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第89話 貴方を想う心に



〜前回までのあらすじ〜


カルマが隠し持っていた高密度圧縮魔力砲『白雷轟天・神之裁』による巨大なエネルギー波はアッシャーの手によって落とされた。


元人間である城護のジューンは、人と魔人が争いを続ける事に思い悩みながらも太刀を振るう、魔人筆頭のレザールの葛藤を見抜いていた。

彼の悩み、そして自身の死を持って復讐を終わらせる願いを聞き、それを肯定したジューンは、自身の主である吸血鬼王、デュラハルド家に和平の願いを託してみる事を提案する。


ジューンはその後、アンビシャスの母船を対処する為にその場を後にし、その場に残されたレザールは夜空に浮かぶ月を見上げ、世界を憂いた。


魔人と機械兵に体力で劣る人々はやがて疲弊し始め、城護を除いて劣勢に立たされ始めていた。

ノワルとカルマもそれを狙い、真血解放状態のセンヤから距離を取り、時間を稼いでいた。


焦りから咄嗟の行動に出たセンヤは、2人の仕掛けた罠に掛かりかけるが、それを既に予知していた者がいた……。







「キリ……無いしッ!!……っとっ!」




「貰ったァッ!!!」




メロは黄泉脚で機械兵の首を叩き落とすが、着地をよろめいてしまった。

その隙をリザードマンの魔人は見逃さず、メロへと太刀を振りかぶる。




「ヤバッ……!」




ダァンッ!!!




「ぐあッ!!」




アディッカの魔銃による魔弾が、リザードマンを吹き飛ばした。

不思議な作りの小さな銃だが、見かけによらずかなりの威力を持っている様であった。




「ごめん、ありがと!」




「いえ。しかし、僕の魔銃も魔力が半分以下です……!魔力供給量より圧倒的に消費が多く、このまま戦い続ければ魔力切れで一巻の終わりです……!ですが!最後まで戦います!」




人間同士の戦いならば、体力を考慮しお互いに夜間は休戦等の条件の元に戦う事が出来る。

しかし、相手は魔人と機械兵だ。

魔人は人間の魔力と体力を大幅に上回り、丸々一週間、休まずに動き続けてもピンピンしている者が多い。

そして機械兵には体力の概念が無く、魔力を大気から吸収出来るならば、破壊されるまで活動を止める事は無い。

この戦いは、人間にとってはかなり分が悪い戦いとなる事は必定であった。




カルマとノワルによる『陽』の力を帯びた弾幕を掻い潜りながら、センヤは魔力を吸収する為に、周囲の機械兵と魔人を片っ端から斬り倒していた。

『真血解放』状態のセンヤは、魔将の中で一番の腕力を誇るノワルさえも上回る力を持っている為、カルマとノワルにとっては、夜間の接近戦は不利であった。

センヤに距離を詰められれば離れるのを繰り返し、朝になるまで時間稼ぎをしているようであった。




『ザ……ザ……ザー…………カルマ様!報告致します!突然小規模な渦が発生し、錨が外され機械兵供給船諸共、母船が制御不能となりリズアニア近海まで流されました!只今全速力で引き返しています!!』




『分かった。体勢の立て直しが可能でもう一度『白雷轟天・神之裁』が撃てると判断したなら連絡を寄越せ』




『はっ!』




カルマへと母船からの連絡が届く数分前に、渦を発生させ、リズアニアの方へと戻る海流が流れる海の方へと船を飛ばしたとジューンから連絡が来ていた。




「ふむ……貴様が何かかしら手を打ったのは理解した。しかし……貴様は無事でも他の人間達は息も絶え絶えでは無いのか?このまま続けようとも、持久戦なら我々に分がある……!」




