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エルフの修道女  作者: ディーバ=ライビー
3/3

的になる理由

 シャロンはクラーク司教から、ロドニーはドン・シモンズから仕事を請けていると説明したが、二人は決して組織に属した殺し屋ではない。この街で一流の殺し屋と称される存在は、その全てがフリーランスである。


 これは、三勢力がお互いの本体・上層部へ、腕の立つ殺し屋を送()ないようにするために、自然と成立したルールだ。万が一依頼があったとしても、フリーの殺し屋たちはそんな仕事を引き受けることはない。

 そればかりか、依頼があった旨を標的に知らせることまで、暗黙のうちに決められている。

 どこか一組織がほかの組織のトップに殺し屋を送ったら、送られた方は、残りのもう一つの組織と共に、送った組織と事を構えることになる。


 そんな、暗闇の世界での三すくみが、光に照らされた世界での「平和」を維持しているのだ。


「あなたも知ってると思うけど、わたしはあんまり自由に動ける立場じゃないわよ」


 フリーだから誰から請けても請けなくてもいいとは言っても、仕事を請けやすい相手、請けにくい相手というものはある。

 シャロンの場合は、忙しい孤児院の仕事の裏で動かなければならない立場から、そこに融通を利かせて貰えるクラーク司教からの仕事がそのほとんどだ。


「ああ、わかってるよ。何日も家を空けなければならないような仕事じゃない」

「そ。わかったわ。引き受けるかはまだわからないけど、話を聞かせて」


 ロドニーはシャロンの返事に頷いて話を進める。


「トールビって村を知ってるか?」

「トールビ? ううん、聞き覚えないわね」

「ここから徒歩で一週間くらいの位置にある農村だ。今度の仕事は、そこの代官が的なんだ」

「さっきも言ったけど――」

「いや、わかってる。別にその村まで出向こうってんじゃないんだ。というより、すでにそいつはこの街に居る」

「わかったわ。続けて」


 往復二週間も孤児院を留守にするわけにはいかないシャロンだ。


「まあ、典型的な悪代官ってやつだな。立場を利用しての賄賂や、村の娘に悪さをしたりと、どこにでも居る小悪党だ」

「そんな男をどうして? 貴族というわけでもない下級役人でしょ?」


「ああ、言ってなかったな。代官はメイベルという。女だ」

「へぇ。よほどに優秀なのね」


 農村部の代官は王国政府直轄の役人が務めることが多い。王国の官吏にはそもそも女性が少ないのだが、それが代官まで上り詰めるとなれば、並大抵の実力ではないのだろう。

 ただ、総じて優秀な人間が選ばれる職ではあるが、その地位は決して高いものではない。あくまでも貴族に平民が任じられた代理官僚に過ぎないのだ。


「そう。本来なら悪さをすれば公の裁判で首でも斬り落とされているところだ。だけどな――」

「公にはさばけない理由がある、ということね」

「そういうことだ。俺たち使()()()()()に詳しい事情の説明があるわけじゃないが」


 おおかた、代官を管理する立場の人間も不正に手を染めていて、メイベルもそれを知っているというところだろう。


「彼女が決して善人じゃないのはわかるけど、天に召されても仕方がないほどの決定的ななにかはある?」

「そこなんだよなぁ。そこがはっきりすれば、おまえさんも気持ちよく手伝ってくれると信じてはいるんだが」

「なにもないということ?」


 ロドニーはばつの悪そうな顔になり、頭を掻きながら不承不承認めた。


「ある。あるんだが、証拠として出せるようなものはない」

「ごめんなさい、それじゃわたしは手伝えない」

「待ってくれ。やつは二年に一度の人事異動とは無関係のこの時期に首都に呼び戻されている。来週に開かれる審問会に呼ばれているんだ」

「なら、その審問会で悪事が明らかになるといいわね」


 必死に追いすがるロドニーだが、シャロンもそうそう甘くはない。


「いや、審問会に出るまえに始末をしたい」

