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第18話 勇者パーティー、新メンバーとの連携を試す③

 勇者パーティーはレッサーデーモンから逃走することに成功し、転移魔法陣で1階へと戻ってきた。


 今回の探索は時間にして五時間程度しか経っていなかったが、パーティーメンバーにはその倍以上に感じられたのだった。



 生命からがら逃げ帰った彼らを待っていたのは、勇者パーティーによるダンジョン探索の結果を楽しみにする冒険者達だった。中には今日中に戻ってくるか、明日まで掛かるか、賭けの対象にしている者達もいた。


 しかし、そんな者達から聞こえてきた声は、勇者パーティーが期待するものではなかった。


「おいおい、酷いことになってないか、勇者の頭。 左右の髪の長さが違うぞ? ぷっ、我慢できねえ!」


「守護者の盾、壊れてないか? あれでどうやって守護するんだ、わははっ!」


「拳士の着けてた指輪、壊れて宝石が無くなってるぞ。もしかしてあれを付けたまま戦ったんじゃないよな」


「あれ聖女か? 田舎から出てきた娘みたいだが」


 さっきまで賞賛の声を挙げていた冒険者達とは到底思えない言葉。それもそのはず、彼らは勇者パーティーのアンチだった。冒険者全てが勇者パーティーを応援しているわけではない。


 しかし、勇者パーティーを推す者達の声も聞こえ始めた。


「みんなすごい火傷してるぞ? 大丈夫か?!」


「キャー?! 勇者様、大丈夫ですか?!」


「ラック様ぁ?! 酷いお怪我、どうしたんですか?!」


 などなど。その声に勇者シーザーが口を開く。


「あっ、ああ、心配ないよ。ありがとう。新入りのカバーで、ちょっとな」


「「ええっ?!」」


 ミックとコニーは愕然として声を上げる。しかし、


「さすが勇者パーティーだ。新入りに怪我一つないもんな。しっかり守ってあげたんだ」


「新入りが酷いミスでもしたんだろうなぁ」


 などという見当違いな冒険者の言葉に、新入りの声は掻き消された。


「この状態じゃ町を歩けない。一旦宿に戻って、全員の傷を回復しよう」


 シーザーの言葉にミックとコニー以外のメンバーが頷く。



 宿でキャサリンの回復魔法やヒールのスクロールを使用し、メンバーの傷を癒していく。シーザーは髪の長さを整えた。結果おかっぱのようになっているが、頭に血が上っている彼はそれに気づいていないようだ。


 メンバーの体の傷は回復したが、心の傷を癒すことはできなかった。ついさっき悪魔に殺されかけた記憶がフラッシュバックし、ラック、リリアン、キャサリンの三人は体の震えが止まらないのだ。


 ただ、それだけではない。勇者が逃げようとした時に放った言葉を聞き、シーザーに対する憎悪の感情もその震えを大きくしていた。


 あの時キャサリンだけは気絶しておらず、勇者の言葉をハッキリと聞いた。そして、いつの間にかそのことを他の仲間に伝えていたのだった。


 その事に気づかないシーザーは、先程自分達を笑った冒険者達を思い出していた。


「あいつら全員、二度と冒険者をやれないようにしてやる。俺をバカにしたらどうなるか、すぐに教えてやるぞ!」


 いつものクールとは程遠い、怒りに満ちた勇者の顔がそこにはあった。



 ギルドで受けた依頼をこのまま続けるのは難しいだろう。リーダーとして冷静に状況を分析したシーザーは、依頼をキャンセルすることにした。


 それに加えて素材買取を依頼するため、勇者パーティーはギルドに向かう。その道すがら、シーザーがミックを糾弾する。


「おい、ミック。そもそもお前があんな危険な場所に俺達を連れていったのが間違いだったんだ。それに宝箱の鑑定もしていなかったな? 全てお前の落ち度だぞ?」


「えぇ?! 危険な場所かどうかなんて、行ってみないと分かる訳ないじゃないですか?! それにシーザーさんも未発見の宝箱を見つけて喜んでましたよね?! っていうか、宝箱の鑑定をする前に触ったのはシーザーさんじゃないですか?!」


 ミックの言葉に、コニー以外のメンバー全員が怪訝な表情を浮かべる。


「おいおいミック、探索役(シーカー)なら事前に危険な場所ぐらい分かるでしょ?」


「そうよ! 宝箱の鑑定だってそんなに時間がかかる訳ないじゃない!」


 ラックとリリアンが当然と言った様子で言うと、キャサリンも頷く。


「はいぃ?! 皆さん本気ですか?! 危険な場所が事前に分かるなんて、それどんな超能力なんですか?! 俺の【サーチ】を使ってもそのフロアに入ってから発動して、罠とか敵の気配を探るだけで精一杯です!」


