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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鮮烈な意思

作者: 需架


 おれは鉱夫だ、一日中松明と暗闇の中でツルハシを振るうだけの存在、昨日まで横でツルハシを振っていた奴も、えばっていた奴も、一週間経てば生きているかわかんねえ、生きていたとしても疲れ果てて陸に打ち上げられた魚みてえな目になっちまう、おれだってそうだ。


 だからよ、おれはアイツをすげえって思ってるんだ、本当だぜ。


 アイツはおしゃべりが好きでよ、「この世界を変える」だとか「君たちを救ってみせる」なんて言ってたんだ、笑っちまうだろ? こんな掃き溜めみてえな所でそんな世迷言を話しているんだからよお。


 でも、おれはすぐにアイツに惹かれていったんだ、アイツと一緒にいると、メシの量が増えるし、少しおしゃべりしていても看守が殴ってこねえ、噂に聞いた天国ってのはこういう事なんだって、すぐにわかったよ。


 でも、ここを離れようとしているのはすぐにわかっちまった、ここには黒と赤しかない、そんな世界でアイツが表せるわけがない、美しくって、気高い、そんなアイツがこんな所に留まるわけがないんだ、俺だってそう思った、でもそんなの許せないよなあ。


 だからよ、ずっとここにいてもらう事にしたんだ、脚が使えなくなって、ガキでも孕めば"女"は留まるしか無い、おれはこの人生ではじめてものを考えた、そして唯一の決意をもったんだ、アイツのおかげさ。



 おれはツルハシを握ってアイツが普段寝ている洞穴に向かい、手に馴染んだこれを初めて武器として振るった。


土の下の鉱石を掘った時のような、鈍い音が岩壁に沁み渡る。


「い"っ"⁉︎ う"あ"あ"ああああっ!」



 もう片方の脚に向かってツルハシを振るうも、動くせいでなかなか当たることはない。


「っ! はっはっ、はあっ! ふぅっ……止めろナタラ!」


 ナタラとはおれの名前だ、母に与えられ誰にも覚えられることのなかった名前、いつだったかポロリもらしたそれを覚えていたという事だ。


 思わず手を止めてしまう、やめてくれ、おれの決意がにぶってしまう。


「ナタラ、何故こんな事をしたんだ、何か訳があるなら私に聞かせてくれないか?」


「……おれはオマエがここを出て行っちまうんでないかとおもって、脚を怪我すれば出ていけないと思ったんだ」


「そうか、すまないナタラ、私は君の言う通り、もうすぐここを出ていく、それはたとえ私の手足が使い物にならなくなっていたとしてもだ、何者にも、この私の邪魔はさせない、いいね?」


 おれはこの暗闇の世界の中で眩しいほどに輝くランタンの元にいるような感覚を感じた、一体なんなのかはわからないが、安心するような感覚で、無意識に首を縦に振っていた。


「私は世界を変えて戻って来る、その頃には君たちはこんな所で働かなくても良くなる、もっと良い暮らしが出来る様になるんだ、すごい事だろう?」


「良い暮らし……パンが増えるとかか? それは、とても良い」


「……………………パンどころじゃないさ、魚とか、野菜も食べられる、魚って知ってるか? 水の中で生きてる生き物だ」


 二人は夜通し話し続け、その次の夜もおれは洞穴へ向かったが、そこには誰も居なかった、アイツが寝床に使っていた藁が残されていただけだった。



 おれはアイツが戻って来るのを待ち続けた。

 そんなある日おれたちは看守に連れられ、そと、という所に連れて行かれた、なんとかさまが出すようにと言ったらしい。


おれたちが看守に連れられ、さらに歩いていると、大きなものに乗ったアイツが居たんだ! おれはつい嬉しくなって駆け寄ろうとしたが、偉そうな奴に阻まれてしまう。


「おうい! おれだ、ナタラだ!」


 アイツと横の爺が何かを話している、内容までは聞こえないが。



「皇女様、どう致しますか?」


「うむ、覚えておるぞ、母上の脚を打ったという下郎の名だ、即刻捉えて市中引き回しにせよ、今すぐにだ」


 俺はたちまちのうちに身体をぐるんぐるん巻きにされ、人がたくさんいる所で大きな奴に引きずられて、叫ぶ人たちにたくさんの石を投げつけられた。


 ついには意識も朦朧としてきた、このままおれは居なくなってしまうのだろうか、くそう、魚だってまだ知らないのに。



 騒ぎはさらに大きくなっている、大きい奴が止まり、おれは尻が剥げる心配をしなくて良くなった、しかし身体中が燃えるように痛い、消えた鉱夫もこんな思いをしていたのだろうか、かつての同僚達に思いを馳せ、終わりを待っていると、アイツが目の前に現れた! どうやら何かを叫んでいるようだが……おれを呼んでいるんだ!


 おれはもはや何も聞こえないし、手も足も体さえも使い物にならないけど、俺は、あの時のアイツのように言ってやるんだ。


「おれは、オマエにあえて、良かった……」

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