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5、おひさま王子様と、新年の誓い

 

「えっ、結構です」

「なにっ、遠慮するな」

 

 えっ、さすがにこんなに軽いノリでお妃様を決めちゃだめでしょう?

 

 原作では仲間キャラ全員の中からプレイヤーがお妃を選べるシステムで、悪役令嬢のルルミィは敵キャラなので対象外だったんだよ? 

 

 ちなみに、男キャラもお妃に選べるというのがSNSで話題だった。

 『光の王子と宝石騎士団』には老若男女魅力的なキャラがたっぷりいた――それはもうカップリングがはかどり、二次創作も人気カップルからマイナーカップルまで日々生産されて、プレイヤーたちは楽しんでいたのである。

 

「遠慮じゃないです……私は対象外です」


 私が首を横に振ると、エイデン王子は真似するように首を振った。

 

「対象外ってなんだ? お前、たまにわけがわからないことを言うよなあ」

「あ、でも二次創作ならあったかも」

「虹がどうした?」

 

 二人で話していると、アルバートお兄様が割り込んでくる。

 お兄様はいつでも私を守ってくれる存在だ。優しくて頼もしい。

 

「殿下。妹が嫌がっているので、お妃様のお話はなしでお願いします」

「なんで嫌がるんだ? おれは嫌われているのか? 王子様だぞ? おれがんばるぞ? 国一番の男になるぞ?」


 あっ、エイデン王子がしょんぼりしてる。犬耳が垂れている幻が見えるよ。しょんぼりワンコだよ。ほっとけないよ。


「別に嫌っているわけじゃないです!」

「じゃあ、なぜだ? 他に好きなやつがいるのか」

「えっと」


 好きな相手はいない。

 でも、こういうときは「いる」って言うのが一番かも?

 私はあわてて相手を探した。パパって言うのは子どもっぽい。お兄様って答えるのも、ブラコンみたいだし。


「えっと、えーっと……」


 はっと目に入ったのが、まんまるの目で私を「大丈夫?」と見上げてくる精霊さんだった。猫のお耳をぴんと立てていて、すっごく可愛い。


「せ……精霊さんです! エイデン殿下も好きだけど、精霊さんがもっと好きです!」

「一応おれのことも好きではあるんだ!?」

「うにゃーん♪(嬉しい)」


 この回答は良かったみたいで、エイデン王子は機嫌がよくなって「相手が精霊さんなら結婚できないしな。異性でもないしな」と言った。

 

 そして。

「ところで前から思ってたが、名前とかつけないのか?」

 と、精霊さんへの名付けを提案してくれた。

 

「精霊さんにお名前……」

「おれが考えてやってもいいぞ! シロシロとか、ワタワタとか。ユキユキでもいい」

「自分で考えようかなと思います」

「お前はおれに冷たくないか? もっと優しくしてほしい」

「えっ、すみません……」


 じゃあ、エイデン王子が考えてくださった名前から選ぼうかな?

 シロシロ、ワタワタ、ユキユキ……。


「どのお名前がいいですか、精霊さん?」

「うにゃーん!(どれでもいい!)」

 

 ニコニコ、なでなで。精霊さんは上機嫌……今後も、仲良くしてくれそうです!


「ふうむ。名前は、のんびり考えましょう……きゃっ?」


 のんびりと精霊さんを撫でていると、エイデン王子は急に私を抱き上げた。

 

「今できることを後回しにするな。今決めろ!」

「で、殿下っ」

  

 日々鍛えているからだろうか、軽々と私を持ち上げる腕は、じたばた暴れてもびくともしない。

 成長期のエイデン王子は、背もすらりと伸びていて、まだまだ伸びるぞ~って雰囲気だ。

 

「た、た、高いですっ。たかたかこわこわです!」

「たかたかこわこわってなんだ? こわいのか」

「こわいに決まってるじゃないですかっ」

 

 もともと高い塔の上なのだ。  

 さらなる高さに持ち上げられた私は、目の前のエイデン王子に慌ててしがみついた。


「そうか、すまんっ」

 

 あまり悪いと思ってなさそうな声で、どっちかといえば嬉しそうに謝罪される。

 悪いと思っていませんね? と顔を見た私は、近い距離にあったエイデン王子の屈託がない笑顔に目を奪われた。


 ……なんて嬉しそうな目で私を見つめるのだろう……。


「でもお前、やっとおれを見た!」


 「おれを見て欲しかったのだ」と輝く瞳は、あまりにまっすぐな好意を見せてくる。


「おれはお前を気に入ってる。わかれ」

「ひゃい」

「うむ。可愛いぞ、褒めてつかわす」

 

 つい頬を染めてしまう。

 

 助けて、アルバートお兄様?

 視線を向けると、アルバートお兄様は助け舟を出してくれた。


 このお兄様は「黙ってた方がいいかなー」って時は黙っていて、「助けた方がいいかなー」って時は助けてくれるという、実に空気が読めるお兄様だ。

 有能! 大好き!


「妹が困っています、そこまでですエイデン殿下!」

「おっと、おれの腹心のアルバートが妹に手を出されて怒ってるぞ! はははっ、許せ許せ! 返す前に一回だけぎゅーっと抱きしめちゃだめか?」

「だ、め、で、す!」

 

 塔の上に、まだ大人になりきらない前の少年同士特有の笑い声があふれる。

 そんな空気が心地よくて、私もつられて笑ってしまった。

 

「はははっ」

「あははは……!」

  

 笑いを治めて視線を交わすと、エイデン王子は言った。

 

「おれのルルミィは、本当に可愛い」

 

 どきんと心臓が跳ねる私を王子の腕から救出しながら、アルバートお兄様が「まだ婚約などをしていないので、妹は王子のものではありません」とつっこみしている。


「よーし、それなら、今年中におれはルルミィと婚約するぞーー! 婚約者を守る護衛騎士団もつくっちゃうぞー!」

 

 おひさまみたいな王子は元気いっぱいに塔の上で宣言して、私を真っ赤にさせた。

  

 こうして王国に死霊術の影が落ちることはなく、私の一家も悪役になることなく。

 私は(たぶん)平穏な日々を手に入れたのだった。



もしもこの作品を気に入っていただけた方は、お気に入りや広告下の評価をいただけると、創作活動の励みになります。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

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