ。

「単刀直入に言いますわ。身分をわきまえなさい。アーランデの第三王子と子爵令嬢程度が釣り合うはずがないでしょう」

「私もそう思うのですが……恋は盲目とはこのことですね」


 ねっ!


 一応私はあのとき覚悟したのだ。髪飾りを受け取ったとき。

「本当に生意気だわ! 身の程知らずの赤毛が!」

「この赤毛も可愛いって言ってくださいますよ」

 言ってて正直こちらが恥ずかしくなる。


「ジュマーナ様はフィニアスさんを王配とするおつもりなのですか?」

「ええ、彼はその地位にふさわしいだけのものを持っているわ」

「では、ジュマーナ様が女王になれなかったときは?」

 私の質問にきょとんとした目をした。

「フィニアスを得られれば女王の座は確実よ?」

 彼の国のシステムをそこまで熟知していないが、その様子だと本当なのだろう。


「では、フィニアスさんは女王になるための手段ですか」

 ただ、この言葉は彼女をとんでもなく怒らせたらしい。

 赤い瞳がさらに燃えるように光り出した。恐ろしいまでの威圧にしばらくの間息をすることも忘れた。

「フィニアスが手段ですって!? 何年も、何年も想ってきた相手よ。あの卑怯な女の手で罠にはまり、一度は婚約が解消された。けれど、わたくしは一瞬だってフィニアスのことを忘れたことはなかった。わたくしはフィニアスがいい。彼の側にいるのはわたくしでなければならない。再びチャンスが訪れた。これは運命よ。わたくしとフィニアスは結ばれる。そういう運命なの!」


 こわああああ!!


 威圧が、最初から覚悟していなければ一ミリだって動けなかった。覚悟していてもこれだ。声を絞り出し口を動かすのが精一杯。

 大丈夫なのかこれ、本当に。


「そこまで想っていて、己を愛してはいない人と結ばれて幸せですか?」


 瞳の赤が燃えさかる。


 教えられていた現象だ。本当に目の辺りに火が点っているように揺らいで、圧がさらに強くなった。

 これが、赤目の力であり、王となる者の資格なのだと。

 フィニアスも彼女と同じような圧は出せるそうだ。しかし、瞳に炎は宿らない。

 そして、心の底ではわかっていたことを暴かれたジュマーナは理性を失った。


「ジュマーナ様!」


 騎士が駆け寄るより早く、ジュマーナは力を振るった。

 一撃で、普通の人なら死んでしまうほどの魔力の圧をそのまま放つ。

 私は、覚悟していたとはいえ後ろに吹っ飛び大切に育てられた薬草園へ突っ込む。

 魔術で、身体強化で逃れられるような代物ではない。

 呪いとも言える力だそうだ。


「ジュマーナ様!」

 再び騎士の声が聞こえる。

「あ……」

 我に返ったジュマーナがうろたえる。

 そう、彼女からしてみたら私は確実に今死んだ。


 気持ちは死んだと思いましたよ。例のギルベルト殿下の拳よりきつかった。胸が詰まって息をすることがままならない。体中に魔力を巡らせなんとか呼吸をしようと口をぱくぱくと何度も開け閉めする。


「リリアンヌ!」


「フィニアス!?」

 悲鳴のようなジュマーナの声。


 そして無様に倒れ込んだ身体を起こされようやく細かく息ができるようになってきた。自分の胸元を見下ろす。ブローチは無事だ。

「リリアンヌ、身体は」

「だい、じょうぶ。一時的な、ものです」

 ほっとした息を吐くフィニアス。だがジュマーナはまた違った叫び声を上げた。


「なぜ生きているの!?」

 しかしそれに答えたのはフィニアスだった。

「なぜ、だと? つまり殺す気でやったということか」

「ち、違います。ただ、あれで生きていられる者はそういない、はず」

「相手を死に至らしめるほどの攻撃を出したと。お前に、風魔術でそれだけのことはできない。つまり、そなたは、他国で使うことを禁じられている赤目の力を使ったということだな」

 ちなみに、フィニアスもブローチをしている。

 おそろいです。

「そ、その女が!! わたくしを侮辱するようなことを!!」


「……連れて行け。明日中に国に帰れ」


「ダメ、ダメよそんなの。わたくしはフィニアスと、フィニアスを!」

 騎士がジュマーナをなだめながら促そうとするが、彼女はいやいやと身体を振ってそれを拒否する。

「でははっきり言おうジュマーナ」

 よく通る低い声でフィニアスは言った。


「私はリリアンヌを愛している。国にはもう帰らない」


 それ、私へもダメージが入ります……。

 抱きかかえられている状況でちょっと強すぎる。

 そして、ジュマーナへは決定的なものだったようで、絶望の様相で崩れ落ちた。それを騎士が引きずるように連れて行く。


「リリアンヌ立てる?」

「はい、身体のどこも、痛くはないです」

「本当? 何で顔を隠すの?」

 これ絶対わかって聞いてる。


「フィニアスさんは、いじわるですね」

 立ち上がってまともに顔を見られないので思わず覆っているのだが、一度隠すと今度はその手を自分では外せない。


「とにかく、フォレスト先生の研究室に行こう。怪我がないか見てもらわないと。魔導具も、壊れてないか? ジュマーナの圧を全部喰らって、それでも足りなかったからな」

 予定通りとはいえ、やはり相手からの攻撃を食らうのはきつかった。

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