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第85話 骨の髄までしゃぶれるか



〜前回までのあらすじ〜


帝金機械兵とアンビシャス兵を難なくあしらう城護・アッシャーとレイズヴェルの真面目不真面目コンビ。


そして、こちらも丸く切り取られた戦場で『強者』同士が独特の雰囲気の中、相対していた。







戦場、それは敵味方が入り乱れ、お互いの目的の為に相手を打ち倒し、命を奪い合う場所。

しかし、どれだけ人が入り乱れようと、強者同士は惹かれ合う。

戦いに身を置く者達は、本能的に『強者』を感じる第六感のようなものが養われている。

それは人間のみならず、魔人もだ。

身の危険や、死を感じた事のある者達は、自身の生存率を上げる為、危険に敏感に、徐々に臆病になって行く。

それは決して悪い事ではなく、寧ろ自分と相手との力量差を見極める事の出来る者こそ、一流と言えるだろう。




国跡の北側、ここでも人間と魔人、そして機械兵が入り乱れていた。

しかし、彼らはある場所をあからさまに避けていた、その場所に自分達は近寄ってはいけないと、本能が告げている。




丸く切り取られた戦場の一角、その中央には2人の『強者』が向かい合っていた。

腹から下に大木のような太さと長さの胴体、尾を持っており、細長い舌をチロチロと伸ばし、眼下を見つめるのは、ラミア族魔人筆頭・シュランゲ。

向かい合い、シュランゲに見下ろされながら正面にちまりと立つのは城護・カテドラル。




「……なんですか、貴方は」




シュランゲは突然目の前に現れ、何かをすることも無く沈黙するカテドラルに怪訝な表情を浮かべる。

相手の容姿だけで強さを判断するなど、それが愚かである事を彼は重々理解している。

しかし、どうにも気が抜けているというか、『強者』と相対した時の緊張感が感じられないというか。




ブォンオンオンオンオンオンオンフォンッ!




「からんっ」ふんすっ




カテドラルは骨と骨がチェーンで繋がれたヌンチャクをどこからか取り出し、それを器用に振り回し、ひとしきり振り回した後にポーズを取る。

シュランゲはその意味が良く分からなかったので、取り敢えず攻撃が来たら避ける為にだけ見ていた。

気の抜けた雰囲気が益々強くなる。




「……貴方は……城護、ですね?痩せこけて食いでが無さそうです。まぁ元々スケルトンに期待はしていま゛ッ!!」




喋っている途中のシュランゲへと、彼女は容赦なく骨ヌンチャクを投げ付け、彼の頬を激しく叩いた。

ぐるんぐるんとブーメランのように戻ってきた骨ヌンチャクをキャッチしたかと思うと、カテドラルはそれを再び激しく回転させ始めた。




ブォンオンオンオンオンオンオンフォンッ!




