第03話 町を出る
パーティー追放の宣告を受けた酒場を出た。酒場から俺への嘲笑が聞こえるけど、そんなことはどうでも良い。
「はぁ、これからどうするか……」
城下町の大通りをとりあえず歩く。歩きながら考える方が今は良いや。
大通りは昼間だからか、すごい人通りだ。この国は人間、エルフ、ドワーフ、獣人などが集まる多民族国家だ。世界的にも有名な【自由のダンジョン】が近くにあるため、一攫千金を夢見る冒険者が多い。
今後のことを考えると、いくつか選択肢が思い浮かぶ。
一つ目はこの町で冒険者を続けること。別のパーティーに入るかソロで活動して、ギルドの依頼を受けたり、ダンジョンでアイテムを回収したりして生活する感じか。
二つ目は別の町で冒険者を続けること。やることは一つ目と同じだけど、コネがないからパーティーに入るのは難しそうだ。しばらくソロになるなぁ。ソロは信用がなくて大きい依頼が受けられないから、多分稼げないんだよな……。
三つ目は冒険者を辞めて、相談役専門になること。でもこれはなしだ。俺には夢がある。若い時に莫大な金を稼ぎ、老後は自然に囲まれた場所に土地を買ってスローライフすることだ。そしてこの世界、最も稼げるとされている職は冒険者だ。
そこまで考えると、俺のスキル【コンサルティング】が発動した。
〔二つ目の選択肢が最適です〕
「えっ? 別の町に行った方が良いって? 何でだろ」
俺の【コンサルティング】の能力は大きく分けて二つ、『最適解』と『解決報酬』で、前者の効果が発動するとこうなる。
名前の通りで、状況に合わせて最適な答えを教えてくれる能力だが、なぜ最適なのかまでは教えてくれないのが玉に瑕だ。それに答えの候補になる選択肢はこちらで用意する必要がある。
単純なYES/NOの2択でも答えてくれるから、俺はパーティーにいた時かなりの頻度で利用していた。例えば強敵が出現した場合、勝てるかどうかを確かめたければ、「戦って良いか?」と問えば良い。
ふと気づくと、前方から若い冒険者のパーティーが歩いてくる。前衛・中衛・後衛とバランスが取れており、最近メキメキと実力を伸ばし、平均年齢16歳でC級冒険者にまで上り詰めた新進気鋭のパーティーだ。
ちなみに、以前このパーティからダンジョン攻略がうまくいかないと相談を受けた俺は、メンバーそれぞれの役割をはっきりさせ、バランスの良いパーティー編成にするよう提案した。本入達曰く、その結果ここまで成長したらしいので、俺の助言もそれなりに役に立っているみたいだ。
「やぁ、みんな。最近調子が良いようだね? C級冒険者への昇格おめでとう。また何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ。必ず力になる」
これから俺は仕事に困るだろうし、しっかり営業しておこう。
するとパーティーのリーダーが困ったような表情を浮かべて言う。
「はっ、はあ。ありがとうございます……。でもアランさん、【ライジング・サン】をクビになるって聞きました。あの勇者パーティーをクビになるなんて、アランさんに何か問題があったからじゃないかって思うんです……」
「この前のアドバイスは感謝していますが、あれって勇者パーティーのやり方を俺達に教えただけじゃないですか? 正直、アランさんはC級冒険者で俺達と同じランクですし、もうお世話になることはないかなって……」
えぇ、あのパーティーを追放されただけで、こんなに信用無くなるの……? あんなにふざけた奴らなのに……。
『勇者パーティーのやり方を俺達に教えただけ』って中々鋭い指摘だが、そりゃあそうだ。そのやり方は俺が考えたやり方なんだから……。それをこのパーティーに適用して何が悪い。
すでに俺をクビにすることは冒険者の間で広まってたらしいな。これも新メンバーを引き立たせるための戦略か何かか……?
