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第86話 MUSCLE vs NINJA



〜前回までのあらすじ〜


カテドラルの鋭いかかと落としが、地中から現れたラミア族の魔人筆頭、シュランゲの脳天に直撃し、彼の今回の戦いでの戦線復帰は困難になってしまった。



シュランゲを倒したカテドラルは、何かを察してある場所へと走り去って行った……



主戦場である国跡の外れに、マッスルゴブリン族の魔人筆頭、ムスコロはいた。

彼は筆頭という立場もあり、城護と戦えば死んでしまう、それでは筆頭の後継者が育っていない為に、一族が困ってしまう。

しかし強者と戦いたいという欲望もあり、彼は悩んでいた。


そんな時、彼の元へと謎の投擲武器が飛来した……




「ムンッ!!」




ズゥゥゥゥンッッッ!!!




「おわぁっ!?」




マッスルゴブリン族・魔人筆頭、ムスコロ。

彼は普段、ボサボサの長い黒髪をオールバックで1つに結っているが、戦いが始まる時はそれを解き、荒れ狂う髪を、まるで歌舞伎役者のように振り乱し戦う。




その理由は、マッスルゴブリン族は戦いにも礼儀は必要だと理解しているが、その本質は『暴力』であり、激しく荒々しいものであるとも理解している事にある。

彼らは『一変した荒々しさ』を表現する為、普段は整えている場所をわざと乱すのである。




マッスルの名に恥じぬ筋骨隆々の身体から放たれる拳を大地に打ち込むだけで、周囲の人間・機械兵がその衝撃で吹き飛んでいく。

かと言って彼に近付けば剛腕、豪脚の餌食となり、物凄い勢いで吹き飛んでいってしまう。

故に彼の周囲からは敵がどんどんいなくなり、主戦場からは少し離れた場所に来てしまった事もあって、主戦場の音が遠巻きになり、風の音が聞こえる程になっていた。




(城護と拳を交えるのも悪くは無い。しかし、それでは私は確実に死ぬだろう。今は筆頭を任せられる後継が不在だ。任せられる者が育つまでまだ死ぬ訳にはいかない……)




「我儘なのは重々承知だが、誰か私と丁度いいくらいの強さを持つ者は居ないだろうか……」




まだ死ぬ訳にはいかない為、確実に死ぬ極端な強者との戦いは避けねばならない。

しかし周囲には微妙な敵しかおらず、せっかく戦場に出てきたのだから、己の強者と戦いたい欲望が満たされない。




「―――ムッ!」




キンッ!キンッ!




死角から飛来した2つの鉄製の投擲武器を、ムスコロは手刀で弾き落とす。

それらは両断されて地面へと突き刺さった。




「……見慣れぬモノだ。出て来い、セェッ!!」




ムスコロの突きによる衝撃波が、少し離れた場所の大岩を破壊する。

崩壊する大岩の後ろから黒い影が飛び上がり、それはムスコロから少し離れた正面へと着地した。




『筆頭ならこれくらい避けて貰わねばな。しかし素手だが、あれに毒が塗ってあれば今頃どうなっていたかな?』




「それを見切った上で(・・・・・・)落とした」




目の前に立つ半生半機の男は、今まで戦ってきた者達とは見た目だけに限らず、纏っている雰囲気が明らかに違っていた。




「その異様な姿は人形共と同じく勢力と見た。他の連中と違い、貴様は速度と技術に特化した奇襲・暗殺などを行っているな。スタイルは全身に仕込んだ刀による不規則な斬撃、遠距離、近距離も自在にこなせる戦場に常に身を置く者だ」