「からんっ」ふんすっ




「いちいちポーズ取らないと気が済まないんですか貴方はッ!!!」




地味に痛かった骨ヌンチャクは、シュランゲの頬を赤く腫れさせた。

こちらは攻撃を回避する為とは言え、ポーズを真面目に見ていたと言うのに、あちらは人が話している途中に不意打ちを喰らわせてきた。




「これ、はじめてつかうぶきだから……」しょぼん




「あぁそうですかッ!!知りませんよッ!!!!」




どこまでもマイペースなカテドラルに、顔中の血管をバッキバキに浮かせながら苛立つシュランゲ。

彼は非合理的、訳の分からないものを嫌う。

目の前に立つカテドラルは、頭のてっぺんから爪先までよく分からない。

大きく長い尻尾をバンバンと地面に叩き付けるが、どうにもイライラが抑えられない。




「いえ、乗りません!乗りませんよ!貴方のペースには!!『波蛇千海(パイソン・ウェイヴ)』!!」




何とか自身のペースに戻そうと、シュランゲは自慢の尾を使い、カテドラルをグルグルと取り囲む。

尾で出来た円は徐々に小さくなり始め、中央のカテドラルをジワジワと追い込み始めた。

すると、尾は途端に不規則な動きを始め、嵐に荒れ狂う海で、激しく暴れる大波のように、彼女へと攻撃を開始した。

彼の高速でうねる尾の鱗は、オーク族が誇る筋肉の様に硬く、軽く擦れただけで剣は折れ、防具は破壊され、皮膚は肉まで持っていかれる。

シュランゲの嵐のように波打つ尾の中を、カテドラルは器用に飛び跳ね回り、尾が触れそうになる度にそれをヌンチャクで弾き飛ばす。




「掛かりましたね」




……ボゴォッ!!




シュランゲは尾の一部を地面の下へと潜り込ませており、避けるカテドラルを上手くそこへと誘導し、彼女がその地点に着地したと同時に地面から巻き上げた尾を出し、彼女を絡め取った。




「からんっ…………」




「いくら骨とは言え、魔将クラスは呑み込んだ経験はありません。魔将にはなりたくありませんが、かなりの強化が見込まれますね………まぁ、直々に魔王様からお声が掛かれば、私もやぶさかではありませんがね」




