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騎士道活人奇譚  作者: 千興志乃
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04 調査(前編)

昼食を終え、エストから貰ったマップを頼りに庭先に出た。

陛下の私室の窓を見通せる場所は三箇所、何れも投てきが可能な距離だが、窓に近付かなければ問題はなさそうだ。

王室は王城と繋がっているものの隔離された位置に建てられている、元々からあった建物だが俺が王国に来た当時は使用されていない場所だった。

陛下が体調を壊し...正確にはアイシア様のお産の時だったのだが、私室をそちらに変更している。

変更の理由は前回の任務の詳細を聞いた時にようやく合点がいった。

バーナード様の訃報を受けるまで、陛下は城内で過ごされていたからな。


物思いに更けていると、イグノアがこちらに向かってきた。


「クレモール様、ご苦労様です。」


深く頭を下げ、挨拶をするイグノアをすぐに制止した。


「やめてくれイグノア、俺達同期入団じゃないか。」

「いえ、そういうわけには。」

「陛下の御前では仕方ないのかもしれない、だがせめて公式の場でない時は以前の様に接してくれないか。」

「...。」

「それに君は伯爵家の長女で、俺は騎士爵を授与されたとはいえ平民の出だ、むしろ俺の方が不敬だと思うんだが。」

「王国兵団に入団した時、貴族の子という枠組を超えて個人を見据え、王国内での功績を基準に判断する王国の規律に私は動かされたのです。」

「そうは言ってもなぁ...。」

「クレモール様が、インペリアルナイトを叙任したにも関わらず、一兵団員に軽口を叩かれていると噂されることになる、陛下の騎士にそんなことあってはいけません。」

「そうなんだが...あっ、エストを見てくれよ!あの子は陛下にも明るくまるで友達のように接しているが咎められない、おそらく陛下はおカタイのは望んでないんじゃないか?」

