第10話 リーナとオリビアの女子会
「このパンケーキ、とっても美味しいですっ!」
色とりどりの木苺が添えられ、大きなバターとたっぷりのシロップがかかったパンケーキを頬張りながら、リーナは正面に座るオリビアに感想を述べた。
「そうでしょう? このお店はパンケーキだけじゃなくて、ホーンラビットのお肉を使ったサンドイッチとか、アーマードボアの自家製ベーコンなんかも美味しいの。カナディアで一番おすすめのカフェよ。また来ましょうね!」
オリビアがニコッと笑いながら言う。
「はいっ、そうしましょう!」
リーナは元気良く返事をする。
「今日は突然誘っちゃってごめんなさいね。早く昨日のことが聞きたくて、つい……」
オリビアが申し訳なさそうに言う。
今朝オリビアに誘われてリーナはこのカフェに来た。昨日パーティーを組んでみた感想が聞きたいと言うのが理由だった。
「いいえ! 私もオリビアさんとお話ししたかったですっ!」
「まぁ! リーナちゃんは本当に良い子ね!」
オリビアに褒められ、リーナは少し照れてしまう。
オリビアに初めて会ったのは一週間前、リーナがこの町に来た日のことだった。
町に入ると突然リーナはガラの悪い男達に絡まれ、魔族は出ていけと突き飛ばされた。戸惑いと恐怖でリーナの心は深く傷ついた。
そこをたまたま通りかかったオリビアがリーナを助け、冒険者ギルドまで案内してくれたのだった。
それ以来、オリビアはいつもリーナを気に掛けてくれる。なぜリーナが一人でこの町に来たのかなどには少しも触れようとしない。
(オリビアさんに会えて本当に良かった)
姉のようなオリビアと話していると、リーナはいつもそんな気持ちになる。痛む心が癒やされるような、そんな気持ちになるのだ。
「じゃあリーナちゃん、昨日のことだけど、どんな感じだったか教えてくれるかしら?」
「はい!」
リーナは身振り手振りを交えて、オリビアに昨日のことを詳しく説明した。
アランから魔物の解体について幅広い知識と技術を教わったこと、アランに相談を聞いてもらい魔法が使えるようになったこと、その魔法でモンスターを倒したこと、などなど。
「オリビアさんが言っていた通り、アランさんは色んなことを知っていてとても凄い人でした! アランさんを紹介してくれて本当にありがとうございますっ!」
昨日冒険から戻ってきてから、リーナはこれをオリビアに伝えたいと思っていた。アランとパーティーを組む前は、これからどうすれば良いのかずっと悩んでいたのだ。
しかし、リーナは冒険者としてやっていく決心をした。少しだけ自信を持つことも出来た。こうなれたのは、オリビアとアランのお陰だと思っている。
「どういたしまして。リーナちゃんの笑顔が見れて、本当に嬉しいわ」
オリビアがそう言って優しく微笑む。
「それでリーナちゃん、アランさんの事なんだけど」
やや聞き辛そうな様子でオリビアがリーナに言う。
「何か気になるところはなかったかしら……その……、行動とか、会話とか」
「……気になるところ……ですか?」
リーナはどう言う意味だろうと考えつつ、アランの言動を思い返す。
(気になるところと言うより、驚いたところはさっきお話ししたから……オリビアさんに伝えていないのはアランさんのスキルかなぁ? でも……)
アランがスキルの詳細を教えてくれたのは、リーナがパーティーメンバーだからだ。その為、例えオリビアであっても、スキルについて気軽に教えるわけにはいかない。リーナはそう考えて悩む。
ただアランはこうも言っていた。
どのようなスキルを持っているかは個人の評価につながるから、欠点以外は公表している人が多い。要はプラスになることを言うぶんには問題ない、と。
リーナの場合、【短縮詠唱】持ちであることについては公表して問題ないらしい。そして、普通の詠唱が出来ないことと、30秒のクールダウンがあるという欠点は公表しなくて良いのでは、とのことだった。
一方アランはどうか。リーナはアランのスキルを冷静に考えてみたことがあった。その時に考えた結果はこうだ。
【コンサルティング】のスキルが持つ能力の一つ『最適解』。
アランが言うように、いきなり答えを教えてくれる訳でもないし、そもそも選択肢を挙げること自体簡単ではないから、使いこなすのが難しそうだ。ただそれさえできれば、あらゆる問題を解くことが出来るだろう。
そして『解決報酬』。依頼を受けつけ、その依頼を解決すると報酬がもらえる能力。
依頼は自分が達成できるものしか受けられないらしい。冒険者の中にはとりあえず依頼を受けて、後から解決方法を詰めていく者も多いが、それが出来ないから不便だとアランは言っていた。
確かにそうかも知れないが、そもそも達成できるか否かの判断を事前に出来るということは、失敗することもない。場合によっては命を落とす危険も回避できる。
そして、依頼を解決することで報酬がもらえる点についてはメリットしか無い。
アランはリーナのスキルをレアだと教えてくれたが、ではアランのスキルはどうなるのだろう。アラン自身は普通のスキルじゃないかと言っていたが、リーナにはとてもそう思えなかった。
「リーナちゃん? 随分考え込んでいるけど、大丈夫?」
「あっ、はい! すみません! 気になったところですけど……今のところ、特にありません!」
リーナは、アランのスキルについて自分が話してしまうのは良くないと思った。
かなり規格外の能力に思えるし、自分にはその真価が理解できていない。そんな状態で、自分の話したことがアランの不利益になってしまったら取り返しがつかない、と。
「……そう。じゃあやっぱり、彼は本物なのね」
オリビアは何かを確信したように頷く。
「なら良かったわ。そういえば昨日ギルドを出た後、リーナちゃん達が冒険者に絡まれたって聞いたわ。無事なのはすぐ確かめたけど、すごく心配していたの……。大丈夫だった?」
「はい、大丈夫でした! 怖かったんですけど、アランさんが助けてくれましたっ!」
「そう! 本当に、本当に無事で良かったわ!」
オリビアはそう言うと、いつもの優しい笑顔になる。オリビアを心配させないように、これからもっと強くなり、冒険者としても成長しようとリーナは思う。
セットで出てきた香りの良いミルクティーを飲みながら、リーナの頭にふと昨日のアランが思い浮かぶ。
(とにかく凄かったなぁ。アランさんがいなかったら、きっと今でも魔法が使えないままだったんだよね……)
アランの知識は、魔法を教えてくれたギルドの職員でさえ知らないことだった。それをなぜアランが知っていのか、リーナは今でも不思議だが、きっとこれまでたくさん努力してきた結果なのだろうと思う。
(初めて会ったときは少し怖かったけど、本当はすごく親切な人だった)
(怖い人達に声をかけられたときも、当たり前のように守ってくれた。強くて優しい憧れの人……)
「オリビアさん、私、アランさんみたいになりたいですっ!」
リーナはオリビアに自分の目標を伝える。突然の宣言だったが、オリビアは
「そうね、とっても良いと思うわ!」
と強く、そして優しく同意してくれた。
「じゃあそうなれるように、もっとたくさん食べましょう?」
そう言うと、オリビアは追加でパンケーキを頼み、オリビアに半分切り分けてくれる。
リーナはそのパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、時間が許すまでオリビアと取り止めのない会話を楽しむのだった。
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