「わたし、あなたを少し見損なっていたのかしら? 要するに、貴族が代官を口封じに殺そうとしているわけよね。その手伝いをしろと言っているわけよね?」


 言って、シャロンは今までとは違った真剣なまなざしでロドニーをねめつける。

 その視線には、隠そうともしない殺意が含まれていた。


「そういう要素が含まれていることは否定しない。だが、ちがうんだ。審問会に出てもなにも解決しない」

「……」


 無言で続きを促すシャロンに今度こそ観念したのか、ロドニーは一瞬ホールドアップのジェスチャーを見せたのちに、話を続ける。


「メイベルは不正を明らかにしようとは全く考えていない。すれば自分も終わりだからな。やつを監督する貴族と口裏を合わせて、審問会の糾弾を乗り切ろうとしている」

「ところが貴族様は、全てをメイベルに押しつけた上で口を封じようとしている」


 シャロンの推理は、もちろん的を射ているものだった。


「たしかに依頼人の貴族もろくなものじゃないんだろうが、メイベルはおまえさんが選ぶ的として問題がないことはたしかだ。そこなんだよ、今回あいつが的に掛けられたのは」


「そ? 口裏を合わせて乗り切ろうとすれば、審問会ではなんとかなっても、疑惑はずっと消えないままだものね。彼女に全てを押しつける証拠を背負わせた上で口を封じることができれば、殺しへの関与を疑われることはあっても、長期的に見れば不正自体の追求から逃れられる分トクだからでしょう?」


「殺しの実行者が自分とは直接の繋がりがないプロの殺し屋ならなおさらだな」


 ロドニーはまったく否定しない。否定のしようもないのだろうが。


「だがな、繰り返すが、今回のこれは、メイベルがあまりにもやりすぎたからなんだ。もちろん依頼人にとって都合がいい機会なのも事実なんだが、そもそも必死になって口封じをしなければならないほどの不正じゃない。むしろ、メイベルが私的にやらかしたことが表沙汰になる方がヤバいんだ。暴動が起きかねない」


 あまりにもきな臭い話になってきた。

 シャロンは、ますます関わりたくない気持ちが強くなってきた。


「ところで、なぜわたしに声をかけてきたのか教えて。あなたは最近よく組んでいる仲間がいたわよね。たしか元傭兵だったかしら」


 シャロンは、最初からずっと気になっていた質問を投げる。

 ロドニーは軽く頷いて、普段からの相棒の男を使わない理由を語り始めた。


「まず、的は週に二~三度の酒場通い以外は、官舎にこもってなかなか外に出てこない。次に、酒場へ行くときにも騎士団崩れの護衛を連れている」

「護衛?」

「ああ。もちろん、メイベルが自腹で雇っている私的な護衛だ」


 元騎士団、ね。つぶやくシャロン。


「続けるぞ。第三に、仕事はぜったいに官舎の中で行いたい。ここなんだ、おまえさんの手助けが必要な理由は」


「サッパリ要領を得ないわね。官舎で騒ぎを起こせば衛兵たちがやってくるし、週に二~三度も外に出ることが判っているんだから、そっちでやればいいじゃない」


「あいつらを始末した上で、あいつらが官舎に持ち込んでいるはずの書類を手に入れたい」


「なるほどね。メイベルたちに握られている弱みが、そこに記されているわけね」

「中身は俺も知らんがな。おそらくはそういうコトなんだろう」

「まだわからないわ。どうしてそこでわたしに?」


 官舎に殴り込むような荒事なら、元傭兵の仲間の方が絶対に適しているだろう。


「メイベルと接触して、一緒に官舎に入り込んで欲しい」

「はい?」

「そうして中から鍵を開けてもらえれば、大騒ぎになる前に仕事を終えられる」

「ごめんなさい。なに?」

「やつは極端な男嫌いだ。女しか信用しない。護衛もミランダという女だ」


 ここにきて、シャロンも若干の戸惑いを隠せなくなってきた。


「……わたしに何をしろって?」

「酒場であいつに接触してくれ。やつは、気に入った女は必ずベッドに誘ってくる」

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