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第11話 オリビアのギルド日誌

 リーナとのランチを楽しんだ後、オリビアはギルドの受付業務を再開した。


 昼過ぎは冒険者が町を出て行くタイミングで、依頼の受付が忙しくなる。しかし、それが過ぎれば随分と落ち着くので、オリビアにとって事務作業を進められる時間帯が来る。ギルド日誌を書くのも決まってこの時間帯だった。



「何だか最近、日誌にはリーナちゃんとアランさんの事ばっかり書いてるわ。でも新しく起きたことと言ったら、二人がこの町に来たことぐらいだし、しょうがないわね」


「そんなことより、リーナちゃん、今日も可愛いかったわ……」


 リーナに出会ってからというもの、彼女を毎日心配せずにはいられない、そして可愛がらずにはいられない。オリビアはそんな状態だった。


「私に妹はいないけど、いたらこんな気持ちだったのかしら」


 そんなことを思いながら、リーナについてあれこれ考えてしまう。


「そういえば、最初にリーナちゃんへ紹介した冒険者パーティーは失敗だったわ」


 そう言ってオリビアは悔やむ。リーナを育ててくれるだろうと期待したのだが、リーナが魔法を使えないと分かるとすぐにパーティーをクビにしたのだ。


「冒険者のパーティーは新人を育成するのも大事な仕事の一つなのよ」


 それがオリビアの持論だった。冒険者ギルドで育成するのには限界がある。実際の経験を積むことができないからだ。


「でも、冒険者パーティーにもメリットがないと、新人の育成なんてやる意味無いわよね……」


 新人育成はギルドが抱える課題の一つなのだが、残念ながら未だ良い解決策が見つけられずにいる。



「そして、あの人が来たのよね……。本当にびっくりしたわ」


 アメリゴ王国の勇者パーティーで『賢者』と称されることもあったアランが、突然この町にやって来た。勇者パーティーの噂は隣国であるこのカナディアにも広まっていた。本物かと疑ったが、オリビアが彼の冒険者証を見る限り間違いなさそうだった。


 手紙の配達などという簡単な依頼を、なぜアランが引き受けたのかは分からなかったが、翌日聞いた噂で理由が想像できた。


「アメリゴの冒険者ギルドからの情報だと、あの勇者パーティーを追放されたらしいのよね。それで、アメリゴの町に居づらくなってこの町に来ることにしたのかしら。手紙の配達がそのついでなら、何となく理解できるわね」


「まぁ私の想像が合ってるかどうかは置いておいて、大事なのはアランさんがソロで、勇者パーティーの中で『賢者』って言われてた実力者だってことよ」


 つまり、リーナがパーティーを組む相手としては申し分ないのだ。しかし、パーティーを追放された原因がアランにあったとすれば話は変わってくる。


 リーナには今度こそしっかりとしたパーティーに入ってほしい。オリビアはそう考え、ひとまずアランの様子を観察することにしたのだった。



「冒険者として実力、申し分無かったわね」


 最初の依頼達成報告を受けた際、アランの確かな実力にオリビアは驚嘆した。納品された素材や魔石の品質はどれも高く、彼の仕事ぶりは素晴らしかった。


「そして人柄も問題無かったわ。いえ寧ろ、彼の話し方や態度、何か安心させられるというか、頼りたくなるぐらいなのよね。ただ、報酬を受け取るときに時々見せるあの顔は、ちょっと気になるといえば気になるけど……」


「どちらにしても、アランさんの様子を観察するなんて、私なんかが烏滸(おこ)がましかったわね……。ランクはC級だけど、何かの間違いに違いないわ。あそこの冒険者ギルドは何をしてたのかしら?」


 そう考え、オリビアはアメリゴの冒険者ギルドに強い疑念を抱く。



 そんなアランに、早速オリビアはリーナとパーティーを組まないか提案したのだった。アランが少し悩んでいたので、依頼の報酬額を多めにすることも付け加えた。


「あの程度、ギルドの課題を解決するには必要な経費だわ」


 オリビアはギルド内でそれなりの意志決定が許されていた。


 そして、リーナから昨日のことについて話を聞き、やはりアランに対する自分の考えは間違っていないことが確認できた。


「突然リーナちゃんが魔法を使えるようになるなんて……。そして、その魔法でCランクのモンスターを討伐してしまうなんて。未だに信じられないわ……」


 リーナの実力と、それを引き出したアランの能力に驚きつつ、これで少しでもリーナが悲しむようなことが無くなればと、オリビアは祈るような気持ちでいるのだった。



「それはそうと、アランさんのあの顔、あれが無ければ完璧なのに」


 オリビアはふと、アランの唯一の欠点と感じるあの顔を思い出した。なんというか、嬉しさに顔が緩んだ、言い方は悪いが少し下品な顔だ。


 ただ、お金を稼ぐという野心と、それに必要な実力を兼ね備えている人物はそうそういない。あの顔がその野心の表れと思えば、なんだか少し可愛い気もしてくる。


「やだ、私ったら何を考えてるのかしら……」


 オリビアは自分の考えに少し驚きつつ、すぐに今後のことに頭を切り替える。



「うちのギルドの大きな課題、新人の育成について、アランさんに相談してみようかしら……」


 少し悩んだ後、決心する。


「いえ、相談するべきだわ。だって彼は『賢者』と呼ばれるぐらい賢いんですもの」


 そう考え、行動的なオリビアは、早速ギルドマスターへの提案書を作成することにした。


 その前に、ささっと日誌を書き終えてしまおう。ここ数日、書くネタに困らないのがありがたい。



 カナディアの冒険者ギルドでやり手と評判の受付嬢オリビアの一日は、こうして過ぎていくのだった。

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