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昔なじみの彼とえんぴつ

作者: 葵 紀柚実

最近えんぴつを使っていますか?


小学校は規則でえんぴつが指定だった。シャープペンが解禁された中学、片思いの彼の筆箱にはえんぴつがあった。

その彼と別の高校へ進学した3年間、私はシャープペンとこすると消えるペンを使っていた。

そして大学生の今、私の目の前で彼はえんぴつを使っている。

中庭に面した教室にいるのは、私と彼の二人きり。たいした会話もなく彼のえんぴつを走らせる音が響く。


再会は入学式。

「あれ?あぁやっぱりそうだ、久しぶり。俺、わかる?」

学生数の多いこの大学で顔を会わせるのは大変だと思っていたが、数回に分かれた式のため意外と人は少なめ。文学部が彼の学部と同じ午前でよかったぁ。

「ここ、受験してたんだ?」

彼は、偶然にも顔なじみがいて緊張がほぐれたと笑顔を見せた。

…偶然じゃない。だって、私が追いかけてきたのだから。


小学生のころ、彼は窓辺で本を読むような控えめな性格だった。運動が苦手な私も、昼休みなどは彼と同じで教室にいた。

中学で美術部に入った彼は同じ趣味の友人ができ、活発で明るくなった。

私といえば、週3回だからと演劇部に入ったはいいが、発声のための基礎体力作りとして課せられたジョギングに参っていた。

でも、まあ、校内のジョギングコースが特別棟を回るものだったので、カンバスに向かう彼をのぞき見したくて真面目に参加していたけれど。…いや不真面目か?


高校は別だった。

彼の学力が私のそれより上だったのだ。

失って改めて自分の気持ちに気がつく。

…好き。

彼への恋心を自覚した私は行動に出た。

同じ学区内に住んでいるのだから、駅や公園にいれば会えたかもしれないが、付きまとうというのは心象が悪い。

同じ大学へ入ろう。

彼と同じ高校へ進学した友人に志望校のリサーチを頼み、ダメで元々、

「私もその大学目指してたんだ」

ぐらいは言えるように。

学部は違ってしまったけれど、同じ大学の合格通知が届いた。

私、頑張ったよ。


入学式は正装。スーツ姿の彼はとても大人びていて、ドキッとする。

「もちろん覚えてるよ、久しぶり」

微笑みながら彼に返事をする。

「俺、大学でも美術系のサークルに入ろうと思ってるんだけど…その、嫌じゃなかったら、モデルしてくれない?」


他の部員が風景画を描きに校内へ散らばる中、彼は真剣な顔で私に向き合う。

今回は水彩画にするつもりだというその絵が完成したなら、告白してみようか。

そんな思いで彼の走らせるえんぴつの音を聞く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初恋の彼を追って同じ大学!なんて恋する力はすごいですね(^^) 爽やかな恋のお話で素敵な気持ちになれました!
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