全身の骨を折られ動かなくなったカテドラルは、顎を外したシュランゲへと丸呑みにされ、粘液で滑るようにして、縦に長い胃の中へと落ちていった。







「あー」




どぼんっ……




頭蓋骨を含めて全身の骨を折られていたが、胸の奥にあるスケルトンの命である魔力核を破壊されていない為に、折られた骨は30秒もすれば治った。

胃の中は強力な酸で満たされていたが、城護であるカテドラルは魔力的な耐性があり、すぐに溶けてしまう心配は無かった。




スケルトン族は、死した骨が魔力に当てられて動き出す者、又は地脈付近から自然発生する者の2種類が存在する。

共通なのは胸の奥に魔力の核が形成されて、それを破壊されれば死ぬ、という事であった。




故に、彼らの中で最も発達した文化は、魔力核を守る為の『防具』であった。

当初は人間の鎧を纏う者が多かったが、骨格はあっても肉が無い為に、サイズがどうにも合わない。

暫くして、彼らは自らの手で防具を作る事にした。

そんな時に出会ったのが、メイクゴブリンである。

彼らは手先は器用だが、魔力的な防御や構造の組み立て方が分からない。

一方、スケルトンは眼球が無い為に、視界は魔力の流れ頼みになる。

故に魔力的な構造を組み立てるのは得意だが、魔力の流れていない鉄などの表面やガワを加工するのは苦手とした。

お互いの防具を強化する為、彼らは手を組み、最近では人間達に引けを取らない程の防具が流通しているという。




死した人間というベースが存在するスケルトンは、生前の性格や趣味趣向を受け継いでいる者が多い。

自然発生したスケルトンは、ベースが存在しない代わりに、地脈から力を与えられており、前者のスケルトンよりもかなり強力である。

カテドラルは後者の自然発生型スケルトンであり、かなり巨大な地脈のほぼ中心から発生した、超強力なスケルトンなのであった。




城護は魔将と違い、主であるデュラハルド家の者から、本人が願うか、主から必要かと判断されない限り、魔人の姿のままで仕える事が可能であった。

カテドラルは城護として加入当初、ローブを幾重にも被り、小さい人形のようであった。

これではデュラハルド家に仕えるのは難しいだろう、という事で、大城護であるウェディングは魔力の糸を使い、ローブを人の姿へと編み込み、カテドラルへと与えた。

魔力で編み込まれたローブは伸縮自在であり、スケルトン族の特技である、骨を魔力で繋ぎ、自身の手足や、関節を増やす能力を阻害しない。

おまけに、スケルトン族には無かった眼球も与えられ、色のある世界を初めて見る事のできたカテドラルは、それらをいたく気に入った。




その為、シュランゲの胃の中は真っ暗だったが、彼女は受け取った眼球では無く、スケルトンとして元々使っていた感覚器を使い、彼が先に飲み込んでいた物が見えていた。

肉は強酸性で10秒と持たずに溶かされてしまうが、骨だけは時間を掛けねば消化できない。

彼女の目の前には、先に飲み込まれていた人々や、魔骨兵の骨がまだ溶けずに残っていた。

そう、彼女は飲み込まれたのでは無く、自ら飲まれに行ったのだった。




「なむ」




カテドラルは両手を合わせると、それらをヒョイと掴み取り、彼らの無念を骨ごと飲み込んだ。







―――――――――――――――――――――――――――




「俺は美味くねぇぞぉっ!!」




「グッ……駄目だ!!ビクともしねぇ!!」




冒険者や傭兵、アンビシャス兵等の人間達を、纏めて尾で絡めとり、シュランゲは舌で器用に防具を剥がしていく。

後からでも吐き出せるが、それでは喉越しがどうにも悪い。




「この世は『弱肉強食』……安心なさい。私の胃酸が貴方達の骨をしゃぶり尽くし、綺麗に肉を溶かし落としますから…………………ぅぐぅッ………!!?」




ヘラヘラと余裕そうだったシュランゲの表情は一変し、先程とは真逆の苦悶の表情を浮かべる。

彼の尾はビクビクと痙攣し、掴んでいた人間達を落としてしまう程だった。

今、シュランゲは今まで感じた事の無いような腹痛に襲われていた。

文字通り、腹の中を直に叩かれているような……




(まッ………まさかッ……!!!)




「おゴェッッ……ォヴェッ…………」




腹痛の正体に心当たりしか無いシュランゲは、このままでは腹を破られると判断し、焦りながら血液混じりの胃酸と共に、その心当たりを吐き出した。




「からーん」




腹痛の正体である彼女は、ドロドロの胃酸と血液に濡れながら、先程とは少し違う状態で戻って来た。

幼児体型だったカテドラルは、モデルのようなスラリとした手足を伸ばし、八頭身となっていた。

骨のヌンチャクも彼女は飲み込んでおり、彼女の武器は己の身一つだった。




「なるほど……まだ骨が溶けきっていませんでしたか」




「わんもあふぁいっ」




苦しそうながらも余裕な態度を崩さないシュランゲに対し、八頭身のカテドラルはファイティングポーズを取り、突き出した方の拳から人差し指を出し、クイクイと彼を挑発する。




「今度は粉微塵に成程に締め砕いてあげますよ……!『波蛇千海(パイソン・ウェイヴ)』!!」




「シャッ!!」




今度の『波蛇千海(パイソン・ウェイヴ)』は胃酸と共に繰り出され、更に躱す事が至難の技となっていた。

普通の人間ならば、硬質の鱗でミンチとなるか、胃酸でドロドロに溶かされてしまうだろう。

彼は尾の波打つタイミングと、酸を吐き出すタイミングをわざと規則的にし、急にタイミングをずらす不意の一撃を狙っていた。




「……そこですッ!!」




―――――――――パァンッッ!!




「―――ぐゥッ!!?」




波打つ尾を見切られたのは良いが、それは拳で軽く打ち払われた筈だった。

しかしその衝撃は、シュランゲの樹齢100年はある樹木の丸太ほどの太さを誇る胴体の反対側まで伝わった。




「からんっ」




「………余裕綽々という感じですね……気に入らない」




(当たり所か良かっただけ、まぐれに過ぎない……!!!)




シュランゲは自身にそう言い聞かせ、再び彼女を『波蛇千海(パイソン・ウェイヴ)』で囲い、攻撃を始めた。

しかし、そんなシュランゲの思惑とは裏腹に、彼女が繰り出す全ての攻撃は、文字通り彼の体へと大打撃を与えていく。

それは余りにも強い威力で、鋼鉄の鱗すらもヒビ割れ、伝わる衝撃は反対側の鱗すら吹き飛ばす程になっていた。




(何をしている!?魔将とは言えただの拳がここまでの威力だと!?そんな馬鹿な事があってたまるかッ!!!)




