2.アメリカ旅行のお誘い
流は困った。
晶の話を詳しく聞けば、その旅行は春休みの一週間を使う予定らしい。つまり、休みのほぼ半分が旅行に消える計算だ。
「ハリウッド回って叔父さんのクルーザーに乗って? ディズニーランド行って帰るって? 豪勢だなぁ! ……本気?」
「ホテルは取らずに叔父さんの家に泊まって、車も叔父さんに出してもらうの。流の分のチケットは私が出すから……どう?」
「どう、って言われても」
流は即答できずにいた。元々あまり社交的ではない人間なのだ、同年代とはいえ初対面の女の子と一週間も過ごすなんて気後れする。しかも、ただの友人ではなく親族、ということは気まずくなってしまうと今後に響く。
「お願い、流!」
「ん〜〜〜〜」
晶は両手を合わせて頭を下げる。
(でも、どうせついて行ったってオレはオマケで、晶はイトコちゃんと女の子同士仲良くするわけなんだよなぁ。買い物だって荷物持ち扱いだろうし)
この旅行が二人きりだったなら、流は迷わなかった。イトコと三人旅だったとしても、快諾はないがきっと承知したに違いなかった。だが、今回ばかりは難しい。
それだけではない。ホテルには泊まらず親戚の家に厄介になるという。晶やそのイトコにとっては親戚のおじさんかもしれないが、流にとっては他人である。しかも女の子二人に男が一人……とうてい好意的に受け止めてもらえるとは思えない。
しかも旅行の間中、運転手として使い倒す計画なのだ。イトコの友達が遠慮してしまいアメリカ旅行に参加しなかったのにも大いに頷ける。流だって行きたくはない。
自然、口をついて出てくるのは言い訳だった。
「オレ、英語できないし……」
「わかってる。私が通訳するわ」
「でも〜〜」
「流の春休みが補習で潰れなかったのは、私がテスト対策を手伝ったからでしょう?」
「ぐ……。そのせつはどーもお世話になりました!」
いつも赤点スレスレの流と、常に三位以内をキープしている晶。すぐに投げ出す流に、晶が優しく丁寧に教えてくれ、暗記カードまで作ってくれたおかげで今回も乗り切ることができたのだ。
しかし、流はワガママな男だった。だって、嫌なものは嫌なのである! 渋い顔のままの流を見て、晶の口からため息が漏れる。
「流……どうしても、ダメ?」
潤んだ目で見上げてくる晶。
流はうっ、と答えに詰まった。
「お願い、一緒に、来て……?」
「ん〜〜〜〜〜〜!」
さらにダメ押しの「お願い」である。流は、今度こそ頷くしかなかった。昔から、晶には勝てた試しがない。
「ったく、しゃあないな」
「それじゃ……」
晶の表情がぱあっと明るくなる。
「ああ。行ってやるよ、ハリウッド。そんかわし、ちゃんとオレを案内するんだぞ。女の子ふたりだけで盛り上がって、置いてきぼりはゴメンだからな!」
「ありがとう、流! 嬉しい!」
「おわっ、わわわ!」
ぐっと身を乗り出してきた晶に驚き、流は仰け反りそのまま床に頭から倒れた。
「って~~~!」
「やだ、大丈夫? ごめんなさい、流」
頭を押さえて呻く流の頬を、晶の細い手が撫でる。流はその手を掴んで晶の身体を引き寄せた。
「あっ……」
「ちょっとだけ。いいだろ?」
「でも」
「ワガママ叶えてやるんだからさ」
言われるままに、晶はそっと屈み込んで、流の唇にキスを落とした。
「流」
「ん……もっと」
「ふふっ、ちょっとだけって言ったでしょう?」
「ちぇっ」
唇を尖らす流に晶は笑って言う。
「それじゃ、続きは宿題を終わらせてからね。旅行に行くんですもの、完璧にしておかないと」
「げぇっ!?」
「頑張りましょうね、流」
「マジかよ……」
起き上がりかけていた流は、再び床に倒れ込む。晶がまた小さく笑い声を上げた。