第19話 ギルドから新人育成の相談を受ける
俺とリーナは、パーティーで初めてのダンジョン探索を無事成功させた。そして今度はもっと下の階層を目指そうと思っている。
ただ、例のダンジョンの異変があってすぐに探索を始められない。どうしようということで、とりあえずギルドにやってきた。
「ダンジョンの調査依頼って、まだ出てないでしょうか?」
リーナが行きたくてうずうずしてる様だ。前から随分やる気がある方だと思ってたけど、昨日の探索を成功させたのが余程嬉しかったようで、さらにやる気に満ちている。
次こそは役に立ちたいらしい。ダンジョンの他の階層はどんな所かとか、どんな準備が必要かとか、真剣な目で俺に聞いてきたりした。昨日も役に立ってたとは伝えたけど、どうも自分的には全然らしい。
「早くダンジョンに行きたいですっ!」
「そっ、そうか。意外と肉食系だなリーナは」
「ふぇ?! そっ、そうでしょうか?」
俺の言葉に驚き、リーナは少し顔を赤くして俯いている。ちょっと恥ずかしそう。
「いやすまん、だが恥ずかしがる必要はないぞ。冒険者として素質があると思うし、俺はそういうタイプの方が好きだ」
前のパーティーのメンバーは、お洒落がどうとか貴族になりたいだとか、およそ冒険者らしさとは無縁のタイプだった。それでもA級になれるんだから、リーナぐらいのやる気と才能があれば、S級も夢じゃないよきっと。俺も見習わなくちゃなぁ。
んっ、リーナがさらに俯いて耳まで赤くなってる。何か余計なことでも言ったかな……?
「ニャニャー!!」
黒猫が怒ってる。余計なこと言ったみたい。
「リ、リーナ、大丈夫か?」
「大丈夫です! 私、もっと認めてもらえるように頑張りますっ!」
そう言っていつもの笑顔で俺を見つめる。なんかキラキラして眩しいし、意識たかっ!
リーナとそんな話をしていると、ギルドの受付嬢オリビアに声をかけられた。
「アランさん、お待ちしていました! 少しお話があるんですが、お時間よろしいですか?」
「え? ああ、大丈夫だが。リーナも一緒で良いか?」
「はい、もちろんです」
俺とリーナはギルドの二階にある会議室に案内される。席に座るとオリビアが俺達に紅茶を注いでくれた。
「それで話ってなんだ?」
「はい、本日は相談役としてのアランさんに折り行ってご相談がありまして」
オリビアはそう言うと、俺とリーナに数枚の資料を渡し、説明し始めた。
「今この冒険者ギルドは、とても大きな問題を抱えているんです。新人の育成がうまく行ってないんですよ……。冒険者になりたいって言う人は結構いるんですけど、諦めてしまったり、別の国に行ってしまったりして。実はここ何年も全く新人が育っていないんです」
「それはまた、まずい状況だな」
「はい……」
「あのぅ、私も新人なんですけど、そんなに役に立ててないような気がして……。もしかしたらいなくても良いんじゃないかなぁ、なんて……」
リーナが躊躇いがちに、自分の意見を言葉を口にする。リーナはすでに活躍してるのに、自己評価低いなぁ。
「リーナが言うことも一理ある。確かに役に立てる場面は少ないかも知れない。ただこの国のダンジョンは中規模だから、はっきり言って人気が無い。だから一人でも冒険者を増やしたいんだ」
「なるほどぉ」
「それに依頼にも色んな種類があって、新人しかやりたがらないようなものもある。ドブさらいなんてその典型だよ」
「確かに、ベテランの人がやってるイメージないですね……」
俺がリーナに説明している間、オリビアはうんうんと頷いている。
「ちなみに育たない原因は、先輩冒険者が教育に協力的じゃないとか、新人同士でパーティーを組もうにも人数が足りないとか、そんなところか?」
続けて俺がそう推測すると、
「さすがアランさん、全てお見通しですね!」
オリビアが驚嘆して言う。まぁ、冒険者は俺の専門分野だし、そう言う場面を何度も見てきたからな。
「ちなみに、今新人はいるのか? いないなら急がなくても」
「いるんです! ここ最近冒険者になりたいと言ってきた子が二人! でも入れてくれるパーティーが見つからなくって……。このままじゃ、うちのギルドはお先真っ暗です!」
おっ、大袈裟だなぁ……。手元にある資料、『このままではギルドの未来が危うい』とか、不安を煽る言葉が書いてある。もしやこれでギルドを動かしたのか? ある意味、俺よりコンサルタントに向いてそう。
「アランさんにはこの前、リーナちゃんとパーティーを組んでもらったばかり。さらに新人二人をパーティーに入れて下さいなんて、口が裂けても言えないですし……」
うん、言っちゃってるな。でもさすがにそれは無理だ。C級とかD級の依頼にE級を三人連れて行くのは危険だし。レッドグリズリーとかから守りきれないもんな。
逆に俺が我慢してE級の依頼だけを受けるってのも方法としてはあるけど、俺のメリットが無さすぎる……。