シュランゲは尾の末端、鱗が圧縮され更に硬い場所をカテドラルへと仕向ける。

荒い息をあげながらも、彼は彼女の動きの一挙手一投足を目で追う。




「からんっ!」




――――――パァンッッ!!!




「こ、コイツッ……!!」




末端の鱗すら彼女にとっては問題では無く、拳を食らった鱗はいとも容易く吹き飛んだ。

しかし、シュランゲは彼女の威力の秘密を知る事が出来た。




(……全てはインパクトの瞬間!!)




拳が対象へと当たるインパクトの瞬間、彼女は挙動に不要な体内の骨を重心、力の流れと共に、魔力を乗せて拳へと高速移動させており、それが軽い突きでさえも異常な威力を叩き出していた。




「見抜きましたよ……。貴方のその力の正体を……なら私は……こうしましょうッ!!!」




対面での物理戦は一方的に殴られるだけだと判断したシュランゲは、酸を使い地中へと潜り、その姿を完全に地上から消した。




……………ズズズズズズズズズズ………………!!!!




「…………シャッ!!!」




地鳴りと共にカテドラルの足元が溶け始め、途端に濃縮酸の塊が飛び出して来た。

カテドラルは飛び跳ねながら宙で回転し躱す事が出来たが、近くに居た機械兵が濃縮酸に当たってしまい、ドロドロに溶けあっという間に形を失ってしまった。

これは先程の胃酸とは違い、明確に敵対する者を攻撃する為に存在する強力な毒であった。




「当たりませんでしたか………だが次ッ!!」




シュランゲは再び地面へと潜り、地中を這いずり始めた。

彼はこのままヒットアンドアウェイを続け、カテドラルが疲弊する事を狙っていた…………。

だが、彼女はスケルトンである。

前述の通り、元々目玉が存在しなかった彼女は、魔力の流れで物体を認識する事が可能である。

故に、地中に潜るシュランゲの姿は、頭の先端から尻尾の先まで見えていた。




「かららんっ」ぴょーん




(おや……あの城護、跳ねましたね?しかし、あれ程までに強い魔力、宙にいようが探知は可能!!)




カテドラルがスケルトンだと、シュランゲは理解していたが、彼女の人間と変わらぬ姿に、彼はすっかりスケルトン族の探知能力を失念していた。

後はシュランゲが濃縮酸を吐き出しに出てくる瞬間に、吐かれるより先に攻撃を食らわせるだけ。




(馬鹿めッ!!空中こそ悪手中の悪手!!濃縮酸弾で狙い落としてあげましょうッッ!!)




ズボォッ!!!!




「…………シャッ……あッ!?」




「ふぃにっしゅ」




ゴッッッッッ!!!!!




「ガッ――――――――――――………?!」




カテドラルの鋭いかかと落としがシュランゲの脳天にヒットし、彼は頭から地面に埋まってしまった。

まだ息はあったが、この戦いでの戦線復帰は難しいだろう。

シュランゲのダウンを確認したカテドラルは、口から体内の骨を吐き出し、ちょっと強い魔骨兵を作ると、機械兵へと指を指して、そちらへと向かわせた。




「からんっ………むっ」




元のサイズに戻ったカテドラルは突如、何かを察した様に、どこかへと向かって一目散に駆け出した。








とりあえず生きてます……

エタりません。絶対にエタりません。

登場人物達が救われないまま終わるのは嫌です。


次章は『動乱のバンデッタ』、更に次次章は『交錯する誓い、アンビシャス』となる予定ですが、まず今の章を何とかせねばなりません。

頭で思っている事が文章として入力されるマシーンとか開発されませんか。


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