4.早い再会
「ったく、何してんだよ、アイツら……」
三人分のチケットを手に、流は気をもんでいた。飛行機に乗る準備は整っているのに、肝心のふたりがまだ来ない。流が振り返って探していると、離れた場所で若い男女と話し込んでいた。
「お〜い、晶、アスナ! 早く行こうぜ!」
そう流が声をかけると、晶たちは会話を切り上げて小走りに駆けてきた。
「もう! 流ったら!」
「へ? なに?」
「いいわ、もう。中へ入りましょう」
なぜ怒られているのかよくわからないまま流は飛行機に乗った。チケットを見ながら席を見つけて、頭上の棚にキャリーケースとバックパックを入れていく。
「あっ、さっきの!」
「あら。隣だったのね」
明日菜の声に振り向くと、そこにいたのは先程のカップルだった。ふたりの座席は通路を挟んで窓際のツーシートのようだ。
明日菜は物怖じせず、にこやかに話しかける。
「すごい偶然! 奇遇ですね」
「ホントね。何かの縁を感じるわ」
カップルの女の方もクールにだが、好意的に応じた。
「もしかして、行き先も同じだったりして?」
と、明日菜がわかりきったことを言って笑いを取ろうとしたのに、男の方が真顔で言う。
「そりゃまあ、同じ行き先の飛行機に乗ってるんだから行き先も一緒だろ」
シラッとした空気が流れる。女性陣三人にジト目で見られ、男は居心地悪そうに窓際の席に座った。
「お二人はどちらを回られるんですか?」
そんな空気を壊すように、晶が明るく女子高生に話しかける。
「そうねぇ。色々見て回るつもりだけど」
「ハリウッドとか?」
明日菜もさっきの塩対応にもめげずに、晶とカノジョの会話に加わっていく。
「ええ、行くわよ」
「いいですよね、ハリウッド! わたしたちも行くんですよ」
「あら、そうなの?」
「わたし、明日菜っていいます。久坂 明日菜。お姉さんは? よかったら、ID交換しませんか?」
「ええ、もちろん。私は神谷 美智子よ。こっちはカレシの賢ちゃん」
「よろしくお願いします。私は吾妻 晶です。ほら、流も自己紹介して」
「えっ」
「賢ちゃんもね」
「お、おう」
和気あいあいとする女子三人に対し、通路を隔てた反対側にいる流たちは、実際の距離も心の距離も離れている。
「新島 流です。ドーモ」
「久井 賢吾だ」
「…………」
「…………」
いけすかない、と互いの顔に書いてある。
流は賢吾を上から下まで眺めて思った。
(背は低いけどガタイがいいな。鍛えてんのかな? 無愛想だし、なんか偏屈そうだし、キレイなお姉さん連れなのがムカつく!)
対する賢吾の方も流を観察して感想を抱いていた。
(態度の悪いヤツだな。見た目高校生ぐらいかな? 愛想もないしやる気もなさそう。体力もなさそうだし筋力もなさそうだな。それはさておき女ふたり連れとは……うらやましいな)
互いに「コイツとは馬が合わなさそうだ」と直感したふたりは、関わらないことにした。その後は通路を挟んで女の子たちが色々とやり取りしていたが、賢吾も流もそれにはノータッチだった。
飛行機は予定通りの時刻に離陸した。シートベルトの解除ランプが点灯したのを確認し、賢吾は大きく息を吐いた。
「あー……。とりあえず出国はできそうだから問題ないな」
「そうね。それにしても、卒業旅行にまさかハリウッドなんてね。賢ちゃんの考えはやっぱり読めないなぁ」
「……嫌だったのか?」
まさか、今このタイミングで、と賢吾は驚く。目がカッと見開かれて少し怖い顔になっているが、長い付き合いの美智子からすれば可愛いものだ。美智子は笑った。
「ううん、全然! むしろ、すっごく楽しみなのよ。驚いたのは旅行に誘ってくれたことと、行き先がロスだったこと。いい旅行にしましょうね!」
「ああ。そうだな」
美智子の笑顔を見てホッとした賢吾は、座席の背もたれに深く腰掛けフッと笑った。