「そうか。君達からの信用も失ってしまったようだね。残念だ」
俺が何とか自然に振る舞いそう言うと、彼らは気まずそうに小さく頭を下げて、俺の横を通り過ぎていった。
こんなこと言うとあれだけど、相談にも無料で乗ってあげてたんだけどなぁ。
俺以外にも相談役を名乗る奴らは山程いるが、仕事の仕方が違う。彼らは外から口を出すタイプだが、俺はパーティーの中に入りその場に応じて口を出すタイプだ。
そんな彼らが取る報酬は中々法外な金額だったりする。もちろん、凄腕の冒険者だった人が引退してコンサルタントになったりもしてるから、適正な場合もあるだろう。
俺の場合、【コンサルティング】の能力で依頼を達成すると報酬がもらえるから、それで賄ってた。勉強だと思って、色んな人から沢山依頼を受けて来た。
年間100件ぐらいは受けたんじゃないかな。それで得た利益は、将来のための投資と思って冒険の資金に費やしてきた。
結果的に色んな力がついた気がする。冒険以外の知識や経験も手に入れることができたから。
話し方も自信ありげかつ断定的な感じに変えた。何でかって言うと、これすごいウケが良かったんだよね。説得力があるとかで。まぁ、リリアンにはムカつく喋り方って言われたけど……。
若い冒険者パーティーが通り過ぎると、道の脇にいた良く知らない冒険者達が俺を見てクスクス笑ってるのに気づいた。何度か相談を聞いたパン屋の主人なんて、前までアランさんアランさんって声をかけて来てたのに、目も合わせない。
冒険者だけじゃなくて、町中にまで俺がパーティーをクビになったことが知れ渡ってるわけ……? 何なんだよこれ。
【コンサルティング】が町を出る方が良いって教えてくれた理由が分かった。もうこの町に居られないんだ、俺……。
もういいや、切り替えよう。ってことで冒険者ギルドに来た。何でかと言うと、ギルドにはほぼ毎日、他の町へ手紙を届ける依頼がある。この依頼を受けてそのまま町を出ようという訳だ。
基本、簡単な依頼なんだけど全然人気がない。なぜなら報酬は少ないし、数キロ離れたところまで移動しなくちゃいけないから、戻ってくる時間が無駄だからだ。
あっ、そういえば考えてみると、ギルドの依頼って個人で受けたことないなぁ。パーティーにいた時はリーダーだったシーザーが代表して依頼を受けてたし。
掲示板を見ると、あったあった、カナディアへの配達依頼かぁ。北にある小国だ。行ったことはないけど、たしかダンジョンもあってそれなりに賑わってるらしい。これで良いや。
依頼書を壁から剥がすと、突然【コンサルティング】が反応する。
〔この依頼は受け付け可能です〕
えっ?!
ってことはこの依頼を達成すればスキルの報酬が貰えるってことだ。ギルドの報酬もあるし、二重取りできんじゃん! ラッキー!
俺が直接ギルドの依頼を受けるとこうなるんだな、うふふっ!
早速手続きしようと受付に向かう。すると受付嬢が俺の顔を見てドン引きしている。おっと、例のキモい顔してたか……。俺にとっては歓喜の顔なんだが。とりあえず元の顔に戻してっと。
「ゴホンッ、この依頼を受けたいんだが」
「……アランさん個人で受けるんですかぁ? あっ、そういえばパーティーをクビになったんでしたっけ。個人で依頼を受けるのってリスク高いですけど、大丈夫ですぅ?」
ナチュラルにムカつくこと言うなこの人……。前まで俺のこと、勇者パーティーの賢者様とか何とか呼んでなかったっけ?
「ああ、絶対に大丈夫だ。手続きを頼む」
俺は自信満々に言う。絶対大丈夫な理由は、【コンサルティング】が依頼を受け付け可能と言ったからだ。
このスキルは達成出来る依頼しか受けられない。それが不便な場合もあるのだが、依頼が達成できるかできないかその場で分かるから便利だ。
「C級冒険者なら余裕でこなせる依頼ですし、アランさんでも大丈夫そうですねぇ。じゃ、お願いしまーす」
〔依頼を受け付けました〕
依頼を受けてすぐに町を出た。もうこんな町に居たくない。特に挨拶する相手もいないし、早速カナディアに向かおう。四〜五時間ぐらい歩けば着くかな。
そうして俺は、三年間過ごしたアメリゴの城下町を後にし、カナディアヘ向かうのだった。
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