「そ、それはそうなのですが...。」

「じゃあ、決まりだ!もしも王国の規律重視でヒエラルキーを主張したいなら、陛下の御前や公式の場以外ではこれまで通りの対応を指示する!これならいいか?」

「...はぁ~...わかったわよ、もう。」

「よし!」


諦めてくれたようで良かった、少しでも肩の力が抜ける環境にしておきたいからな。


「それで、調査は捗っているの?」

「正直思わしくないな、王国領内の金の流れは陛下が在位されて以降、一時期を除いてしっかり管理されている。」

「摂政時...ね?」

「ああ、その為一部の兵団が不満を挙げていることもわかった。」

「...。」


イグノアは顎に手を当て、考え込んでいるようだ。


「人の流れを優先した方がよさそうね。」

「同感だ。」

「私は棒術兵団に属しているけど、他兵団との繋がりは異動してからというもの殆ど無いの。」

「それぞれの施設が造設されたからな、俺も槍術兵団以外とはあまり関りが無くなってしまった。」

「内定調査をするにも、他兵団の協力者を見つけないと調査は難航するわね。」

「そうだな、シーザにも機会があれば剣斧の間で不満を漏らしてる者がいないか確認してみよう。」

「そうね。」


意見が合い、イグノアは笑顔で返してきた。


「それじゃあ、私は夕食の当番だからこれで失礼するわね。」

「ああ、またな。」


イグノアの後ろ姿を見送り、今後も今まで通りの対応をできるのだと安心した。


俺が王国に来て騎士団に入ったばかりの時、俺と同年代の子供は多かった。

王国領内の貴族の子供が多く、アルバートやイグノア、現剣術兵団団長のシーザがそうだった。

アルバートは男爵家、イグノアは伯爵家、シーザは子爵家の出。

俺のように平民出の入団者もいたが、当時平民出で俺と同じ年齢だった子供は知る限りいない。

バーナード様から、年齢が近いからとアルバート達と同じ隊に入れられたのだが...当時のアルバートの当たりはそれはキツかった。

何かにつけては平民が平民がと...それをイグノアがいつも諫めてくれていた。

イグノアやシーザは貴族であることを主張せず、自らの武勲こそが証明だと研鑽を積んでいた。

理由はさっきイグノアが言っていた、個人を見据え功績を上げたもの、そこに爵位は関係ないという非差別主義を慮るからこそだ。

そんな彼女に敬語を使われるのは、正直寂しい気分だったからな。

晴れやかな空を見上げ、調査続行の為、歩き始めた。




調査を終えて自室に戻り、武具の手入れをしていると左手のバングルが目に入った。


「バーナード様が着けていた物と同じバングル...。」


これといった特徴は無く、無機質な素材に見受けるが陛下は精製が困難だと言っていた。

防具としての効力は皆無に等しい...ガントレットを装着すれば尚更だろう。

王室騎士としての証、ということなのだろうか。


防具を磨き上げ、そのまま鞘を手に取るとセシリア殿の言葉がよぎる。


「白刃の不要な時代か...。」


セシリア殿の辞令は陛下からの推薦だった、先の話を鑑みても陛下の御心に叶うよう尽力している。

俺が騎馬兵団で兵を率いていた時、襲撃のあった町村への防衛やその引率者への追撃、商隊護衛任務が主だったが攻撃対象の人命生死については指示を受けたことがない。

何故俺とアルバートはインペリアルナイトに選ばれたのだろうか、陛下のお考えでは対象を無力化させることに特化した者の方が理に適っているように思う。

さすがにこれは聞こうにも不敬に当たるな、やめておこう。


陛下は民があっての王国領だと公言している、領内には貧しい村はあるものの天候に恵まれている地域でもあり飢饉が発生するに至っていなかった。

豊作であっても指定した税収を得られればそれ以上は徴収せず、そのまま町村の財源として貯蔵や領内での売買も認めている。

不作であれば税率を下げて徴収するが、その場合は王国が管理している未開拓地を指定し、その開拓と管理を不作の町村に委託し労働力で補填している。

結果、民が飢えることは無くとても慕われていたが、それも数年前の話だ。


件の分団立案により急激に外からの領民登録が増えた、兵団の給金は一部の討伐褒賞を除き税金で賄われている。

登録については、他国からの亡命者、身元不確かな傭兵等も含まれ、おそらくは陛下がアイシア様お産時期...四年程前の摂政を置いた時に可決したのだろう、時期が重なる。

当時、兵団施設や兵団宿舎などの造設に国庫は乏しくなったと管財人が嘆いていた、現在の税収では三年持たないだろうと。

陛下が表に立てない事を機に、服務を全うしない衛兵や侍女の強制解雇なども行っていたようだ、表向きには自主辞職ということだったが...。

民への税収は国庫の回復には至らないものの、陛下が復帰されて以降も王国存続の為、四年前より少し多くなってしまったまま改善できずにいる。

それについて民から陛下へ不満の声は然程挙がっていないが、逆に衛兵からの給金不足による不満は増えていることが分かった。


調べてみると陛下の思惑から外れた行動が城内に飛び交っている。

王国の正常化を図るにしても、王弟殿下...いやヒルダ殿下の存在は大きい。


「明日、アルバートと今後の方針を話し合うか。」


手入れを終えると二十三時を回っており、就寝の準備をした。




翌朝アルバートの部屋に行き、陛下との顔合わせの時間より前に少し話をと持ち掛け、談話室で落ち合った。


「よっ、さっきぶり。」

「ああ、早速情報交換といこう。」


椅子に腰掛け、アルバートと向き合うと俺から昨日までに得た情報を切り出した。


「そうか、やっぱり金だよなぁ。」

「団員の不満が出ているのは間違いない、だが騎馬の間から聞いたことはないし武闘の間でも同じようだ。」

「不満を出しているのは傭兵上がりの人間だろうなぁ、いつ命を落としてもおかしくない傭兵稼業より安定した収入を選んで王国兵入団により収入減。」


そもそもの過程が違うのにとアルバートはため息を漏らす。


「安寧を求めた結果だろうに、ったく..これだから平民上がりは...あっ!」


こちらに向き直りバツが悪そうにスマンッと手を合わせている。


「ははは、今更そんなこと気にしないよアルバート。」

「悪い...だが気になるのは身元が分かっていない傭兵の存在だな、おそらく陛下も管理できていない人事があることに不安を覚えているんだろう。」

「ああ、実際にバーナード様の暗殺が一度、そして暗殺未遂が一度...オルウェンが防いでくれたわけだが。」


話している途中、気付くとアルバートは神妙な顔をしていた。


「何れも毒物、四年程の間に実行は二度、もしヒルダ殿下がこの主犯であれば、何故インペリアルガードが在籍していなかった時期に間者による絞殺や刺殺を強行しなかったんだろう。」

「確かに俺もそれは気になっていた、兵団の中にはおそらくヒルダ殿下の私兵が紛れ込んでいると思う、毒による不確定要素より直接攻撃の方が確実性が上がるだろうと思っていたんだ。」

「これはもう一度陛下に聞いた方がいいかもな、相棒。」

「...!...俺か!?俺が切り出すのか!?」

「俺はほら、陛下の前だと緊張が治まらないからな!」


はぁ...いい笑顔で答えやがって...本当、いい性格してるよ。


「わかった、今日の御前の時に確認してみよう。」

「ああ、頼むぜ相棒!」

「それはそうと今後の活動なんだが、今週俺は王都の方にも調査の手を広げようと思う。」

「例の身元不明の傭兵さん方だな?人の流れの確認は時間がかかるだろうから、俺の警護任務が無い時には手伝えるんだがな。」

「助かるが外は俺が調査するよ、アルバートにはコネを使って内部から攻めてもらいたいんだ。」

「親父殿に頼むってことか?」

「いや、貴族の社交界で色々と噂話くらいは飛び交うだろう?何か理由をつけてその噂話を拾うことができないかと思ってな。」

「あまり気が乗らないが、さっきは陛下への切り出しを承知してもらったからな、一肌脱ぐか。」

「頼む。」

「任せろ。」


お互い頷くと、席を立ち陛下のもとへ向かった。


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