本来ならば、センヤ程の実力者は残りの人間の命と引き換えに、アンビシャスの軍門へと下る事を勧める。

しかし、センヤを飼い慣らすには少々手に余る。

己の願いの為に、狂気すら感じる程に猛進する姿、まるで鞘に納まらぬ、抜き身の刀のような男を配下にしては、いつ寝首を撥ねられてもおかしくは無い。

カルマは、センヤと彼に与する者をここで全て潰すつもりであった。




「ムハハハハハハハ!!!勝手な事を言うな!青いの!!お前たちはここでジ・エンド!!終わりdeath!!!」




「……フン、魔将よ、おどけてはいるが貴様は一体、何の目的でここへと来た?最近貴様らの動きが活発化しているが……何を企んでいる?魔王とやらは何故姿を一向に現さない?」




カルマの疑問も最もである。

ノワルはセンヤが新たなる国を成立させる事を防ぐべく、アスワードと共にデュラハルド大陸へと現れた。

特に目立って敵対していなかったセンヤの吸血鬼陣営を攻撃し、新たなる国を成り立たせる事を阻止する理由が不明であった。




『黒い影』である魔王は、発生した直後にグァンダレラ大陸の人間が作り上げた物を全て破壊し、聖騎士軍グァンダレラ支部の兵たちの攻撃を一切受け付けず、支部長であった巨漢の男、アントニオ・アルデバランの腹を突きの1つで抉り抜き、それでも立ち向かった彼を、腹に埋め込んだ高密度圧縮魔力の解放による爆発で消滅させた。




僅か3日で人間の作り上げた物を破壊し、逃げ惑う人々を殺し尽くしたこの出来事は、後に『嘆きの鏖殺日』と呼ばれる。

そもそも魔王となった『黒い影』である者ほどの力であれば、人間を滅ぼすなど容易い事であろう。

しかし不思議な事に、魔王の存在は語られるが、『嘆きの鏖殺日』以降に魔王の姿を見た物は、魔族のみである。

人間達にとって、彼らの目的は未だに不明であり、それがとても不気味であった。




「………ムハハハハハハハ!!!それは貴様らに話す義理などなァいッ!!!教えませーん!!!」




明らかに最初の間が怪しかったが、ノワルはおどけた態度を崩さず、その真意を語る事は無かった。

そして、センヤが恐れていた時間が始まろうとしていた。




「ムハハハハハハハ────!!!空が白み始めた!!『朝』だ!!『太陽』だ!!!次の夜を迎える頃には!人間の数は半分以下になるだろうッ!!!!終わり終わり終わりdeath!!!!!」




「――――――クッ!」




焦る心は、身体を自然と2人の元へと動かした。

しかし、その焦りから来る、迂闊な行動こそが彼らの狙いであった。




「煌めけェッ!!――――――『鏡光水晶(クリスタリア)光天乱射(オーバースペクトル)』ゥ!!!」




突如、地面から多数のクリスタルが出現し、センヤの周囲へと包囲網を敷いた。

クリスタルは魔力を通さない石がコーティングされており、それが魔力による探知を防いでいた。

そのクリスタルにはありったけの太陽石(ヘリオライト)が使われており、出現と同時に眩い光線をセンヤへと撃ち出した。




「なッ……!!」




クリスタルの中で乱反射を繰り返し、異常な速度で放たれた光線は、移動と攻撃の初動へと移ったセンヤが対応出来る程、甘くはなかった。

……だがしかし、その攻撃を直前に察知し、既に動き始めていた者がただ1人、存在した。

それは、ノワルとカルマの眼中には全くもって入っていなかった、思いもよらない人物であった。







「――――――センヤ様ッ!!!」




(その手は、既に私が視ました……!!)




