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慈愛と復讐の間  作者: レクフル


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変わり果てた人


 瘴気の立ち込める村へ足を踏み入れる。


 自身と騎士達にも結界を張り、身体強化、防御力強化、体力増加、状態異常耐性、毒耐性等、呪いに侵食されないように対策をした。


 それでも、身体中に呪いが入り込もうとしているのか、全身がピリピリと小さな刃物で傷つけられているような感じがする。かなり強い呪いだと体をもって分かってしまう。


 ルーファスには目に見えてどす黒い呪いの霧が見えているのだが、騎士達にはそれは見えておらず、けれど警戒しながら進んでいく。

 何故なら、明らかに村人でない者がいるのにも関わらず、誰もが気にかけないからだ。


 異様な雰囲気が漂う中、警戒しながら歩を進めていくと、遠目に何かがあるのが見えた。


 少しずつ近づいて行って、それを見た瞬間に足を止めてしまう。


 そこにあったのは、4メートル程の高い棒に突き刺されていた人の頭だった。それが横ににズラリと5本、並べられて立てられてあったのだ。



「う……うわぁぁぁぁっ!」


「な、んだ……これは……っ!」



 これには流石に騎士達も動揺を隠せなかった。それも仕方がない。そこに刺さってあったのは、自分達の仲間であった騎士達の頭だったからだ。


 あまりの光景にルーファスは声も出ずに、その場で立ち尽くしてしまった。


 見かねた一人の騎士が、立てられた棒の元まで走っていく。目の前には親友だった同期の騎士が無惨な姿でいたのだ。冷静にいられる訳はなかった。


 

「アラン! 何故こんな事にっ! アランっ!」


「待て! 早まるなっ!」



 ルーファスの制止も聞かずに走りだしたが、その瞬間に黒の霧が矢のように降り注ぎ、騎士の胸を貫いた。


 すぐにルーファスは結界を張り、その攻撃を防ぐ。それから倒れた騎士に駆け寄って胸に手を当てた。手から淡い緑の光が出て、傷ついた騎士を優しく包み込むが、その騎士が目を覚ますことはなかった。既に絶命していたからだ。


 身体に様々な術を施してこれか……


 ルーファスはギリッと歯を鳴らし、より警戒を強めて辺りを確認する。


 

「ふふふ……やっぱり来てくださった」



 そんな声が聞こえて、ルーファスはすぐに声のする方へと顔を向けた。

 そこには下卑た笑顔の赤髪に赤眼のフューリズがいた。なんとイヤらしく不適に笑うのだろうかと、ルーファスはその笑顔に嫌悪した。



「フューリズ……なぜお前はそんな簡単に人の命奪うのか……?」


「そこにいる者と私の命は同じではないじゃないですか。おかしな事を言うのですね?」


「何様のつもりだ……!」


「私は慈愛の女神の生まれ変わりですわよ?」


「違う! それはお前ではない! そんな醜悪で残忍なお前が慈愛女神の生まれ変わり等、有り得ぬ!」


「ねぇ、ローラン? さっきからルーファスお兄様はおかしな事ばかり言うの。私は間違っているのかしら?」


「いいえ。フューリズ様は間違ってはおりません。貴女が何よりも正しい」



 フューリズの後ろに控えていたローランが横に並び、フューリズの言う事を肯定する。ルーファスはローランが操られていない事を即座に見抜く。

 ローランの事は知っていた。幼い頃よりフューリズの護衛としてついていた騎士あがりの者で、その腕はアッサルム王国一と言われていた程だった。


 ローランの言葉を聞いて、フューリズは嬉しそうに微笑んだ。     


 

「操られている訳ではなさそうだな……」


「ローランは私を慕っているの。操るなんてする訳がありませんわ」



 そう言ってしなだれかかるように、ローランの肩にもたれ掛かるフューリズを、ローランは嬉しそうに微笑んで見ている。


 二人はそういう事なのか……と悟ったルーファスだったが、ヴァイスを殺しておいてすぐに他の男に乗り替えるとは、さすがと言うべきなのかどうなのか……

 やはりこれがフューリズなのだなと妙に納得してしまった。


 それでも、純粋にフューリズを想っていたであろうヴァイスが憐れで、ルーファスはこの二人を許せないという気持ちに駆られていく。


 しかし、私怨に惑わされてはいけない。それで自分は失敗したのだ。ここは冷静に対処しなければ、フューリズの思うつぼだ。そう思い直し、深呼吸して心を落ち着かせる。



「操れなかったのだろう?」


「なんですって……?」


「一度慈愛の女神の力に(あやか)った者は二度とお前には操れぬ。それこそが本当の慈愛の女神の力だ」


「本当の慈愛の女神の力だなんて、そんなのは私以外に有り得ませんわ!」


「無知とは愚かなものだな」


「私を無知等と……っ!」


「いや……それは私の事、か……」


「何を仰って……?」


「フューリズ。お前より私は愚かになりたくはないという事だ」


「ふざけた事をっ!」



 言うなり、黒い霧がルーファス達の周りをグルグルと竜巻のように回りだし、そこから矢となって降り注ぐ。

 それを光のベールを纏うようにして、矢の攻撃を躱わした。そのまま光は黒い霧を覆い尽くすようにして包み込んでいき、黒の霧を分散し消滅させていく。

 光のベールはそれだけに留まらず、村全体を覆うように広がっていく。そうして村から呪いの効力を無くしていった。


 その光を受けて村人達は、その場に崩れ落ちるようにして倒れてしまった。そしてそのままピクリとも動かなくなってしまったのだ。


 

「何なの……? お兄様はどうしてそんな力をお持ちなの……?」


「これは……慈愛の女神の力だ。この力は復讐の女神に対抗できる力となっている」


「そんな戯れ言を……」


「お前は知ろうとしないのだな。理解しようとしないのだな。以前の自分を見ているようで……反吐が出るっ!」



 ルーファスが手を前に出すと光の筋が幾つも現れて、それがフューリズへと鋭く向かっていく。咄嗟にフューリズは結界を張るが、それはすぐに破られてしまい、幾つもの光の筋はフューリズの体に巻き付き、拘束する。


 それをローランは断ち切ろうとするが、魔力で出来たモノは剣で斬る事は出来なかった。

 そしてそのローランを止めるべく、騎士達が剣を抜く。


 爵位を剥奪され、一般の騎士へと降格させられたとは言え、ローランを尊敬し、敬っていた騎士達の受けたショックは大きかった。

 そしてあろうことか、自分達の仲間の騎士を手にかけたのもローラン達である事は明らかであり、それに対しても信じられないという思いがあった。


 何故こんな酷い事をしたのか……出来たのか……


 昔のローランを知る者であれば、その変わりように戸惑うしかなかった。

 努力家で人に優しく思いやりがあり、人懐っこい性格もあって皆に好かれていたその男が、フューリズと関わった事により大きく運命を変えられてしまったのだ。


 それを恨むのではなく味方するとは……


 まさかこんなふうに刃を交える事になろうとは思いもせず、剣の柄を握る手に迷いが生じる。


 その隙を狙うようにしてローランが剣を振るってきた。


 そこには迷いも戸惑いも何もなかった。


 騎士達の闘いも、こうやって始まったのだった。






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