第17話 勇者パーティー、新メンバーとの連携を試す②
リリアンは敵からの攻撃を受け気を失い、ラックはひたすら悪魔の攻撃を耐え続けている。
キャサリンの回復魔法が発動し、シーザーの腕の至る所に空いた穴が少しずつ塞がっていく。しかし、完全に塞がらず血は流れ続ける。
「キャサリン、どう言うことだ?! 全然治ってないぞ!」
「今一生懸命やってるわ! ちょっと待ってて!」
「おい、お前、聖女のローブはどうした?」
キャサリンが来ているローブは金の刺繍が施された美しい特注のもので、聖女のローブではなかった。
「はっ? あんなダサいローブ着るわけないじゃない。しまってあるわ」
「あのローブは回復魔法の威力を高める効果があっただろう? あれを着てくれないか?!」
「いやよ、あんなもの。アランみたいなこと言わないで!」
キャサリンは心底嫌そうにシーザーに言う。
「たっ、頼むから着てくれ! 俺が死んでしまう!」
シーザーの懇願する様子に、呆れながらも渋々キャサリンは頷く。そして憤怒の表情を浮かべ、
「こんなところで着替えさせられるなんて屈辱だわ! 絶対に責任を取ってもらうから、覚えておきなさい!」
そう怒鳴るとマジックバッグから聖女のローブを取り出し、怒りと羞恥で赤面しながら着替えを終えた。
「【ミドルヒール】!」
キャサリンが回復魔法を唱えると、やっとシーザーの傷が全快した。だが血が流れ過ぎていて、顔は青ざめたままだ。
次にキャサリンはリリアンの回復へ向かう。
「シーザー、回復したならこいつを何とかしてくれ! もう僕のスキルの効果が切れるよ!」
「ああ、任せろ!」
ラックの言葉にシーザーが応える。
「【エンハンス】!」
シーザーは必殺のスキルを使用した。【エンハンス】は自身のあらゆる能力を一時的に高める効果がある。文字通り必殺で、このスキルを使って敵に負けたことはない。
シーザーは以前に比べて大幅に上がった素早さを活かし、全速力で悪魔に向かって走り出した。
すると、それを見た悪魔が何かをボソッと呟く。その直後、シーザーは突然体から力が抜けるような感覚を味わう。
「デバフだ! みんな気をつけろ!」
シーザーは尚も悪魔に迫ろうとするが、ガクッと速度が落ちたことに気づく。逆に悪魔はシーザーの元に一瞬で移動し、「シュッ!」っと鋭い爪の生えた腕を振り回す。
シーザーは間一髪避けたが、自慢の長髪の右半分が切り落とされた。
「おいラック! こいつを抑えておけよ!」
シーザーがラックの方を向いて怒鳴ると、ラックが
「ははっ、この盾でどうやって抑えるんだ……?」
と震える声を絞り出して言う。なんと、鋼鉄よりも硬いシルバーメタルのタワーシールドが破壊されている。
再び悪魔が動き出す。高速で移動し、まずはラックの顔に拳で一撃を食らわせる。
「ぐへっ!」
数メートル吹っ飛び、壁に激突して気を失った。
次に聖女に近づき、腹めがけて蹴りを放つ。
「ぎゃあ!」
蹴り上げられたキャサリンは天井にぶつかり、ぐしゃっと地面に落ちた。
その光景を見た瞬間、シーザーは悟った。こいつには勝てない、と。
シーザーはまだ続いているスキルの効果を活かし、全力でこの場から逃げるべく走り始めた。
「シーザーさん?! どこに行くんですか!」
「馬鹿野郎! お前達も逃げろ! 死にたいのか?!」
「今逃げたらラックさん達が死んでしまいますよ?!」
「勇者の俺が生きていれば良いんだ! 他は替えが利く!」
その言葉にミックとコニーが驚愕の表情を浮かべる。
逃げるシーザー。しかし冷酷な悪魔は簡単に獲物を逃さない。勇者の正面に突如現れると、鋭く尖った五本の爪をその肩に突き刺した。
「ギャァアア!!」
シーザーは痛みに耐えきれず絶叫する。悪魔は続けてシーザーの顔に横蹴りを加える。
口が切れて「ぶっ!」と血を吐き出しながら、シーザーが壁に叩きつけられる。まだ意識はあるが、衝撃で体を動かすことが出来ないようだ。
悪魔の攻撃はこれからが本番だった。何やらぼそぼそ呟くと魔法が発現し、フロア全体がバチバチと帯電していく。次の瞬間、天井から地面へ無数の落雷が発生し、パーティーメンバーが直撃を受けた。
「「「「ギャァアアアア!!!!」」」」
フロアの入り口付近にいたミックとコニー以外全員が感電し、血が沸騰するような熱さと激痛が全身を駆け巡る。しかし、それをきっかけに意識を失っていたメンバーも目を覚ました。
「たっ、助けてくれ……殺される……」
ラックが震える声を絞り出し、痺れる体を無理やり動かそうとするがピクリとも動かない。
悪魔がニヤニヤしながらそれを見て、更に追撃を加えようとした瞬間、コニーがスキルを発動した。
「【スリープ】!」
レアスキルの強制睡眠を受け、悪魔はバタッと倒れた。そして、「ぐーぐー」といびきをかいて眠りに落ちた。
「皆さん、レッサーデーモンが眠っているうちに逃げましょう! このスキルは1分しか持ちません!」
ミックはマジックバッグからエリアヒールのスクロールを出して、パーティー全体を回復する。悪魔も同時に回復してしまうが、この際どうでも良い。
「ちょっとは回復したけど、全員感電で痺れて動けないぞ! どうしよう?!」
「わっ、私に任せて……。【乙女の祈り】!」
焦るミックにキャサリンが声を掛け、スキルを使った。【乙女の祈り】はHP回復と状態異常回復の効果がある。パーティー全員の痺れが消え、ようやく動けるようになった。
「助かった! 良くやったぞ、コニー! ミック!」
シーザーは新入りを賞賛する。しかし、そう言われた彼らの目が随分冷めていることには気づいていないようだ。
「こいつ、レッサーデーモンって言ったか? 逃げるよりも、寝ているこいつを全員で攻撃すれば良いんじゃないか?」
(そうだ。このまま逃げ帰ったら俺達はどうなる。相当手強いモンスターではあるが、そいつから逃げ帰ったことになるし、まだ何のアイテムも回収できていない)
(だがコイツを倒せば強敵を倒したことになって箔が付くし、何かアイテムをドロップするかもしれない。それに悪魔系のモンスターの素材は高く売れることが多い)
そう考えて、シーザーは自分のアイディアの素晴らしさに興奮するが、新入りのコニーが口を出す。
「私のスキルは一撃でも攻撃すると解けてしまいます……。一撃で仕留められるなら攻撃しても良いですが……」
(何だと? ……そんなこと、出来るわけがない。パーティーの最高火力であるリリアンのスキルすら通用しなかったんだ)
シーザーは目の前が真っ白になった。
「早くしないと、こいつが目を覚まします! そうすれば今度こそ全滅です! 逃げましょう!」
コニーの言葉がきっかけで全員が一斉に立ち上がり、我こそはとフロアから駆け出していく。
何と最後尾になったのは、パーティー最弱のミックとコニーであった。
彼らはお互いの目を見ると、何かの決意を確認するかのように頷き合うのだった。
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