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プロローグ2 兄の回想

やっと2話目を投稿できたー!

「お前には才能がある。」


「あなたは天才だわ。」


「さすが天下の、藤宮 (かける)だ。」


サッカーをはじめてしばらくしてから俺は常にそのような評価を受けてきた。事実、俺には才能があったのだろう。20歳というまだまだ若い年齢でワールドカップという大舞台でエースナンバーを背負い、ゴールを奪うというのは、努力だけでどうにかなるものでは無い。もちろん、努力はしてきたが。そんなサッカー少年なら誰でも憧れるような順風満帆なサッカー人生を送っているのにも関わらず、俺の心はあの時、俺の弟、藤宮 (さとる)がサッカーをやめてしまった日から常に喪失感に襲われている。


俺と弟は小学時代最強兄弟と謳われていた。悟のパスを俺が決める、あの時代のサッカーが一番楽しかった。


悟の1つ上だった俺は全国でも有名なサッカーの強豪中学に推薦で入学した。1年生の時からレギュラーとして試合に出たが、惜しくも全国制覇は出来なかった。でも、次の年に悟も入って来る、そしたら来年こそ優勝だ!と意気込んでいたのにも関わらず悟は俺の中学に入学せず、近所の特にサッカーが強い訳でもない公立中学校に入学した。なぜそんな学校に行って、俺と同じところに来なかったのかと問いつめた時、悟は悲しそうな顔で、


「行かなかったんじゃない、行けなかったんだよ。俺には兄さんの中学はおろか、他の中学からも推薦が来なかった。」


と答えた。信じられなかった。兄の贔屓目を抜きにしても悟の才能は本物だった。当時の監督になぜ悟をスカウトしなかったのかと問うと、


「あの子の小学校での活躍はお前と、その1つ下のストライカーのおかげに過ぎない。あの子自身にスカウトするだけの価値はない。」


そう答えた。率直に馬鹿なのかと思った。今まで的確な指示を出していて、尊敬できる監督だったのに、それが全て崩れた瞬間だった。確かに悟の才能は俺と比べると分かりにくいものだったが、決して俺に劣ることはなく同等、或いは超える才能だった。それを見抜けなかったあの監督は指導者失格だろう。




その後中学を卒業して高校1年生の時、俺は悟の中学の最後の大会を見に行った。相手は守備力に定評のあるなかなか強い学校だった。試合は前半戦、悟が相手のディフェンスを嘲笑うかのような良いパスを何本も出すのにも関わらず、それを決められないフォワードのせいで3対0で押されていた。俺ほどとは言わずとも、もう少しまともなフォワードがいたら圧勝しているのに、と歯がゆい気分で見ていた俺は、これはこのまま1点もとれずに負けるなと予想して後半を迎えた。後半戦、悟のチームは何を血迷ったか、入るはずもないミドルシュートを何本も打っていた。どういうつもりなのかと思っていたら、試合終了間際、ミドルシュートを警戒して無意識に上がっていた相手のディフェンスラインを突破して決定的なパスが飛び出し、なんとか1点をもぎ取った。悟はどう頑張っても勝てないと判断し、後半戦のほとんどの時間を犠牲にしてなんとか一矢報いる作戦をとったのだろう。素晴らしかった。俺が同じ立場なら1点もとれずに敗北していただろう。観客からは弟の方は大したことないのか、とかいう、何も知らない馬鹿なことを言っていたが、俺は高校こそは同じチームでプレイしたいという思いを強くした。







しかし、その日の夕食のあと、悟は俺に



「兄さん、僕サッカー辞めるよ。」



と告げた。



いきなりのことに驚いた俺は、とりあえず理由を聞いた。すると悟は、



「観たんだろ、今日の僕の試合。一点しか取れずに惨敗だよ。僕に兄さんみたいな才能は無いよ。それに、もう兄さんと比べられ続けるのには耐えられないよ。」


と答えた。悟に才能がないわけないと思っていた俺はその答えに納得出来ず考え直すように何度も説得したが、悟の苦しみを何一つ理解できていなかった当時の俺には悟の考えを変えることはできなかった。当時の俺は賞賛されることはあっても、批判されることなんて経験していなかった。だから、悟の苦しみを分かってあげられなかった。だが、プロとして戦う今なら分かる。人の批判や悪口がどれだけメンタルに影響を与えるのかを。プロというのは、勝てば評価されるが、負けたら容赦ない批判が飛んでくる。それをメンタルトレーニングなんてものをしているはずもない中学生の悟が受けるのはあまりにも辛かっただろう。まして、悟の場合いいプレーをしても俺の弟だから当然、兄はもっと上手かった、などと正当に評価されることもなく、ただ批判されるだけ。そんな中腐らずに中学の三年間ひたむきに努力を重ねていたのに、俺はそんな悟を救ってやることができなかった。兄失格だ。






もし俺にもう一度チャンスが与えられるのならば今度こそ悟と一緒にずっとサッカーをして世界で戦いたいな。


そんな叶うはずもないことを考えながら俺は眠りについたのだった。

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