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(シリーズ)『千字短編小説の館』

マンデラマワンという鳥の生態について

作者: 近江ハタケ


 マンデラマワンの生態について知られていることは少ない。インド洋の北側、スリランカという島国にのみその鳥は生息する。

 マンデラマワンの全長は成体でも十五センチに満たない。子供の掌にのせると少し余るくらいの大きさだ。全身は淡いブルーの羽毛で覆われ、尾の先に赤いラインのような模様がある。

 この鳥は警戒心が強く、普段は人前にほとんど姿を現さない。森の奥深くでひっそりと小さな虫を(ついば)んで暮らしている。

 島の人々がこの鳥を目撃するには秋の繁殖期を待たなければならない。この時期にだけ森近くの人里に出没するからだ。

 それには勿論理由がある。

 マンデラマワンの雄は、雌の気を惹くために巣をデコレーションする習性があるのだ。巣がきらびやかであればあるほど雌の目を惹きつける。

 だから繁殖期が近づくと、窓ガラスや酒瓶の破片をせっせとクチバシに(くわ)えては巣に持ち帰るのである。


 ──いま私の手にそのマンデラマワンの雄が一羽、のせられている。


 私がアトリエとして買い受けたこのガラス工房の跡地は、森のほど近くにひっそりと建てられている。

 工房の敷地には廃品となったガラスの破片があちこちに捨て置かれ、夕陽を浴びてきらきらと輝いている。

 哀れなこの一羽の雄鳥は、そのガラスひとかけらを拝借しようと地上に降り立ち、捕獲されてしまったのだ。

 幸い大きな怪我はないようだ。

 突如頭上から降りそそいだ鳥網(とあみ)(あらが)おうと、少し羽を痛めた形跡はあるが、いまは麻酔が全身にまわったのか、眠ったように目を閉じている。


 私は手の中の鳥を、そっとテーブルの上に横たえた。

 もうあまりゆっくりしている時間はない。鮮度を保つためには急いで肉を削ぎ皮を剥いで、防腐剤を塗らなければならない。

 椅子から立ち上がった私の目に、夕陽のさす窓際のステンドグラスが映る。

 精巧な幾何学模様を並べたその窓べりに、マンデラマワンの剥製が群れ成すように幾つも並べられている。

 窓とは反対側の、つまり私の方に向けられたその瞳は、かつての静かな森の中での暮らしを懐かしんでいるようにも見えた。


 淡いブルーの羽毛と赤い尾のライン。

 ステンドグラスから注ぐ光を浴びて、鳥達もまた極彩色に輝き、私だけのためにこの空間を染め上げている。

 私はこれで何度目になるか知れない、全身を貫くような恍惚(こうこつ)に包まれた。


 私はこの鳥の詳しい生態を知らない。

 そしてこれからも決して知ることはないだろう。

 ──しかしそれで良いのだと思う。




以上、995字。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぞっとするような冷たさが、良いです。 計画的に、何度も行われたのだとほのめかす描写。そして、タイトルで「マンデラマワンの生態について」としながら、最後に、生態なんて知らなくてもいい、と読者…
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