『……ほう!まさか拙者の全身凶器、六道輪廻(リクドウリンネ)すら見抜くとは!』




彼もムスコロを手応えのある人物と分かったのか、ニヤリと笑い、腕に収納された手裏剣を取り出した。




「我々の歴史は戦いの歴史。分岐した同族の中で、我々が最も強く進化した」




祖先のゴブリン達の中で、これ以上自分達が虐げられるのは御免だと立ち上がった者達がいた。

彼らはまず身体を鍛え、他種族から舐められるような小柄な肉体を、トレーニングによって改造し、鋼の肉体を手に入れた。

次に彼らは礼儀を覚え、下品で知性を感じないゴブリンのイメージを変えた。

そして強さと賢さを備えた彼らは、戦場でも女性には決して手を上げず、例え他種族、敵対する人間であっても、何かかしらの危機に陥っている時は助けに入る。

彼らの信条は『強靭な肉体は強靭な心から』。

中には彼らに助けられた人間の女性が、彼らに求婚する例もあった。




『どれ、口での語り合いはここまでにしよう。戦場において強者同士が口上のみで立ち去るとは野暮も野暮だ』




「うむ、同感だ。……来いッ!!」




『行くぞッ!!シャッ!!』




先程と同じく手裏剣を投げ付けるキリサメ、それを再び弾くムスコロだったが、既にその場にキリサメは居なかった。

手裏剣が届くとほぼ同時にムスコロの懐へと潜りかけていたキリサメだったが、更にそれより早く、ムスコロは低く体を地面へとほぼ並行に落とし、剛脚での足払いをキリサメへと繰り出す。




(この魔人、拙者の速度に追い付くか!致し方なしッ!)




――――――ドォッ!!




このまま食らってはムスコロに一太刀は浴びせられるが、代わりにキリサメ自身の両足の骨が砕かれてしまう為に、ムスコロの脚を逆方向から蹴り、相殺、とまでは行かないものの、ぶつかり合う衝撃によってキリサメは後方へと弾き飛ばされ、足払いの横凪を喰らわずに済んだ。




『その巨体からその速度が出せるとは……普通の人間なら身体が耐えきれずに自壊してしまうだろう。骨が頑強なゴブリンなだけはある』




「ゴブリンの派生種は数ある魔物、そして魔人の中で最も多い。我々ゴブリン達は最も弱いからこそ、最も強くなれる。弱いという事はそれだけ『強くなれる可能性に恵まれる』という事だッ!!」




どうやらムスコロの自信は決してハッタリではなく、本当に只のゴブリンでは無いらしい。

今度はムスコロからキリサメへと、猛烈な蹴りの乱打が叩き込まれる。

キリサメは直接受けようとはせず、その衝撃を驚異的な技術でいなす。




『最弱か。スライムとゴブリンは最弱の代名詞だが……何故スライムは貴様らと違い進化をしない?』




「スライムに無くて我々にあるもの、それは『脳』だ」




キリサメが蹴りの合間を抜い、鋭い爪をムスコロの懐へと伸ばす。

しかしムスコロもそれを許す事は無く、伸ばした腕を折ろうと手刀が飛んでくる為に、即座に腕を引っ込める。

パワーより速度とテクニックで攻める事を得意とするキリサメにとって、パワーと速度を兼ね備えるムスコロの相手は些か分が悪かった。




「奴らは本能のある植物と行った方が良いだろう。まだ吸収した獲物の情報を、肉体という餌に含まれた『付随物』としか捕らえていない。しかし、一度それを『情報』として認識したなら……」




「恐らくこの地上にのさばる生き物は、人ではなくスライムになっていただろうな」




―――バチィンッ!!




再びムスコロの攻撃を強く弾き、距離を取る。

……中距離、遠距離は弾かれる為、やはり近接からの物理的強攻撃で無ければ、ムスコロにダメージを与える手段は無い。

しかし、近接は彼の最も得意とする間合いだ。

キリサメはそれを、テクニックで補う事にした。




『『黒魔法』隠の七章『落影(ラクエイ)』』




キリサメの姿が自身の影の中に溶ける。

ムスコロは感覚を研ぎ澄ますが、先程まで確かに存在したキリサメの気配は、周囲から全くもって消えてしまった。




(ほう……、自身の姿だけでなく、殺気、闘気、魔力等のオーラ、そして身に付けた武器すら隠蔽可能か。『隠』……リズアニアの隠れ里『ヒノモト』発祥の魔法だったか。興味深い)




キリサメの能力がまだまだ底知れぬ事に歓喜したムスコロは目を見開き、口角を上げに上げ白い歯を剥き出しにした。

彼は自身の闘気を周囲に張り詰め、全方位360度からのキリサメの攻撃に備える。




(存在する者を世界から完全に消し去る事は出来ない。我が静と動を極めし闘気は僅かな揺らぎすら見逃さない……ッ!!)




