5.スタジオ見学のお誘い
空港についた賢吾と美智子は高校生の3人と別れ、そのまま空港出発のバスでまっすぐハリウッドへと向かった。
やはり、ロサンゼルスきっての観光地として知られている人気の観光スポットなので、ホテルに行く前に見ておきたかったのだ。
(なんか、昔を思い出すわ。東京に出てきたときもこうやって、賢ちゃんとトランク抱えてバスに揺られたのよね。ワクワクしながら)
賢吾がスポーツ推薦枠で東京の大学を受験することが決まって、美智子も同じく東京に進学を決めた。ふたりして無事に合格して岩手県からはるばる上京したときには、何もかもが新鮮で、新生活の始まりに胸をときめかせた。
卒業を間近に控えた今は、賢吾は大手食品メーカーの企画広報部署に内定が決まっているし、美智子もつい先日、バイト先の本社との面接を終えて、卒業後は晴れて正社員として迎えられることが決まった。
だから今回は、ふたりとも自由な大学生活に別れを告げる記念の旅行なのだ。
「ついに来たな、ハリウッド!」
「じゃーまず、ハリウッド & ハイランドのショッピングモールに行きましょ!」
「お、おう」
賢吾と美智子がハリウッドを一周して戻って来た頃、まさかの偶然で例の高校生たちとまたまた遭遇した。
「あれ? なぁ、美智子。あれってさっきSNS交換した高校生じゃないか?」
「あら本当ね。おーい!」
手を振る美智子に最初に気づいたのはアスナだった。
「あっ、さっきのおねえさん! おふたりもこっちに来てたんですね〜!」
大きく手をふるアスナの後ろで、晶がお辞儀をした。一緒にいた少年も小さく首を動かす。あれで挨拶しているつもりのようだ。
「わたしたち、荷物を置いて、今こっちに来たばっかりなんですよ」
「そうなのね。どうりで身軽そうだと思ったわ。私たちはちょっとだけ見て回ったところよ。貴方たちはどこのホテルなの?」
「えへへ、じつはおじさんの家に泊まらせてもらうんです」
「あら、いいわね」
ホテルの方が気兼ねしないが、外国のことである。トラブルが起きたときに対応するのは億劫だ。トラブル内容を説明することがまず面倒なのに、それらはすべて英会話、しかもなにかしてもらえばチップが必要でなおさら面倒くさい。
親戚のおじさんの家なら、気遣いは必要だがまず言葉のストレスがないし、困ったときも意思の疎通が容易だ。それに、親戚の子どもを三人も受け入れてくれる人なら、面倒見もいいだろう。
それに何より、現地に詳しい大人がいてくれることで、犯罪に巻き込まれる確率を大きく減らすことができる。
明日菜はニコニコして言葉を続けた。
「そうだ、いいこと思いついた! おじさんがお願いしてくれて、今から知り合いの映画スタジオを見学できることになったんですけど、よかったら一緒に行きませんか?」
美智子たちはバスと徒歩で回っている。車に乗せてもらえて、冷房の効いたスタジオに入れるというのは充分以上に魅力的な提案だった。
「でも、いいのかしら」
「はい。おじさん、おしゃべり好きだし、元々はもっとたくさんの友達と来る予定だったんですよ。車は大きなバンだし、ちゃんとスペースありますよ」
「ええ。せっかくなので予定がなければ、ぜひ」
晶も重ねて誘ってくれるので、美智子は賢吾と顔を見合わせた。どうやらふたりとも、同じ考えのようだった。
「じゃー、それでいくか」
「そうね。映画のスタジオって何だかんだで初めて見学するかもしれないわね」
「ああ、お台場のテレビ局のスタジオしか見に行ったことないもんな」
本場ハリウッドのスタジオとはいったいどんな場所なのか? 賢吾と美智子はありがたくその提案を受けることにした。