14.救出劇
明日菜を拐った男たちは、躊躇なくサブマシンガンを撃ってきた。ニールは急ブレーキをかけつつハンドルを切る。スキール音が響き渡り、後続の車がクラッシュした。
「クソっ!」
それを見た男たちは高笑いを上げていた。今のは避けられたが、このままではニールもすぐに後続の犠牲者らの仲間入りだろう。
(こうなったら、こっちから仕掛けるしかないな!)
ニールは、一気に加速し、黄色いバンの斜め後ろから体当たりした。バンパーの砕ける嫌な音がニールの耳を引っ掻く。
この攻撃はさすがに襲撃犯たちも予想外だったようで、男たちのひとりが開きっぱなしだったリヤハッチから転落して消えていった。
ギャリギャリと車体を削る、車と車による力比べ。後付けターボのおかげで450馬力のパワーを持つジェネシスクーペは、黄色いバンをハイウェイの外に押し出してクラッシュさせた。
苦い思いがニールの胸に広がるが、今はそんな場合ではない。明日菜を助けるためには、警察が道を封鎖してくれている場所まで奴らを追いかけ続けるしかないのだ。
明日菜を乗せた黒いバンは、ハイウェイを150kmオーバーで駆け抜けていく。乱暴な運転で車と車の間をすり抜け、時にはぶつけて退かしながら逃げていくバン。
ハイウェイを降りて右折して、左折して、さらに逃げ続ける。ニールのジェネシスクーペはそれを追った。
と、またもや黄色いバンが近づいてきた。見慣れた外装ながら凹みもない綺麗な車体だ。おそらくまた別の応援のバンなのだろう。本当にしつこい奴らである。
黄色いバンは執拗にニールと黒いバンの間に割り込もうとしてくる。先程はリヤハッチを開けてマシンガンをぶっ放してきたのだが、まさか、今度も同じ手を使うつもりだろうか?
「あんなもの、二度と食らってたまるか!」
ニールは先手必勝でそのバンにジェネシスクーペをぶつけた。道路を外れたバンは、大げさなスキール音を立てながら消火栓に激突しクラッシュした。
黒いバンの中では、その一部始終を見ていた男たちが怒号を上げていた。
「クソッ! またやりやがった、あの野郎!」
「……こっちにゃ拳銃っきゃねえのに」
奪った車なので、最初に自分たちが持っていた拳銃くらいしか武器がないのだ。そうしているうちに、前方にパトランプとバリケードがあるのが男たちの目に見えてきた。
「やば! 道が封鎖されてるぞ!」
「クソッ、どうする? 突っ切るか?」
「はぁっ!? 正気かよ!」
男の声に、明日菜は怖くなり目をつぶった。道が閉鎖されているということは、警察が待ち構えているということだ。
このまま彼らが捕まってくれればいいが、もしも強行突破なんてことになったら、警察が反撃として武力行使するかもしれない。そうなれば、明日菜もきっと無事ではいられない。
事実、人質を取って逃走中の武装犯ということもあり、警察側はしっかりと武装を固めていた。
「おい、やめろ! 止まれ!」
「邪魔すんな! ここを突っ切りさえすりゃ……」
「死にてぇのか!」
男たちの内輪揉めが起こり、バンは右へ左へとブレる。そのスピードが落ちたところを見計らい、ニールは一気にアクセルを踏み込んで左からバンの前に出た。
右にハンドルを切りながらサイドブレーキを引き、車をスピンターンさせてバンの前に回り込む。ジェネシスクーペのトリッキーな動きに驚いたバンは、急ブレーキをかけた。
「嫌ぁぁぁぁ!」
バンの中で明日菜が叫ぶ。何とかぶつかるギリギリで停車したバンを警察官たちが取り囲む。さらに、後方から追いかけてきていたパトカー二台も追いつき、カーチェイスは終わりを迎えた。
ジェネシスクーペを降りたニールは黒いバンへと走り寄った。すぐにリヤハッチを開け、明日菜の無事を確認する。ずいぶん頑張ったのだろう、縄は半分ほど解けている代わりに彼女の手首は擦り切れ、少し血が滲んでいた。
「大丈夫か?」
「ニールさん!」
自由になった明日菜はニールに抱きつき、彼の胸の中で泣きじゃくった。ニールはその背中をガッシリとした手で擦り、宥めながら言う。
「もう大丈夫だ。だが……まだテロリストは壊滅しちゃいない。スタジオにはまだテロリストが居るはずなんだ。君はここに残れ。俺はスタジオに戻る」
「ニールさんが行くなら、わたしも一緒に行く! お願い、連れて行って。あそこにはまだ、おじさんや友達が残ってるの!」
「駄目だ。警察が一緒とはいえ危険すぎるぞ」
ニールは止めるが明日菜も引かない。ついさっきまで武装したテロリスト集団に誘拐され怖い目にあっていたにも関わらず、明日菜はニールのシャツを掴んで言い募った。
「その危険なところにニールさんは戻るんでしょう? 一人より二人の方が安全だよ。確かにわたしは戦えないけど、手伝いくらいはできるんだから!」
「……ったく、気の強い女は苦手だ……。どうなっても知らないからな!!」
ニールはジェネシスクーペの助手席側のドアを開いて明日菜を乗せると、おもむろに車を発進させた。




