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7.明日菜のタイプ?

 明日菜たちの叔父が出資している映画会社だが、そうは言っても立派なのは機械ばかりで、建物の規模自体は小さかった。


 撮影セットの置ける二階までぶち抜きのスタジオが主で、他は掘っ立て小屋レベルのプレハブがいくつかと、中古のコンテナを譲り受けて積み重ね、荷物を入れているような状態だ。そのせいでここら一帯はまるで迷路のようになっている。ちなみに、社長が寝泊まりするのは敷地内のキャンピングカーだ。


 そこに所属するアクション俳優、ニール・クロフォードはちょうど出番が終わった後だったからか、監督に無茶振りをされていた。


「悪いんだけど、観光に来た子たちにスタジオ案内してやってよ、ニールちゃん」

「か、観光? 案内?」


 何でこんな場所に観光なのか。そもそも、どうして俺が案内担当なんだ? ニールの頭の中は混乱していた。


「中国だか日本だか知らないけど、アジアから来た女の子たちなんだってさ。Mr.クサカの姪っ子とお友達。クサカはけっこうな出資者なんだ、ご機嫌を損ねないようにしてくれよ」

「いやだから、何で俺が……」

「頼むよ〜、ニールちゃあん! なんて言ったってイケメン俳優なんだからさぁ! ニコニコしてればいいから! ね?」

「ったく……」


 ニールは苛立ったが、監督の頼みとあれば断り切れない。なにせ、現在三十二歳のニールはあまり役のつかない、どちらかと言えば落ち目の俳優なのだから。

 十五の頃から続けているインドの古武術、カラリパヤットで会得した体術と剣術を活かした多彩なアクションが売りではあるのだが、いかんせん一般客に浸透していない武術なので、なかなかオファーが来ない。


 生活のためにガスステーションでバイトしたり、単発のスタントの仕事をこなしたりしながら、細々と続けているのだ。


 仕方なくニールは観光客のためにスタジオの玄関口へと向かった。彼女らがやってきたら、出迎えてスタジオについて説明し、監督のところへ連れて行くこと。内部の案内もすることになるだろう。


 仕方がなくエントランスにあるカウンターに座って待っていると、やがてバンが止まって中から件の観光客たちが出てきた。しかし、その一団は、ニールが思っていたよりも多かった。

 Mr.クサカと、ハイティーンの女の子ふたり、それに同じ年頃の少年がひとり。それより年上だろう男女はおそらく大学生だろうか?


 ニールは仕事柄、武術に関わる人間をよく見ているので、若い黒髪の男が何らかの武術を修めていることはすぐに見て取れた。小柄ながら俊敏そうで、良い足腰をしている。


 と思っていると、いかにもアメリカンな中年男性が一歩前に出て挨拶をしてきたので、ニールはそちらに対応することにした。


「わ~~~、すごいカッコイイひとぉ!」

「明日菜好みのひとね」


 明日菜が小声で叫ぶのを、晶が同じく小声で肯定する。そんなやり取りを横で聞いていた美智子は驚いて変な顔になっていた。


(えー! こんなむさ苦しそうなオヤジが好みなの? このふたりとは恋愛の趣味が合わなさそう……)


 美智子からすると、年齢が上すぎるのとヒゲがむさ苦しいのがNGだった。


「明日菜、せっかくだから話しかけてみたら?」

「えっ! そんな〜、恥ずかしい〜〜!」

「とか言いつつ、本当は乗り気なのよね」

「えっへっへ〜」

「アスナって、マジ趣味どうかしてるんだよなぁ」


 ポツリとこぼれた流のつぶやきに、美智子と賢吾は内心でコッソリ頷いていた。そんな後ろのことは気にせず、明日菜は叔父とニールの会話が止まったのを見計らって、ふたりの前に顔を出した。


「Hi! I‘m Asuna Kusaka. Glad to see you. Mr…?」


 ニールは、握手のために差し出された手を握り返した。明日菜と名乗った少女の言葉はとても聞き取りやすい。


「ニール・クロフォード。ここに所属している俳優だ。英語がわかるのならひと安心だな。よろしく」

「よろしくお願いします!」


 見学希望とはいえ、言葉のわからない相手に熱心に説明して回っても虚しいだけだが、少なくともこの少女には通じるようなのでホッとするニールだった。


 ひとまず監督のところへ連れて行くと、そこで監督とクサカが話し込み始めてしまったので、ニールは仕方がなく残りの五人にスタジオの中を案内し始めることにした。


 まず教えておかないといけないのはトイレの場所と休憩室だ。それから、スタジオに出資してくれそうな客に見せるための部屋。小道具置き場や衣装室だ。そしてトレーニングのための部屋と、実際の現場である。


「今、なんか撮ってんの?」


 流の質問を晶がニールに伝える。


「アクション映画の撮影中だ。ドカーンと爆発したりとか、そういう感じのヤツだ。まぁ、B級だけど」


 と、ニールが答え、晶がそれを流に訳して教えたそのとき、大きな爆発音が辺りに響いた。


「わぁ、すっげえ! さすがハリウッド、爆発も豪快だぜ!」

「……いや、あれはおかしいぞ!」


 派手な音にワクワクする流。しかしニールにはこれが異常事態だとわかっていた。


「ここにいろ!」


 そう言い置いて、ニールは音のした方へ走り出していた。

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