第25話 強敵の出現
ひたすら馬を走らせ、俺はアメリゴに到着した。この町を出てそんなに経っていないはずだが、随分久しぶりに来た気がするなあ。
早速、行きつけの魔道具屋へ向かう。路地裏の人目につきにくい場所にそれはある。
店に入るとカウンターに突っ伏した女性。寝ているわけじゃないらしい。なんだかぶつぶつと独り言が聞こえる。
その女性は俺の足音に気づくと顔を上げ、ずり落ちた大きな眼鏡をかけ直してこちらを凝視する。
すると突然「ばっ!」と勢いよく立ち上がり、
「ア、アラン?! 久しぶりじゃない!」
と驚愕の表情を浮かべる。
少しウェーブがかかった黒髪に、立ち上がった拍子で傾いたとんがり帽子。服は黒い薄手のローブ。いかにも魔女と言ったいでたちだ。
「久しぶりだな、ナタリー。最近顔を出せなくてすまなかった、色々あってな」
「それは知ってるわ! 大変だったわね……。で、でも、もう少し早く来てくれても良かったのに。心配したんだから……」
ずれた帽子と乱れた髪を直しながらそう言って、嬉しそうな表情を浮かべるナタリー。
「確かに、悪かったな。今日は沢山買って行くから許してくれ」
「そ、そう言うことじゃないんだけど……。今までどうしてたのよ?」
「すまない、ナタリー。今少し急いでるんだ。また今度話すよ」
「…………まあいいわ。今日は何が欲しいのかしら?」
ナタリーは少し拗ねたような調子で俺に問う。
「スクロールが見たいのと、スタンピードで役立ちそうな魔道具があれば欲しいんだが」
「えっ? あとの方、なんですって?」
「スタンピードに役立つ魔道具はないか?」
「ス、スタンピード?!」
「そうだ。今カナディアでスタンピードが起きている。その対策でナタリーの店に来たんだ」
「それはまずいわね……。貴方は今カナディアにいるのね。そこからわざわざ私を頼ってここまで来たと。……よし、許すわ!」
満面の笑みを浮かべ一人で頷いているナタリー。何か良く分からんが、機嫌が良くなったみたいだからラッキーだ。
ナタリーは天才と呼ばれる魔道具師で、売り物は全て一流の品ばかり。だが気に入らない相手には商品を売らないので、機嫌が良いうちにアイテムを手に入れてしまう方が良い。
「スクロールはここに出ているものと、もっと凄いやつもあるわ。そっちは特別なお客にしか出さない品だけど、アランは特別だからちょっと待ってなさい!」
そう言ってナタリーが店の奥に入っていく。俺が特別扱いされているのは、前にナタリーの商品開発に協力したことがあるからだ。
それが上手く行った結果、この町で一位、二位を争う実力の魔道具師と呼ばれるようになったのだから、俺のアドバイスも少しは役に立ったんだろう。
「さあこれよ」
そう言ってナタリーが持ってきたのは、一見何の変哲もないスクロール。
「こっちは炎魔法&風魔法で、こっちは水魔法&雷魔法のスクロール。あと新作もいくつかあるわ。是非使ってみてちょうだい!」
ナタリーのスクロールには二つの魔法が込められている。ナタリーが作り出すまでこの世に存在しなかったもので、彼女の発明だ。
魔法を二つ同時に出せるのが強みで、相性の良い系統の魔法を合わせることで、その威力を数倍に高めることに成功している。
ちなみに、卓越した魔法使いでも魔法を二つ同時に放つことは出来ない。正確には、並行詠唱できるスキル持ちなら可能なのだが、かなり珍しいのだ。
この同時発動魔法のスクロールの開発に俺が協力したわけだが、アイディアはナタリーで、俺は開発すべきか否かを判定しただけ。正直、大したことはやってない。
「へえ、新作か。さすが、ナタリーは相変わらず研究熱心だな。尊敬するよ」
「えっ?! あ、ありがとっ……!」
ナタリーはそう言うと、顔を真っ赤にしてまた店の奥に引っ込んだ。あれ、なんか変なこと言ったかな?
