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グーっと集めてぎゅっとしてください

 上手くいかずに悩んでいたであろう面々がこちらを見る。


 もおおお!


 それでなくても首席で目立っているのに勘弁してほしい!


「良いアドバイスができれば、週に一度枷を外した魔力練りに付き合いましょう」


 え、女神?


 私も現金なものである。立ち上がり皆に語りかける。


「まず魔力を練るというのは、魔力濃度を濃くすることです。その濃い魔力を体中に巡らせることにより、刺激され産み出す魔力量が増えていきます」


 両手を大きく広げる。


「この空間に百の魔力があるとします」


 そして次は手の指が付くくらい小さくする。


「同じ百の魔力でもこちらの空間の中にある方が濃い魔力です。ゼリー入りジュース、お好きですか? ゼリーが魔力の粒とします。この中のゼリーのパーセントを増やすにはジュースを捨てるのが一番です。そういった作業ができる人はそれで魔力濃度を上げてください。いまいち掴めない方は、ゼリーの粒がとても小さくてジュースと判別つかないくらいだとしたら、もう力技です。大きな空間を、ぐっと小さく無理矢理に押しやる。ジュース部分もぎゅっと握りしめればゼリーに変化します」


 手を広げたところから力を込めているようにゆっくり手をくっつけた。


「ちなみに私は、魔力濃度を上げたあと体内を巡らせるわけですが、これを血管に沿って行うため魔力を小さい穴を通して血管に送り出すような想像をしました。私の手のひらに乗っている魔力の塊を、ぐっとその小さな穴に押し込みます。魔力は練る。螺旋状に魔力を穴へ押し込み、体内へ巡らせて――」

「はい! 皆さん。リリアンヌさんのお話を元に自分なりの方法を模索してくださいませ」


 唐突に話をぶった斬られた。

 顔をそっと寄せてきて囁く。


「やり過ぎですよ、あなたは。生徒の顔を見ていましたか? 皆さんまるであなたに洗脳されるがごとく魔力を練り上げ始めたではありませんか! 大事故になりそうです」


 え、そんなヤバそうな状態だった?


「リリアンヌ嬢の言葉を聞いていたらなんだか出来る気になってきたよ」


 フィニアスが笑って手のひらを丸く、ボールを握っているような形にしていた。


「いいですか? 限界がわからないでしょうから少しずつです。魔力は少しずつ上げるものです」


 結局、以前よりもさらに多く、百人近くが緊急措置を取られることとなった。デヴァルー先生に睨まれる。


「まあ、限界を知ることは大切だな」


 ギルベルト殿下がこちらを見ながら引きつった笑みを浮かべていた。

 フォローしてくれたのか? いや、ないな。





 すっかり優等生の烙印を押されたので、私は成績を維持するためにかなり忙しい生活を送っていた。確かに二度目の授業は簡単に思えるし、ベースがあるからこそその先も見える。

 だがそれも二年までだ。

 それ以降は私も何が起きるか知らない。

 なので今努力しておくことは無駄とは思えなかった。


「リリアンヌ、また夜更かし? 美容に悪いわよ〜」


 同室のアンジェラに言われて座ったまま伸びをする。


「そうだね、今日は早く寝る」


 子爵令嬢レベルの部屋はベッドはシングルがそれぞれ壁際に。机が間に二個並び、クローゼットとチェスト。それだけで終わりだ。

 風呂はもちろんない。洗浄の魔導具があるのでそれで済ませる。衣服もそれできれいになるので私は機能的だと思うが、基本全部使用人任せの貴族の子供達は冬が来る辺りまでは不満でいっぱいだった。


「陽の日に、神殿で聖女認定されたらしいわよ、あの子。もうみんなデレデレだったわ」

「とうとう出たのね〜クリフォード様あたりは、自分が聖女の騎士になる! とか言い出しそうね」

「いやー、それがさ、土の日にお忍びデートをした話を延々男子どもに語ってたわあ」

「あら、コリンナ様と?」

「しかもダブルデート。アーノルド様とアイネアス様、四人でデートしたんですって」


 なんか進化してる。本がいい仕事しているのか。


「あのお固いアーノルド様がこっそり城下にですか?」

「こっそりではないそうだけどね。ちゃんと申請してデートですって」


 そこはアーノルドだなぁ。

 明日聞いて感触をみてみよう。

 ちなみにコリンナは同じクラス。アイネアスはBクラスだ。


「とても仲が良さそうですね」

「ええ、コリンナ様は割となんでも自分でしようとされる方だったそうですけど、最近は甘えてくださるとやらで、男子たちが羨ましがっていたわ」


 よしきた!

