浪花コントロール!
「花笑 翔、13歳。俺には野望がある。ここ大阪で笑いの天下を取ることだ。よろしく!」
転校生の自己紹介に、クラス全体がシーンと静まり返った。明らかにスベっている。
「……アホちゃう?」
つい口からこぼれ出てしまった言葉に反応して、転校生が俺と視線を合わせる。にっと口の端を上げて俺を見るその目は、真剣そのものだった。
教室の一番後ろ、俺の席までツカツカと歩み寄ってきた転校生。
「なんや?いちゃもんでも、」
俺の言葉に被せるようにして、転校生は俺にこう言った。
「君、俺とコンビを組まないか?」
「……はぁ?」
これが花笑 翔と俺、浪田 紘との出会いだった。
♢
「浪田!頼む、俺とコンビを組んでくれ!」
「嫌だって言うとるやろ!」
花笑が転校してきてから一週間。俺は、こいつから逃げ回っていた。
「ッだぁーー!しつこい!なんやねんアイツ!」
花笑を撒いて、非常階段に腰を下ろした俺は、息を切らしながら独りごちた。
「そもそも、きょうび【笑いの天下をとる】なんて、そんなん言う奴いるか?頭がおかしいんちゃうん?」
「実際ここにいるし、俺の頭は正常だぞ!」
「うわっ!?なんでお前が後ろにおるねん!」
俺は階段を登ってきたから、花笑が追いかけてくるなら下からだと思って、油断していた。
「ずっと思っていたが、やはり君の反応速度は抜群だな!」
「人の話を聞きぃ!」
こいつとの会話は成立しない。一方的すぎて、こちらばかり疲れる。バッティングマシーン相手に、キャッチボールをしているようなものだ。
「そもそも、なんで俺やねん。他の奴を誘えばええやろ!」
俺が断り続けているのだから、さっさと諦めて、他の奴に声をかければいい。
なのにこいつは転校初日から毎日、俺だけを勧誘している。
「それは、君が俺と似てるからだ。」
「……どういう意味や。」
一瞬反応が遅れてしまった。その隙を突くように花笑は、言葉を続ける。
「まず、君は大阪出身じゃないだろ?」
「ッ……!」
図星だった。俺の一番触れられたくないところに、こいつは容赦なく踏み込んでくる。
俺は5歳まで東京に住んでいた。しかし両親が離婚し、母親の故郷である大阪に越してきたのだ。
♢
「それに君の目は俺と同じで、まっすぐだ。目標を成し遂げる強い力を持っている。君となら大阪を【コントロール】できるはずだ!」
「なんやねん、それ!」
俺が、大嫌いなこいつとコンビを組んで、大阪中の人々を笑いの渦に巻き込むのは、まだまだ先の話である。
読んでくださりありがとうございました。評価、感想、ブクマ、ありがとうございます。励みになります!