サナの右腕に刻まれた、剣と花の刻印。

それは彼女が『選ばれし存在』である事を示していた。




少し前の、キリナが危機に陥った日。

最初は突如として、自分の感覚だけが抜け落ち、世界を第三者として俯瞰しているような状態に陥った。

何が起こったのか理解出来なかったが、視界は城の敷地内を飛び越え、森の中の階段で、キリナの事を取り囲む半魔物化した者達の姿が確認できた。




サナは沈みかけた太陽の位置から、これは間もなく起きる事であり、自分は少し先の未来を視ている事を理解した。

結果、彼女は本当に敵に襲われており、テンガイとブーケの助けが何とか間に合ったのであった。




センヤやキリナ、テンガイ、城護達には余計な心配を掛けない様に話してはいなかったが、キリナの危機を察知して以降、これまで幾度か、同じ感覚を経験した。

その経験を重ねる度に出来る事が増え始め、視る事の出来る範囲や、時間などがかなり延びた。




最近は俯瞰状態となった後に、世界が今の時間軸とは異なる時間軸で進み始め、高速で時が進み、あらゆる可能性へと分岐を開始するようになった。

サナは何回かの練習を重ねてある程度、自分が見たい分岐を絞る事を可能とした。

しかし制約の様な物があり、自分から視ようとすると、体力をかなり消費する為に、1日に1〜2回までしか使用できない。

不意に訪れる場合は、何度でも見る事が可能なのだが、見ている間が無防備になってしまう。

だが、それを抜きにしても彼女の未来視は、類を見ぬ強力な能力であった。







(その先を私は知っている。だから……!)




「この炎は絶対に、貴方へと届かせる!!!」




未来を知っている自分に何が出来るのか。

彼女は様々な分岐した未来から、自分が出来る最善の方法を選び、自分でも知らなかった、自分の持ちうる可能性を知る事が出来た。




「────『紅魔法』紅鬼の七章『紅蓮繚乱』!!」




放たれた光線とセンヤを割って入る様に、彼の前後へと投げられた、サナの2つに割れた盾は、直後に美しい紅炎と変化し、彼の周囲を舞うように飛び始め、光線、そしてカルマとノワルの追い打ちを完全に受け止めていた。




炎はセンヤを守る役目を終えると、持ち主のサナの元へと戻り、やがてその炎が消えた時、骨で作られていた彼女の盾は、真紅の鋼で鍛えられた美しき紅盾へと生まれ変わっていた。








「私がセンヤ様をお守りします。守られるだけではなく、貴方と肩を並べ、歩みを共にする者として」




カルマとノワルの前へと立ちはだかるサナ。

目の前に立つ少女に、出会った頃の主人に怯える少女の姿は、今やどこにも存在しなかった。




「貴様……!何をしに来たッ!!」




「この戦いを、終わらせに来たのです!殺すだけの剣に、護る為の剣は負けません!センヤ様の剣は、明日へと繋がる希望になるんです……!!」




覚悟を決めたサナの射抜くような眼差しは、カルマの力と自身のみの幸福へと執着する瞳を捉える。




「黙れ……!!黙れ黙れ黙れェッッッッ!!!!!!!蹴落とした数多の屍の上に立ち!!俺は幸福で在り続けるッッッッ!!!貴様も……死ねェェェェェッッッッッッッッッ!!!」




幼き頃、親に奴隷商へと売り渡されてからの彼の人生は、己の持つ『力』のみが全てであった。

己の幸福の為ならば、主人、仲間をも蹴落とし、ただ『力』のみを追い求める。

彼にとって、彼自身の『力』とは、己の生き様であり、アンビシャス王から認められし、唯一の『誇り』であった。

自身の生き方を否定されたと感じ、激昂したカルマは最大出力の『雷響』を、サナへと振り下ろす。




「サナッ…………!!!」




センヤが終告げる紅薔薇(エンド・オブ・ローゼス)で受け止めようとするが、激情に駆られたカルマの雷響が一歩早かった。

しかし、雷響の切っ先がサナの身体を切り裂くその瞬間、サナの身体がどこまでも深き、黒き炎へと包まれた。











『国跡』は国の首都となります。


因みに、デュラハルド大陸に『貴族』は存在しません。

大陸の魔力はヴァスターリアが1000年間吸収していた為に、優秀な血筋を持つ魔法使い等も生まれる訳もなく、産業や資源にも乏しい為、まぐれで当てた成金は存在しますが、何代にもわたって稼げる様な貴族になり得る人物が現れる事もありません。

魔族の数も多い不安定な大陸は、この世界の王である『世王』の目も届きにくく、治安もあまり良くありません。

正に不毛の地、という訳です。

しかしこれは『人間が知り得る限りの事』です。

実際、この大陸でしか採れない宝石等が存在するのですが、人間がそれを見つける事は出来ませんでした。




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