 やっぱりそこか。

 コリンナの性格と、クリフォードの性格、そして言動を解析して私が出した結論にドンピシャだったようだ。


 コリンナは、騎士としてはとても優秀だが他の面では少し……抜けているクリフォードをしっかりさせたい。足りない部分は自分が補うと奮起されていた。間違えてはいないが、彼の言動や行動を見ると、守りたい、助けたいという気持ちが大きいのではないかと分析した。つまり、クリフォードは頼られたいのだ。

 そしてお兄様に、そんな二人が惹かれ合うようなストーリーを頼んだのだ。

 たぶんアーノルドの方も同じように上手くいったのだろう。こちらも自分なりの分析をお兄様に語ったのだ。


 しかし、まあまだまだ油断せずに二人の仲を深めるよう働き掛けねば。


「マーガレット様は聖女としての訓練もなさるのかしら。大変ね」

「らしいけど、聖女の訓練ってどんなものなのかしら、よく知らないわ」


 アンジェラは学園に結婚相手を探しに来ているタイプだ。情報はガツガツ手に入れてくるが、勉学は興味なさげ。


「神学について書いてある本がいくつか図書館にもあるわよ」

「必須科目だけでも大変なのに、余計な本読んてる暇なんてないわ」

「聖女の仕事は、この国の防壁魔導具に聖属性の魔力を注ぐこと、さらに、神殿での治癒行為ね。光や水属性の治癒より性能がいいから。あとは、今はそんなに現れないけれど、闇属性の深淵の魔物たちに対して絶大な効果を発揮する魔法があるらしいわ」

「歴代の聖女が魔力を注いで溜めているから、防壁魔導具は十分に力を発揮しているらしいものね」


 現状マーガレットに仕事はない。治癒を学び、あとは政治に利用されるだけだ。そう考えると少し可哀想だとは思う

 もしかしたらあのあと、聖女とならと、ギルベルト殿下との婚姻を認められたのかもしれない。

 認められる方がいいのだし、その後王妃として振る舞えるような教養が必要なのではないか?

 なんならそれをサポートしてやれば。


「またリリアンヌの考え込む悪い癖が出てる」


 アンジェラが眉間のシワをぐっと押してきた。


「んああ、ごめん」


「せっかくの可愛い顔が台無しよ。お肌のお手入れまだでしょ、ほら。寝転んで。やってあげるわ」


 前回よりアンジェラのサービスが手厚い。首席からの試験対策というご褒美。さらに彼女の興味や何から何まで知り尽くしている。一週間も経たないうちに二年分の距離を半分以上縮めた。


「この化粧水いい香りね」

「あらお目が高い。グラドン商会のお試し品です。ユージン・グラドンというグラドン商会の長男がFクラスにいてね、彼が女子生徒何人かに配った分よ」


 そう、そうだ。

 このグラドン商会の化粧下地は大ヒット商品になるのだ。ただ、工場を稼働させるための承認と資金に困っている。


「……ねえアンジェラ、彼に子爵ではあるけど、うちの後援欲しくないか話を通したいのだけど」

「あら、商売の話? 私への見返りは?」

「次の試験の山張り」

「もう少し!」

「うーん、上手く行ったら考えるわ」


 そう言いながら引き出しから便箋を取り出した。

 父は商売ごともなかなか上手い。

 この商品はちょっと本気を出して取りに行くべきものだ。

 なぜなら、あのマーガレット・トルセイの親、トルセイ男爵がこのあと後援して富を得るのだから。





「リリアンヌは商売に手を出したの?」


 食堂で昼食を摂っていると、スカーレット様が小首を傾げながら尋ねてきた。


「お耳が早いですね。まだ工場地を探している段階ですのに」

「ギルベルト様に聞かれたのよ」

「ギルベルト様、ですか?」


 マーガレットじゃないのか。


 そのギルベルトはこの時間剣技の授業に出ていていない。リリアンヌは剣技よりも武術の方が気になるのでそちらの授業を多めに選択していた。


「なんでもマーガレットさんが熱心にユージンさんとお話されていて、そこに居合わせたそうよ」


 やはりあの女だ。


「同室のアンジェラさんが、サンプル品をいただいたそうで、その香りが本当に好きなものだったんです。化粧水もそう悪くなかったので。それでユージンさんとお話させていただいたら、製品化を狙っていると聞いたものですから、お父様に相談しました」


 スカーレット様もお気に入りの商品となる。しかもこのグラドン商会、この化粧下地品をきっかけとして、次々にシリーズ品をヒットさせていく。なかなかの遣り手なのだ。先を知っているからこそ囲っておいて損はない。マーガレットも試供品を試して気に入って支援することになったのだろう。

 そう言えば、聖女も使うだとかなんとかやってたな。それでヒットしたのだったら困るから、こちらも売るための方法を考えねば。

 スカーレット様も愛用の、でいける気がするが。

 商品としては素晴らしいものだし、大丈夫だとは思うが。


「ギルベルト様は、マーガレット様とお話をなさるのですね」

「先日陽の日に、昼食をご一緒したそうよ」

「まあ、聖女様ですから、次期王として良い友人関係を結んでいくのも一つですね」

「ええ、そうね」

「正当な手続きを踏んでいますし、問題ないとは思うのですが、何かあればお話しいただけると助かります。もしマーガレットさんも気になってらっしゃるのなら融通します。聖女様御用達、なんて、売れそうじゃありません?」


 一緒に食事をしていた他の令嬢たちも、それは売れそうだと頷いた。


「陽の日といえば、妃教育はどうでしたか? カタリーナ様もご一緒でしたよね」

「とても、とても大変でした……」


 カタリーナの表情に翳りが見える。

 以前は腰巾着よろしく図々しくも一緒に登城して控室でずっっっっっと待っていた。魔力を練ったり、学校の教本を持ち込んで読みふけっていたり。メイドの方がかなり気を使ってお茶やお菓子をと言ってくださったが、無理矢理ついて行っているのでお断りしていた。


「慣れが大切だから。学生生活の三年間と、あなたはオズモンド殿下がご卒業されるまでさらに一年あるので大丈夫よ」

「頑張ります」


 他の令嬢たちが気の毒そうにカタリーナを見ていた。


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