闘気を張り詰め、キリサメの動きを待つ。

しかし、ここは遠くから主戦場で戦う音が聞こえるのみで、ムスコロの周囲は風の音、鳥の鳴き声が聞こえるのみである。

何も、感じない。







(……なんだ……?何をしている……?)







………ゾワッ……




(こ……これは……)




この感覚は相手から発せられる物では無かった。

自分自身の第六感が告げている。

ここは危険だ、躱せ、避けろ、死ぬぞと。

しかし何を避ける?勿論あの男だ、それは知っている。

では奴は何処だ?俺は何を感じている?







「……まさか―――ッ!!」







『『闘法・死尼桜(シニザクラ)』』




姿を現したキリサメの右足から突き出た小刀の刀身が、ムスコロの首元へと迫っていた。







(敵の闘気圏内(・・・・・・)に入った事すら(・・・・・・・)隠蔽する(・・・・)―――ッ!!)




「『闘法・荒覇鬼(アラバキ)』ッッ!!!」




―――ドォォォォォンッッッ!!!!




瞬時に自身の闘気を爆発させ、自身ごとキリサメを吹き飛ばす。

死にこそしないが、自身にもダメージがある程度入ってしまう為、これは本当に奥の手であると共に、使うのは今回が初めてであった。




『いやぁ、ククク、恐れ入った。やはり貴様とは分が悪い様だ。拙者の目的はまた別にある故、ここで失礼する。さらばだ、筆頭よ』




爆発に巻き込まれたキリサメは、その直前、すかさずムスコロから距離を取り、爆発には巻き込まれず爆風のみを食らう形となった為に、擦り傷が付くのみでダメージには至らなかった。




「得手不得手は誰であれ存在する。離脱もまた戦いの技、許そう。機会があれば再び会おう、闇の男よ。良い経験になった」




鋼の肉体そのものが防具である為、それに外付けの防具を付ければ機動力が下がるので、ムスコロは薄手の服を身に付けていた。

その服は今の爆発で弾け飛んでしまい、おびただしい程の歴戦の古傷が残った肉体が露となった。

ムスコロ自身も案外ダメージを受けておらず、彼は日々の鍛錬とこれまでの全ての戦いに感謝した。




ムスコロは離脱を咎める気は無く、例え闘いに敗れようが、相性不利と戦線を離脱しようが、命があればその先があると知っている。

そうすればそこから学びを得、自身の弱点を克服する事も可能である。

命あっての筋肉なのだ。




「……厶、名前を聞くのを忘れたな」




爆風に煽られ、マントのような謎の羽で遠くへと消えた奴の名をすっかり聞き忘れていた。

普通なら名乗りを上げるが、奴は奇襲を仕掛けてきたので、そのタイミングを失ってしまった。




「影のような男……」




ムスコロは腕を組み、むんむんと思案する。

名前は覚えやすくシンプルに。

呼ばれた相手が反応しやすく、失礼の無い名前にしなければならない。

奴の特徴は………




「闇マン!」




シンプル過ぎるのも考えものである。

しかしムスコロはむふーっと鼻息を吹き、とても満足気な様子であった。

こうしてムスコロの中でキリサメは『闇マン』となったのであった。







『……ぶぇっくしっ!………拙者がクシャミとは……何時ぶりか』










お待たせしました……


取り敢えず泊まり込みの資格試験の方は、1段階目の机上が終了し、解放されました。

2段階目は実際の現場での経験を経て、試験に備えるという事なので、なんとか家で携帯を使える環境に戻りました。


人生の中で、スマホを持ってから恐らくこの1ヶ月がスマホの画面を殆ど見なかった(見れなかった)期間第一位にランクインすると思います。

部屋もなんか……少し良い独房みたいな感じでした……


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