3.晶と明日菜
「はぁい! わたし、明日菜。よろしくね!」
「よろしくぅ……」
羽田からロサンゼルスへ、飛行機に乗ってアメリカへ向かうまさに当日、流は初めて晶のイトコと顔合わせした。
明日菜と名乗った彼女は、おっとりしている晶と違い、ハイテンションで表情がコロコロ変わる感じの女の子だった。
身長は160cmの晶よりも少し低い、155cm。明るい栗色の長い髪を左側にサイドポニーテールにしている。星の飾りがついた黒いシュシュがお気に入りだ。
目もパッチリとしていて大きい。そして大きいのは目だけではなく……、スッと視線を下ろした先にある胸もだ。まるで小ぶりのメロンくらいある。
(イトコなのにこんなにも差がついて……ちょっと可哀想すぎて涙が出てくるよなぁ)
などと流がとんでもなく失礼なことを胸の中で思っている間に、明日菜が晶の耳にそっと唇を寄せて、小声でささやいていた。
「晶ちゃんのカレシ、なんか意外〜。ヤンキー入ってない?」
「そう?」
ささやき声だが聞こえている。
それもかなりハッキリ。流れは思わずツッコんでいた。
「オレの髪は色素が薄いだけだっつの! 染めてないし!」
「あちゃ。聞こえちゃってた? 気にしてたならごめ〜ん!」
「……べっつに。いいけどさぁ……」
明日菜は悪びれない笑顔を浮かべ、胸の前で両手を打ち合わせた。これで謝罪のポーズなのだろう。その体勢のせいで自然と視線が胸元に行く。
「ん、んん!」
晶のわざとらしく咳払いをし、流はソッコーで目を逸らした。
「明日菜と私はお互い一人っ子で同い年だから、まるで姉妹みたいな存在なの。明日菜には何でも話せるのよ」
「あは、だから流クンのことも聞いてるよ〜。晶ちゃんがカレシ作ったのも意外だったんだけど、直接会ったらもっと意外だったから、ごめんね。ふたりは幼馴染みなんだっけ」
「そーだよ。そっちは? カレシいんの?」
「いないよ〜。わたしが好きなのは、年上のイケてるオジサマだから」
「えっ。おじさんって、どのくらい?」
「三十代後半とか〜〜? 渋くて素敵よね〜〜!」
「明日菜ってば、変わってるのよ」
「あっそ……」
それを聞いた流は脱力した。本当に、変わった趣味をしている。
(せっかく可愛いのになぁ。何が良くて倍くらい歳の違うオッサンが好きなんだか。男なんて選り取り見取りだろうになぁ〜)
などと、流がボサッと突っ立って考えている間に、ふたりは自販機でジュース買って飲みながらおしゃべりをしていた。
時刻は今、もう陽がとっくに落ちきった夜の八時過ぎ。目的地のロサンゼルス国際空港までは、約十七時間かかる。長い長いフライトであるし、準備万端整えて、余裕を持って出発しようとしていた三人だったが、早くもつまずきかけていた。
「ヤバいって、早く!」
「ごめ〜〜ん!」
「待って、流!」
晶と明日菜が女子トイレの混雑に巻き込まれて時間を食ってしまったのだ。まだ間に合う時間とはいえ、これ以上遅れるわけにはいかない。
いつもは気の利かない流だが、今は率先して重い方のキャリーケースを両手に搭乗ゲートに走る。それをふたりは追いかけていた。
そして急いで搭乗口へ並ぼうとしていたとき、明日菜は同じ方向へ行こうとしていた若い男とぶつかってしまった。
(あっ、やばっ!?)
と、思ったときにはもう遅い。結構な勢いで男の肩口に突っ込んでいた。
「ごへっ!?」
「っきゃん!」
前につんのめる男と、盛大に尻もちをつく明日菜。
「あっ、ちょっと賢ちゃん!?」
「大丈夫? 明日菜」
男の隣りにいた女子大生らしき若い女が驚きの声を上げる。ふたりは親しい仲のようだ。
「あてて……何なんだよ……気をつけろよな」
「あっ! ご、ごめんなさい!」
「バカね、もう! 彼女転んじゃってるじゃない!」
女子大生の方が男の肩をバチンと叩き、明日菜に手を差し伸べる。
「いて……」
「大丈夫? 足とか、挫いてない?」
「はい、大丈夫です。すみません、気がつかなくって」
明日菜は彼女の手を借りて起き上がった。晶も戻ってきて頭をさげる。
「ご迷惑をおかけしてしまって、すみません」
「いいのよ。お互いに怪我がなくてよかったわ」
「飛行機に乗り遅れると思って焦ってしまって。ご親切にありがとうございます」
「……ふーん、同じ飛行機なのか」
賢ちゃんと呼ばれていた黒髪の男がつぶやく。身長は成人男性としては少し低めの162cm。かろうじて晶より高いくらいだ。目つきの悪さと身長のわりに鍛えられたガタイの良さが威圧感を醸し出している。
女子大生の方は明日菜とまったく同じ155cm。体型もよく似ていた。ワンレングスの長い黒髪が腰まで伸びており、洒落たワンピースに5cmのピンヒールが決まっている。
「今どき高校生がアメリカに行くのは珍しくないからねえ〜。でもいいなぁ。女の子二人旅?」
「いえ、三人旅なんです」
「ん?」
「え?」
その三人目はといえば、明日菜の事故になど気づかず、ひとり搭乗口に並んで待っていた。