15.スタジオ救出作戦
通報を終えた流と美智子は、奥の方へ駆け出して行った晶たちを探しに行くことにした。
「あいつ、無茶してねぇだろうな」
「賢ちゃんは一歩引くタイプだけど、あの彼女は……突っ走りそうなタイプに見えたわね。……実際どうなの?」
「わかんねぇ……。普段はおとなしいんだけど、今は切れてっし」
流の幼なじみの晶は、普段はおっとりしているが、正義感の強い委員長タイプの人間だ。高校の生徒会の役員になって、学校生活をより実りあるものにしようと奮闘していることからもその性格は覗い知れる。
晶の家もまた特殊で、古くからある裕福な大地主の親族である。その家訓は『持てる人間は、助けを必要とする者に手を差し伸べるべし』とあり、それを体現している祖父に可愛がられている晶は、自分でもその教えを真面目に実践している。
(けど、相手は銃を持ってるんだぜ、晶。それなのに、何も考えないまま突っ走るのは悪手だぞ……)
流は走りながら大きくため息を吐いた。
「とにかく今は、何もないことを祈るしかないな」
まずは人質がどうなっているのかを確認しなければいけない。流と美智子は外側から建物をぐるりと一周し、中の様子を確かめていく。
その途中で晶と賢吾に出会い合流して対策を練ることができればと願っていた。しかし、撮影スタジオに囚われている人質の中に、その二人がいるのを見つけてしまうのだった。
「えっ、ちょ……ちょっとあれって賢ちゃんじゃない!?」
小さく、美智子がまるで悲鳴のような声を上げた。ぐったりとした賢吾の隣には、気遣わしげな表情の晶が座っている。
晶は肩を落としているが、大きな怪我などはないように見える。そして気絶しているのか、不自然な姿勢で頭を垂れている賢吾については、それが本当に賢吾なのか、怪我の有無も含めてよく見えなかった。
「晶……。やっぱ、捕まっちまったか」
「どうしよう! どうしたらいいの!?」
「どうしたらって……通報したんだし、待つしかないんじゃ……」
「その間に二人がどうにかなっちゃったらどうすんのよ!」
ここまで来てまだ消極的な態度を取る流の胸倉を掴んで揺する美智子。
「そ、そ、そ、そんなこと、言われ、ても……どうすれば、いい、の?」
ガクガク揺らされながら流が言うと、美智子は動きを止めて考え込んだ。相手は武器を持っている上に、それだけではなくガタイもイイ男たちだ。自分がどうやっても敵いっこないのはわかりきっている。
「ね、ねえ……どうにかしてテロリストたちの気を逸らせないかしら?」
「どうにかって、たとえば? 発煙筒でも投げ込んでみる?」
美智子は首を横に振った。乗ってきたバンに戻れば、発煙筒はあるかもしれないが、美智子たちには鍵がない。
「煙……あ、火? そうだわ、アレを試しましょうよ!」
そう言うと、美智子は走り出した。
「アレ? って、どれ?」
その背中を流が慌てて追う。美智子はエントランスに駆け込み、辺りを見回すと、目的のものを見つけてそれに駆け寄った。
「ねぇ、美智子ちゃん! な、なにしてんの?」
「非常ベルよ。これを鳴らせば火事かと思ってきっとあいつらもパニックになると思うわ。だからその隙にみんなを助け出すのよ」
しかし、流は不安げな表情である。
「そうは言ったって……。あんまり刺激しない方がいいんじゃねぇかな。だって、混乱させたからって上手く助け出せるとは限んないしさ」
「じゃあ何か他に良い方法があるの? このままここでまごまごしていたら、それこそ捕まっちゃうかもしれないわよ、私たちも!」
言い募る美智子は流にぐいぐい迫った。
「ちょ、ちょっ! わ、わかったよ。じゃあ、お、押す?」
「そうね。流くん、先にスタジオの側まで行ってて。私も押したらすぐ行くわ」
「ううっ、やだなぁ……」
「腹括りなさい! ほら、行って!」
流が走り出したのを見送って、美智子は非常ベルのボタンを全力の右ストレートパンチで押したのだった。




