第23話 依頼達成は不可能
「ではマックスさんをリーダーとしましょう。戦術はどうしますか?」
オリビアが不服そうながらも場を進行する。
「そんなの決まってんだろ? 向かってくるモンスターを片っ端からぶっ倒す、それだけだ! 雑魚はお前達が始末しろ! その代わり、俺達【ウルフドッグス】がダンジョンで一番強いB級モンスターを相手にする!」
「おっとそうだ、D級とE級の冒険者にはこれをくれてやる、ありがたく思えよ?」
マックスはそう言うと、テーブルの上にドサッとスクロールの束を置く。ざっと100以上はありそうだ。
「おおっ、いいのか?! こりゃ助かるな!」
「さすがリーダー、準備が良いじゃねえか!」
冒険者達の言葉にニヤッと笑うと、マックスは別のテーブルに移動し、今度はポーションなどの回復アイテムをガラガラ置いた。これまたすごい数だ。
「こっちは冒険者全員で分けろ!」
「ちょ、ちょっとアンタ、こんな量のアイテム、一体どうしたんだい?!」
マックスの相棒ベリンダが、信じられないと言う顔でマックスを見る。
「こういうことも見越して集めておいたに決まってんだろ。いいからお前もアイテム配るの手伝えよ」
マックスの言葉に怪訝な表情を浮かべるも、ベリンダはアイテムを欲しがる冒険者達の相手を始めた。
仲間も知らないうちにこれだけのアイテムをコツコツ集めたの? 変なやつ。
すると突然、ギルド入り口の扉がバンッ! と開いた。
「はぁはぁはぁ、ダンジョンからモンスターが溢れ出したぞ! こっちに向かって来てる! 間違いない、スタンピードだ!」
ダンジョンの監視についていたギルド職員が息を切らしながら報告する。
やれやれ、ついに始まったか。
「アラン、お前さんの言う通りだったな。マジでスタンピードが起きちまったようだ」
「ローガンか。残念ながらそうらしい」
「全くついてねえや。そういやあ、マックスの奴がお前のことをなんだかんだと言ってたが、気にする必要ねえぞ。前のパーティーのことなんて今のお前には関係ないからな」
「……あんたも俺のこと、知ってたのか?」
「まぁな。この業界、情報が命だ。それに勇者パーティーの話なんざぁ嫌でも耳に入ってくる。ちなみにリーダーの件、さっきはお前に合わせてマックスで良いと言ったが、本当はお前の方が良いと思ってる。今日の調査でも良い判断してたしな。まっ、面倒だから今回はあいつにやらせようぜ」
ローガンはそう言って、ちゃっかりアイテムをもらう列に並び始めた。
もしかしてこの町で俺のことを知ってる冒険者って結構多いのかな? 冒険者の情報網、侮れん。
「一体何様のつもりなんでしょうか、あの人! アランさんに失礼なことばかり言ってましたっ!」
リーナが俺の方に近づき、マックスを一生懸命にらみつけてぷんぷん怒る。そして、その怒りはなぜか俺の方へにも向かう。
「アランさんも何で言い返さないんですかっ?! それに、リーダーはマックスさんが良いだなんて!」
「あっ、ああ、すまない。この町で俺はまだまだ新人だからな。信頼のある冒険者がやる方が何かと上手く行くだろう? 元々断ろうと思ってたんだよ」
「……な、なるほど。そうだったんですね……。私、余計なことを言っちゃいました。ごめんなさい……」
あわわっ、今度はしょぼんってしちゃった!
リーナって自分よりも、人が嫌なことされた時に怒るタイプか。自分は魔族だからって何度も嫌な目に遭ってるはずだけど、それで怒った話は聞かない。
「いやいや、俺の代わりに怒ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
「さっきマックスが言ってた通りなんだが、俺は昔勇者パーティーを追放されたんだ。リーナに伝えてなかったな、すまない」
俺がリーナに謝ると、リーナは
「私に謝る必要なんてないですよっ?! それに、アランさんがすごい人なの、私知ってますからっ!」
と言って、いつものキラキラと輝く笑顔を見せる。天使っ!
「そっ、そうか、ありがとう。そう言えば、リーナに話しておきたい事がある」
「なんでしょう?」
「今回の作戦、俺達は強制参加だ。とはいえ、ギルドからの依頼を受けた形での参加になる。なのに、俺のスキルでまだ依頼を受け付けてない」
俺がそう言うと、リーナは首を傾げて少し考えた後、
「あっ、ということは、もしかしてこの依頼、達成できないということですか?」
と気が付いたように言う。
「その通りだ。今のままだと多分俺たちはやられる。そうなれば、カナディアの国も危険な状態になるだろう」
「そっ、そんなぁ……。どうしましょう……?」
「とりあえず、俺はその原因を探りつつ対策も考えようと思っている。ただそれには時間がかかる。その間悪いんだが、リーナには出来るだけモンスターを食い止めておいて欲しい」
「そういうことですか、分かりました! アランさんがいない状態で戦うのは初めてですけど、頑張りますっ!」
「ああ、すまない。今回はまともな作戦がないから、逆に融通が効く。リーナは城壁の上から魔法で攻撃して、俺が来るまで外には出ないでくれ」
「はい、分かりました! そこでアランさんが来るのを待ってますっ!」
さてと、色々考えなきゃいけないけど、ギルドの中はうるさ過ぎる。とりあえず外に出るか。
そう思って俺が出口に向かうと、マックスがそれを目ざとく見つけ、
「おいアラン、お前どこに行く気だ?」
と俺の行く道を遮る。
「戦いの準備で少し外に出る。悪いが作戦の参加、少し遅れるかも知れん」
「なんだと? 俺がこんだけアイテムを準備してんだ。足りないもんなんてねえだろ。お前もしかして、逃げる気じゃねえだろうなあ?」
「そんなつもりは毛頭ない。冒険者にはそれぞれやり方ってものがあるだろう? お前はその邪魔をする気か?」
「ふんっ、信用出来ねえんだよ! まあ、お前はいてもいなくても大してかわらねぇ。俺がリーダーとして作戦を成功させてやるから、お前は指を咥えて見ていやがれ!」
一方的にそう告げると、マックスは自分のパーティーの方へと戻っていく。
こいつめんどくさい。
ギルドを出て、どこに向かうでもなく歩き始める俺。何かを考えるときはこれが一番良い。この戦いに勝つには何が足りないのか、早速俺は検討を開始するのだった。
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