とりあえず、買うべきかどうか確認していこう。
スクロールを一通り確認したところ、全部買うべきらしい。ただ、これでもまだ必要なアイテムが足りないようだ。
「ナタリー! 他に役に立ちそうな魔道具があれば教えてくれないかー?」
俺が奥にいるらしいナタリーに声を掛ける。またぶつぶつと独り言が聞こえた後、少ししてから何かを持ってナタリーが出てきた。
「それは何だ?」
「ふふふっ、聞いておどろかないでよ? これはねー、Aランクモンスターの侵入さえ防ぐほど頑丈な、ドーム型の巨大障壁を作る魔道具、その名も『ドームちゃん1号』よ!」
「ほ、ほう。なかなかストレートで分かりやすいな。それに機能だけじゃなく、見た目や大きさも申し分ない」
「でしょう?! 流石アランは良く分かってるわね! でもあんまり売れないのよねー、なんでかしら?」
名前のセンスがやばいからだな。他は完璧だもん。小さくて軽いから持ち運びが楽だし、地面に置いたらすぐに強力な障壁が張れるっていう、とんでもない性能だし。
「これも買うよ。あとは」
店に並んでいる他のアイテムを探し回る。そしてポツンと一冊置いてあった魔法書の購入を決めた時点で、
〔依頼を受け付けました〕
と声が聞こえた。やっと準備が整ったらしい。かかったお金は全部で金貨十枚。これでも安くしてくれてるんだって……。
一応スタンピードの依頼が受けれてるか、ステータスで確認するか。
+-------------------------
名前:アラン
Lv:35
HP:180/180
MP:200/200
攻撃:150 + 50
防御:145 + 20
知力:230
素早さ:160
装備:ブルーメタルの剣、冒険者の服、鋼の盾
魔法:生活魔法
スキル:【コンサルティング】
・進行中の依頼:〈カナディアの新人育成を成功させる〉〈スタンピードからカナディアを守る〉
-------------------------+
よし、ちゃんとある。
「助かったよナタリー。これで間違いない。じゃあ、終わったらまた顔を出しに来るよ」
「ほっ、本当?! 絶対来てね!」
「もちろんだ。ナタリーの魔道具は便利で強力なものばかりだからな」
「それが理由なのね……。まあ、来ないより良いわ。気をつけてね!」
「ありがとう」
俺はそう言って店を出て、アメリゴを後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
Cランクの魔物を退けたカナディアの冒険者達は皆、勝利の余韻に浸っていた。しかしそれも束の間、次のモンスターの波が押し寄せていた。
「フロストトロールが近づいてます! あと、毛がもじゃもじゃの大きい牛さんみたいなモンスターもです!」
森から迫り来るモンスターの軍勢に気づいたリーナがオリビアへ伝える。
「本当だわ。牛の方はヘビーマスコックス。どちらもBランクのモンスターよ。森を凍らせながら進んできてる。でも<オーロラのダンジョン>ではフロアボスを除けばBランクが一番強い。ここを耐えきれば私達の勝利ね」
「なっ、なるほど。もう少しですかね」
リーナは少し疑問に思いつつもそう呟く。
「チッ、もう来やがったか!」
城壁の下からマックスの声が聞こえる。彼らもモンスターに気づいたようだ。
「全員下がれ! 俺達が前に出る。お前らは後ろから炎魔法を打ちまくれ!」
マックスが迅速に指示を出す。すぐに陣形が整えられた。
30体はいそうなモンスターの群れが彼らに迫る。
「打てー!!」
マックスの合図とともに、後方で準備をしていた冒険者達が、スキルやスクロールで炎魔法を放ちまくる。
続けてマックスと相棒のベリンダは、仲間達から攻撃力・守備力・素早さアップのバフを受け、敵に向かって駆け出した。
周囲を凍らせながら進んでいるとは言え、寒い環境での生活に慣れたモンスター達の動きはそもそもあまり良くない。それに加え、弱点の炎魔法がかなり効いているらしい。
マックスとベリンダは、二人一組で一体ずつ的確に相手をする。フロストトロールが吐き出す吹雪や、ヘビーマスコックスの強烈な突進をくらいながら、それに耐えて敵を屠っていく。
そして、満身創痍になりながらも、遂にマックス達はモンスターを全て倒し切った。
「マックスばんざーい!!」
「良くやった!!」
「【ウルフドッグス】はカナディアの救世主だ!」
マックスとそのパーティーを賞賛する声が広がっていく。マックスは心の底から満足そうな表情を浮かべている。
「マックスも中々やるじゃない。A級冒険者もそう遠くはなさそうね」
オリビアもマックスを賞賛する。リーナでさえもその戦いぶりには感銘を受けた。
しかしながら、戦いはまだ終わっていなかった。
「オリビアさん、あれ何でしょう?」
森の中から出てくる何かにリーナがいち早く気づく。それは空を飛びながら、ゆっくりと姿を現した。
身長は人間ぐらいだが、引き締まった漆黒の体に巨大な翼、牛のような角に鞭のような尻尾。全身から禍々しいオーラが漂っている。
まるでおとぎ話に出てくる悪魔のようだ。それがニヤニヤと笑みを浮かべこちらを見ている。
「あ、あれ、グレーターデーモン?! なんでここにいるのよ?! 」
「グレーターデーモン、ですか?」
「一体で国を滅ぼすと言われる災害級の化物よ!」
「そ、そんな……」
「みんな、逃げて! グレーターデーモンがいるわ!」
冒険者達に向かって、悲鳴に近い声でオリビアが叫ぶ。しかし、スタンピードの勝利を祝って騒ぐ冒険者達にはその声が届かない。
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