「リーナとその新人二人でパーティーを組むっていう手もあるが」
俺が新人だけのパーティーのアイディアを出すと、突然リーナが立ち上がり、
「ゼーったい嫌ですぅー!!」
と頬を膨らませて全力で拒否する。こんな強い意思表示、初めてだな。大分心を開いてくれてる様な気がしてちょっと嬉しい。
「ふふっ、分かった。じゃあそれは無しだ」
「あ、危なかったですぅ……」
リーナが安堵の表情を浮かべる。
今一時的に新人だけのパーティーが作れたとしても、また新人が来たらその時どうするのか。俺のアイディアは根本的な解決になって無い。
「ちなみにギルドで昇級するまで面倒を見るって訳にはいかないのか? D級になればソロでも何とかなるだろう?」
「それも考えたんですが、うちのような小さいギルドではそこまで面倒を見続けるのはちょっと難しいという結論になりました」
「ふむ。じゃあ、今いる冒険者パーティーに入れてもらう手を考えるしか無いか」
「ではアランさん、ギルドからの依頼、検討してもらえますか?」
「ああ、喜んで受けさせてもらうよ」
「えっ、まだ報酬の話もしてないんですが?」
あっ、そうだった。アメリゴでは全部無料でやってたから忘れてた。
「まあいくらでも良いぞ。何ならタダでも」
「金貨一枚でどうでしょう?」
「はっ?」
「成功報酬として、金貨一枚でお願いできませんか?」
高っ?! マジで? 組織からの依頼って凄いな……。
「もっ、問題ない」
そう答えると、すぐに【コンサルティング】の声が聞こえた。
〔依頼を受け付けました〕
「オリビア、早速この場で最初の方針を決めたい。君にも協力して欲しいんだが問題ないか?」
「もっ、もうですか?! 是非お願いします!」
オリビアはテーブルにバンッと両手をつき、身を乗り出して答える。
「よし。まずはいくつかアイディアを出そう。冒険者パーティーにどうやって協力させるかがテーマだ。例えば依頼の報酬額を少し上げるというのはどうかな? 少なくても俺は助かっている」
「なるほど、良いと思います。では、新人を育成したら評価されるような制度なんかどうでしょう? ランクアップにつながるとか」
「確かに良いな。ランクを上げたい冒険者に良さそうだ。リーナ、何かアイディアはあるか?」
「そっ、そうですね。ブラックムースの討伐と素材集めで生計を立てている冒険者さんが多いそうなので、素材の買取額をアップするとかでしょうか……」
「そういえばカナディアの冒険者のほとんどはそうらしいな。良いアイディアだ」
テーマがかなり狭まいし、ひとまずこのぐらいで良いや。一旦【コンサルティング】で確認してみよう。
冒険者パーティーに協力させるにはどうすれば良いか?、っと。
1.新人教育に協力したら、冒険者としての評価アップ
2.新人教育に協力したら、依頼の報酬額アップ
3.新人教育に協力したら、素材の買取額アップ
〔三つ目の選択肢が最適です〕
へぇ、リーナの案か。1と2はカナディアの冒険者にとってそんなにメリットが無いんだな。
「みんなありがとう。どうやらリーナの案が良さそうだ。まずはこれで冒険者の反応を伺おうと思うが、オリビア、ギルド的にはどうだ?」
「分かりました。予算もあるのでギルドマスターへの確認は必要ですが、試しにやってみたいと言えばおそらく通せると思います」
「よし早速進めてみよう。初めは小さい範囲でやりたいな、何かの依頼だけとか」
「そうですね。でしたらダンジョンの調査依頼がこれから出されますので、それ限定でやってみましょう。やや危険な調査になる可能性があるので合同依頼にする予定です」
オリビアの言葉に俺とリーナが頷く。
「じゃあその調査には俺達も参加して、実際に効果を検証するようにしよう」
その後すぐにオリビアはギルド内で俺達の案を通し、素材の買取額を上げるための予算を確保した。
そして、ギルドからダンジョンの合同調査依頼が出された。調査が終了するまで、調査に参加する冒険者以外ダンジョンが立ち入り禁止となる旨も合わせて発表された。
また調査に参加する冒険者パーティーが新人教育に協力してくれた場合、素材買取額を3割アップすることが公示された。
これに冒険者達は沸いた。何とカナディア全ての冒険者パーティーがこの依頼に殺到したのだった。
「3割とはギルドも思い切ったな。素材集めを生業にしているカナディアの冒険者にはしっかり刺さったようだ。新人に分け前を渡しても十分お釣りが来るだろう」
「そうですね。ただこれが本当に新人の教育とカナディアへの定着につながるのか、しっかりとチェックしていきましょう」
俺とオリビアはそんな話をしながら、依頼書を取り合う冒険者達を眺めるのだった。
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