第88話 人と魔人
〜前回までのあらすじ〜
己の力を人々の為に使うセンヤと、自身が信じる者と自分自身の為に使うカルマが相入れる事は無かった。
非情な現実を知って尚、抗い、世界を変える為に動くセンヤに、不可能だと激昂したカルマは、沖合のアンビシャスの母船から、巨大な高密度圧縮魔力の砲撃『白雷轟天・神之裁』を放つ号令を掛けた。
山間部を破壊し、『白雷轟天・神之裁』が国跡へと迫る。
カルマの号令によって、沖合に停泊するアンビシャスの母船に搭載された巨大な砲門から『白雷轟天・神之裁』と呼ばれる高密度圧縮魔力が放たれた。
それはデュラハルド大陸北東の山々を破壊しながら、国跡へと迫っていた。
「成程。量産の利く機械は幾ら巻き込んだ所で殆どノーダメージ。犠牲となる生身の兵も少数……逆に人間と魔人のみ構成される敵方は被害が甚大、という訳ですか。ですが、落とします」
「よっしゃ蹴れ」
レイズヴェルは壁状に小さな『絶叫の招待状』を作り出した。
内側で空気やら衝撃やらをアレコレすると、衝撃が加わった外側の一点に向かって力が向かうという効果を付けた。
アッシャーはそれを蹴り、一瞬でレイズヴェルの視界から消えた。
「ひゃー、初めてやったけど意外と速度出るもんすねー」
ォォォォォォォオオオオオ…………………
『白雷轟天・神之裁』へと真っ直ぐ打ち出されたアッシャーは、巨大なエネルギーが放つ白い光に目を細める。
「斬りがいがあると良いのですが。いざ――――――」
手前で減速したアッシャーは、自身の翼を使い空中でホバリングしつつ、刀を鞘に戻し、抜刀の構えを取る。
「一瞬の閃に絶技の総ては一刀へと宿る………『瞬閃絶刀』ッ!!」
―――――――――――カッ!
白銀の光を放ちながら、光速で抜刀された刀は、横凪に振り抜かれた。
巨大な力同士がぶつかり合い、『白雷轟天・神之裁』の高密度圧縮魔力は、激しい光を放ちながら国跡の空へと霧散した。
『センヤ様、あの光は落としました。射出元は沖合の母船からのようです。大陸から出られない私の斬撃では届く頃には威力がかなり落ちますが如何なさいますか?』
『ありがとう、アッシャー!ジューン!沖合の母船を任せる!』
即座にセンヤへと、対応した事柄と結果、その他に分かった事、自分の出来る内容を簡潔に報告する。
それを踏まえ、センヤはジューンへと対応を引き継いだ。
『分かったわ!行ってくるわね〜』
水に精通しているジューンならば、沖合の離れた船でも対応出来る筈だ。
流石にあれを何発も撃たれるのは困る。
あの山間部に人の住む集落は無いが、地形が大きく変わってしまう。
……時間は少し遡り、レザールとジューンが戦い始めた場面へと戻る。
*
レザールの太刀による猛攻が、ジューンへと幾度と無く振り下ろされる。
しかし彼女は一切の反撃をせず、レザールの太刀を躱し、いなし、受け止める。
彼らの周囲は、レザールが叩き切った敵や、ジューンが峰打ちで気絶させた者が多く倒れていた。
「―――何故だッ!!!何故反撃してこない!?そしてお前は……何故殺さない!?」
目を見開くレザールと、落ち着いた瞳のジューン。
2人の視線が交差し、ジューンは静かに、諭す様に口を開いた。
「迷い」
「……ッ!?」
思いがけない言葉を聞いたレザールは、ジューンの真っ直ぐな視線を見ている事が出来ずに、逸らしてしまった。
「……私は迷ってなどいないッ!!!」
レザールは彼女の言葉を振りほどく様に、力の限り太刀を振るう。
しかし、ジューンはレザールが迷っていると、彼と初めて相対した時から既に悟っていた。
「いいえ、貴方の振るう太刀が何よりの事実。人の振るう拳や武器には、思いが乗ります」
「思い、だと……?」
どう戦っても、ジューンには全てが見透かされている様な気がしたレザールは太刀を下ろし、呼吸を整える事にした。
自分でも内心、敵を目の前にして武器を下ろす行為を咎めたが、不思議と今は下ろしても良い気がした。
「良ければ、聞かせて下さい。私は今でこそ魔人になりましたが、元々は人間だったんです。船で嵐に巻き込まれ、海に投げ出されて死した私は地脈の中心へと落ち、魔人へと身体を作り変えられたのです」
「な……!も、元人間だと……?」
人間から魔人へと変化した事は、世界で何件かあるとは聞いていたが、半信半疑であった。
例え彼女の話が嘘であったとしても、ここで嘘を吐くメリットなど、レザールの話を聞き出すきっかけになるだけであり、戦況を変える事にも繋がらず、そもそも戦いは彼女の優勢である為、意味など無い筈だ。
故に、彼女の話は事実なんだろうと、レザールは妙に納得してしまった。
