第16話 勇者パーティー、新メンバーとの連携を試す①
ギルドで40階層ボスのモンスター素材収集依頼を受け、勇者パーティー一行は早速【自由のダンジョン】へ向かった。
今日は新パーティーの連携を確かめるのと、他の冒険者へのお披露目も兼ねていた。
ダンジョンに着くと早速周りから声が聞こえ始める。
「勇者パーティーが来たぞ!」
「今日もクールで格好いいなぁ、シーザーさん! 俺もロン毛にしよっかな?」
「キャー! 今ラック様と目が合ったわ?! イケメンすぎる!」
「リリアン様の筋肉、ステキ! 今日も美しいわ!」
「せっ、聖女様だ! なんて神々しいんだ!」
「あらっ、新入りの子達、とっても可愛いわ!」
勇者パーティーは、町やダンジョンに行くと毎度このような賞賛の声を浴びていた。シーザー達はそれを当然のごとく受け止めていたが、ミックやコニーは初めてであり、戸惑いながらも興奮していた。
「あれ、賢者はどうした? 今日はいないのか?」
「おいおい、お前知らないのか? あいつは勇者パーティーを追放されたんだぞ?」
「マジかよ? 賢者がいなくて大丈夫なのか?」
「どうも役立たずのお荷物だったらしいぞ」
(よし。計算通りに情報が浸透していってるな)
シーザーはニヤリと笑う。
パーティーはダンジョンの一階にある転移魔法陣へ向かう。この前の探索で設置しておいたものだ。
31階層へは一瞬で行くことができ、自分達だけしか使用できない優れものだ。他にも主要な階層には魔法陣を設置してある。
「転移後すぐにモンスターが出るかもしれない。みんな、気を引き締めて行こう!」
「「「おう!」」」
リーダーの檄にメンバー達も応える。そして勇者パーティーは転移魔法陣に吸い込まれていった。
「僕達の人気ってかなりすごくない?」
白銀の重鎧を装備しタワーシールドを担いだラックは、歩きながらパーティーメンバーに向かって話し掛ける。
「そうね、前よりも上がってるんじゃないかしら? ラックが女に人気があるのはちょっと気に入らないけど」
リリアンが口を尖らせて言うと、ラックが苦笑する。
「あんなに注目されるの、生まれて初めてです!」
「これからもっと注目されるようになる。あれぐらいで萎縮するなよ?」
新入りミックの言葉に、シーザーが髪を掻き上げて言う。
「「はい!」」
そう返事をすると、二人の新入りは尊敬の眼差しで先輩冒険者達を見るのだった。
パーティーがダンジョンの探索を開始すると、続々とモンスターが出現した。しかし、Bランク下位のモンスターなど彼らの敵ではない。
地下31階は洞窟タイプのフロアで、シャドースネイクやダークスパイダーなどのモンスターが出現する。そのモンスターの群れをパーティーの連携で次々と倒していく。
「今日の戦いは気分が良い。口煩いアランがいないだけでこうも違うのか」
シーザーは清々しい気分に浸りながら呟く。とはいえ、問題もある。
(たかが一階のフロア探索に随分時間がかかった。もう午後を過ぎている。それに仲間達の体力と魔力消費がいつもより大きい。まあ、新パーティーだから当然かも知れんな)
前回のダンジョン探索で作成した地図を見ながら洞窟をどんどん進むが、宝箱にアイテムが復活していない。今回の探索にもかなりの経費をかけており、それなりに稼いでおく必要がある。このままでは赤字だ。
すると、マッピングを担当するミックは地図を眺めてあることに気づいた。空白の場所がいくつかあるのだ。
「シーザーさん、この場所は何でしょう?」
「おそらく探索していない場所だな。アランめ、本当に使えないやつだ。もしかしたら宝箱があるかも知れん。行ってみよう」
その場所に到着すると、なんと通常よりも豪華な装飾が施された宝箱が置いてある。
「やっぱりあるじゃないか、それも凄そうなやつが。ミックを新しくパーティーに入れて良かったよ」
そう言いながらシーザーが宝箱に向かう。
「ありがとうございます!」
ミックは嬉しそうに照れている。
「ねぇミック、シーザーさんが宝箱開けようとしてるけど、大丈夫なんだよね……?」
「えっ、いやいや、まだ俺何も調べてないし、そんな訳」
しかし、シーザーは既に宝箱を開けようと試みており、中々開けることができず困惑していた。
「おいミック、この宝箱を解錠できるか?」
シーザーが振り向いてそう言った瞬間、突然肩から腕にかけて激痛が走る。
「ぐあっ?!」
シーザーが前を向くと、なんと宝箱が自分の腕に噛み付いている。
「なっ、なんだこいつは?!」
「シーザー! 今助ける!」
ラックは驚愕の色を浮かべながらシーザーを助けに近づき、その後をリリアンが追う。
「はっ、早くしてくれ! 腕がちぎれるっ!」
いち早く到着したリリアンが宝箱を殴りつけると、宝箱はものすごい速さで後ろに下がった。そして宝箱は突如、一体の悪魔へと姿を変えた。
「な、何この魔物?! 見たことないわよ?!」
「僕もだよ。宝箱に擬態してたのか……? インプにしては大き過ぎる。シーザーにダメージを与えるなんて、かなり強いぞこいつ……」
リリアンとラックは初めて見る魔物に驚きを隠せない。
「キャ、キャサリン! 早く回復魔法を! ラックは俺を守れ!」
シーザーが叫ぶように指示すると、ラックは気を取り直してシーザーの前に立ち、タワーシールドを構える。
キャサリンも急いでシーザーに近づき、回復魔法の詠唱を始めた。
悪魔はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、鋭利な爪でラックに攻撃を仕掛ける。
「何だこいつの力?! 盾でガードしてるのに体勢を崩される! 悪魔のくせに戦士タイプなのか?! くそっ、【オールガード】!」
ラックが自身のスキルを発動した。【オールガード】は一分間だけ仲間の物理防御と魔法防御を上げる効果がある。
「よし、これで大丈夫だ! くっ、こいつ? まだニヤニヤしてやがる!」
悪魔は相変わらず嫌らしい笑みを浮かべながら攻撃を続ける。当然、リリアンはそれを見ているだけではなかった。
「ハアッ!」「ヤアッ!」
全力を込めた拳で悪魔を何度も殴る。しかし、全く効いている様子がない。
「パキッ」
再びリリアンが攻撃した拍子に、指に嵌めていた指輪が割れてしまった。
「キャア?! 私の指輪が?! この野郎ぉ!」
リリアンが怒りに震え叫ぶ。そして、
「許さないわよ! くらえ、【ヘビィスマッシュ】!」
リリアンはスキルを放つ。【ヘビィスマッシュ】はその名の通り、敵に強烈な一撃をお見舞いする技で、通常の突きの何倍もの威力を発揮する。
「バゴォ!」
悪魔の顔を正確にとらえ、その衝撃で悪魔の口から生えていた牙を叩き割った。
「やったわ、このくそ野郎!」
汚い言葉でリリアンが罵る。しかし、よく見ると悪魔の顔から笑みが消えていない。そして何かぼそっとつぶやくと、悪魔の牙が見る見るうちに元通りになった。
「ケケケッ!」
「なっ、何なのこいつ?!」
渾身の一撃が余り意味をなさず、リリアンは恐怖の色を浮かべてそう呟く。そして次の瞬間、
「バキッ!」
と悪魔の裏拳がリリアンの顔をとらえ、その勢いで壁に叩きつけられた。
「う、うぅ……」
「リリアン!」
ラックがリリアンを心配して叫ぶが返事はない。
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