「それに【サーチ】もクールタイムがあるので、宝箱を見つけてもすぐに使えませんよ! その前から何回も使ってましたし!」


 コニーの必死の弁解を聞くも、勇者パーティーにはピンとこない。


「おいおい、あのアランですらその程度のこと普通にやっていたぞ? お前はそれ以下なのか?」


「ア、アランさんが……?」


「そ、そんな……。皆さんレッサーデーモンも知らないみたいだし、そういうことだったのね……」


 ミックとコニーはシーザーの言葉に強い衝撃を受けた。そして、勇者パーティーの本質を、この時はっきりと理解したのだった。


「お、俺がアランさん以下なのは間違いなさそうです……」


 ミックが声を絞り出すように言う。


「チッ、まあ良い。話は後だ。ギルドに着いたぞ」



 ギルドのカウンターで、シーザーは依頼のキャンセルを申請した。


「キャンセルですか? それもシーザーさん自らなんて珍しいですね。ダンジョンで何かありました?」


「い、いや、別の依頼を受けたくなってな。それでキャンセルしたいんだ」


「はあ、なるほど。この依頼ですと、キャンセル料は金貨三枚ですね」


「……は? キャンセル料?」


 受付嬢の言葉をすぐに理解できなかったが、シーザーは過去の記憶を掘り返しキャンセル料が必要な事を思い出す。こういった雑用は全てアランにやらせていた為、今の今まで忘れていたのだ。


「金貨三枚……。おい、金はあるか?」


 シーザーがメンバーに聞くが、全員が首を振る。そもそも勇者パーティーに金を貯める習慣はないため、シーザーもダメ元で聞いたに過ぎない。


「そっ、そうか。じゃあさっきの探索で集めた素材と魔石を売ろう! 前回はそれだけで金貨五枚にはなったはずだ!」


 そう言って、素材と魔石の買取を依頼する。



 買取の見積りはすぐに終わり、その額は金貨1枚だった。


「金貨1枚だと?! 前回の五分の一じゃないか! 何かの間違いじゃないのか?!」


「い、いえ? 正しい見積もりです。前回はおそらく品質が良かったからじゃないかと思いますけど。今回はイマイチでしたし」


「なんだと?! コニー、お前だな? 魔物の解体と素材集めはお前の仕事だったよな?」


「えっ、ええ。いつも通りやっただけですけど……。それに、作業が終わった後シーザーさんに見てもらいましたよね? これで大丈夫ですかって。初めての魔物だったので心配でしたし」


「なっ?! たっ、確かにそうだが……」


「魔物の解体と素材集めも以前はアランさんがやってたんですね? これもアランさん以下かぁ……」


「そっ、そうだ! お前はやっぱりアラン以下だぞ!」


 シーザーの声は冒険者ギルド全体に響き渡り、ギルド内がざわつく。


「シ、シーザー、一旦ギルドを出ない? 外で話しましょう?!」


「そっ、そうしましょう?! この依頼、やっぱりキャンセルしないわ!」


 キャサリンとリリアンがギルド内の不穏な空気をいち早く見抜き、メンバーを外に出した。




 ギルドを出ると、ミックが決心したように言う。


「皆さん、色々とご迷惑をお掛けしてすみませんでした。俺に勇者パーティーは早かったみたいです。今日限りで抜けさせていただきます」


「私も同じです。お世話になりました」


 コニーもメンバーを抜けると言う。


(ミックは役立たずだから要らないとしても、コニーのレアスキルは惜しい。あれがあれば、確実に敵から逃げることができるし、当然攻撃の際にも活用できる。どうする? だがミックだけ切るのは無理だろう。コイツらできてるからな)


 シーザーがどう答えるべきか悩んでいると、キャサリンが口を出す。


「ミック、コニー。まだこの依頼は終わってないわ。この依頼はパーティーで受けてるの。突然抜けるなんてわがまま、冒険者の世界で許されると思う?」


 いつもの優しく温かい笑顔は消え、冷たい表情で聖女がそう口にする。


(キャサリンも同じ考えか!)


「そうだぞ、二人とも。この依頼を達成したらパーティーの脱退を許可しても良い」


 シーザーがそう言うと、ミックとコニーは力無く頷いた。


 そうしてパーティーメンバーは、40階層ボスのモンスター素材収集依頼達成という共通の目標に向け、各々準備を進めるのだった。

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