「だから私は、人も、魔人も、どちらも愛しているんです。故に不殺……きっと貴方の悩みは、あまり口に出す事がはばかられる事なのでしょう。だからこそ、戦場での一期一会。この出会いはあって無かった事にしましょう」
レザールは暫く迷ったが、やがて振り下ろした太刀を鞘へと納め、ゆっくりと彼女へと話を始めた。
「……剣を握る理由ならある。だが、果たしてそれは、必ず武器を取らねばならないものなのか……?」
「生存の為、信念の為、略奪の為、理由はそれぞれです。闘争は生存競争を生き抜く為の、生物の本能ですから。ですが……命の奪い合い以外での、問題を解決する術を、私達は知っている。だからこそ人や魔人でいられる」
ジューンは、ウェディングに次いで古い城守である。
彼女はとても長い時を生きたが、魔人の中から少数の種族が人間との和平の道を選んだのは知っていた。
しかし、やはり大多数の、主に見た目が魔族寄りの種族は、人間と対立していた。
「……私にはかつて、友がいた。私とは違い、明るく気の良い奴だった。しかし、奴は結ばれる直前に、人間に殺された。武器も持たず無抵抗だったと言うのに!!」
「心優しい友は「人間を恨むな」と言ったが、私は仇の人間を見つけ出し、殺した。これで友の魂は救われると信じていた……信じていたんだ…………」
今まで誰か1人として話した事の無かった、秘めていた迷いを、振り絞るように言葉にするレザール。
「しかし……その人間の懐から………妻である人間と、幼い子供の写ったペンダントが落ちてきた……その時、私は悟った。………私も、同じ事をしたと…………!」
「私は、友の魂が救われると言いつつも、友を失った自身の心を埋める為に、友の最期の願いを裏切った……!!」
レザールは地に膝をつき、地面を何度も何度も拳で殴り付けた。
彼の中で、一連の過去がトラウマになっているようであった。
「……この復讐は、私が人間を殺した時点では終わりでは無い。私の命が失われるその時まで続く。……もう、それで全ては終わりだ。どこまでも身勝手で道理が通じないのは理解している。だが……それでも人と魔人、互いに家族もいるだろう。武器ではない……手を取り合わなければならないんだ」
人間と魔人の戦いの終焉を望むが、自分は人間の手で殺される事を願う。
レザール自身も己の身勝手さ、そして矛盾には気が付いていた。
「貴方は……優しすぎる。きっと貴方の友人も、それを知って、こうなる事を悟っていた。だから最期に、友である貴方へと言葉を遺したのでしょう」
ジューンはレザールの側へと向かい、慈愛の眼差しで、彼の背中をゆっくりと撫でる。
人間と魔人の埋まらない溝は、彼女も理解していた。
「きっと、私達の王も戦わずに相手と手を取り、分かり合う事が出来るなら、そちらを望むはずです。誰だって、絶対に武器を取らねばならない状況を除けば、命を奪い合って、血を流したくも、流させたくありません」
「貴方の他にも和平の道を望む同族は存在するでしょう。人間と和平の道を選んだ魔人も、身体の構造が人間寄りであったのもありますが、種族内の小さな声が、やがて一族全体を動かした例が殆どです」
長年、城護として生きてきたジューンは、歴代のデュラハルド王が、どこまでも強欲で、慈悲深く、誰かの為に動く者だったと理解している。
和平の道を選んだ魔人も知っていたし、結局はお互いに共生する事は不可能だと理解し、決別した種族も知っている。
なんであれ、切っ掛けを作らなければ、永久に関係は変わらない。
「そして、貴方の望み。その先にあるのが自身の死だとしても、私は貴方自身の決意に敬意を表しましょう。ですが、決意と死に溺れてはいけません。貴方を殺す事は無理だと言われたなら、貴方はそこで引き下がらなければいけません。『死』の理由も忘れてはいけませんよ」
『ジューン!沖合の母船を任せる!』
『分かったわ!行ってくるわね〜』
「すみません。少しやる事が出来ました。……貴方の無事を祈りましょう!それでは!」
センヤから沖合のアンビシャス母船への対応を任されたジューンは、身体から水を発生させ、地を滑りながら海へと向かった。
彼女を見送ったレザールは、ゆっくりと夜の空を見上げた。
「………デュラハルド……か。……なぁ、吸血鬼よ……蘇ったお前にはこの世界が、どう見えている……?人と魔人は、変わらないのか……?」
レザールの瞳には、1000年前と変わらぬ月が映し出されていた。
最初の投稿から1年が経ちました。
1年……早いですね……
読者の皆様には本当に感謝しかありません。
拙い文章かつ、更新頻度も遅く、他の方々のなろう小説とは毛色が違いますが、これからもお付き合いいただけたらと思います<(_ _)>




