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第7話 1人で頑張るということ

現場猫ってなんであんなに可愛いんでしょうか




サナのドレスは綺麗に畳んでもらい、紙袋の中に入れてもらった。

普段着も取り敢えず1着、3500メロで購入し、サナに着せた。

子供たちが多いと聞いた為、市場で夕飯の食材を多めに買い込み、センヤとサナはお姉さんと共に、お姉さんの家へと向かった。




お姉さんの家はラグディスの街はずれにあるらしく、歩いている内に店や民家などの建物が徐々に少なくなってきた。




「そういえばお姉さん、まだ名前を聞いていなかった。俺はセンヤだ」




「アタシはキリナ。キリナ・クレイトス。歳は19。見たところセンヤさんとはあんまり歳は離れてないかな?」




「俺は17だからキリナさんの方が歳上だな。サナは俺より少し下くらいか」




「センヤさんとサナちゃんお二人の関係は?見たところ兄妹のように見えるけど…」




「いえ、私は元々奴隷なんです。しかし数日前にセンヤ様が私を引き取ってくれて…それからは対等に扱ってもらえています!」




サナは鼻息をむふーっとしながら両手を腰に当て自信満々に答える。




「サナ、別に話さなくても良いんだぞ…」




「そんな!隠してたらセンヤ様の夢が叶えられませんよ!」




「夢?…聞かせてもらっても良い?」




キリナが首を傾げ、センヤの夢の内容を聞く。




「あぁ、構わない。…笑わないで聞いてくれ」




…やはり離れているだけあって、歩いている内に日が沈み始めた。

気が付けば辺りは、草がなびく完全な草原になっていた。




「…俺はこの世界から全ての奴隷を解放したいんだ。子供たちにしっかりとした教育を受けさせたい。サナから聞いたんだ。この世界には大人や老人の奴隷は少ない。苛烈な環境で若いうちに命を落とす子供たちが大半だそうだ」




「子供達の命を犠牲にした上での幸せなどあってはならない…!」




センヤが拳を固く握りしめる。

この怒りは、この悲しみは。

きっと、俺は俺自身の手で過去の俺を救いたいのだろう。




「……センヤさんみたいな人も居るんだね。それだけでまだ世の中捨てたもんじゃないって思えるよ」




キリナは優しく微笑む。

店員時の営業スマイルではなく、1人の人間、キリナ・クレイトスとして。




「何か悩みがあるなら聞こう。話していて感じるが…なんだか貴方は1人で抱え込むタチのようだ」




「…ははははっ!センヤさん、抱え込むタイプの人にそれ言うと余計に話さなくなるって!」




「た、確かに…すまない」




確かにそうだ。

誰かを頼るのが苦手な者は、例え手が差し伸べられたとしても、素直を手を取ることが出来ない。

生きる事に、繋がる事に不器用だ。




「でも私から見ても、センヤ様は本当に大変な事は1人で抱え込んじゃうタイプだと思いますよ?」




「そ、そうか…そう見えるか…」




自分でも意識はしていなかったが、サナから見ればセンヤも抱え込むタイプに見えるらしい。

もしかしたらその辺りが同じだったので、キリナの事もそう感じたのかもしれない。







少しして、草原の一角を切り開いて、木の柵に囲まれた家が見えてきた。

表には「クレイトス」の文字が。




「あそこがアタシの家。街の結界にはギリギリ入ってるから魔物は来れないんだ」




「魔物か…」




センヤは自身の荒れ果てた城には、魔物は1匹も見かけなかった事を疑問に思った。

ラグディスからは離れている為、あそこは範囲に入っていない筈だ。

サナも入り込んでいた上、聖騎士軍が巡回していたようだし討伐されていたのだろうか。




「さ、着いたよ」




キリナが玄関の鍵を開け、中へと入る。

センヤは吸血鬼になってから、身体がかなり大きくなったので、頭を下げて中へと入る。




「姉ちゃんおかえり!」




「今日は少し早かったね!」




「ごはーん!」




「お客さん?」




玄関を開けた途端に、元気いっぱいの子供たちが部屋の奥から走ってきた。全員、見た感じ歳のくらいは10才前後だろう。




「ちゃんと良い子にしてた?今日はお客さんもいるよ!」




「子供がこんなに…見たところ15人は…」




「キリナさん、大家族のお母さんだったんですね!」




センヤとサナが感嘆の声を上げる。

19で15人……いや、やはりおかしいぞ。




「あっ!ち、違う違う!アタシはまだ誰とも結婚してない!はははは!!!」




センヤとサナの勘違いを笑いながら否定するキリナ。

ではこの子供たちは…?




「この子たちはみんな戦争孤児。聖騎士軍の対応が追い付かずに、結界を破られて魔物たちに滅ぼされる村もあってね…そんな中で残された子供たちをアタシは引き取ってるんだ。うかうかしてると奴隷商人共がハイエナみたいに湧いてくるからね」




「親を亡くした悲しみはアタシも痛いほど分かる。だからアタシはこの子たちの親代わりをしてるんだ。この子たちはアタシの家族。だけどもアタシはまだ1人も子は産んでないよ」




キリナは頬を掻きながら笑っていた。

しかしセンヤは神妙な面持ちになり、キリナを見つめる。

そして両肩に手を置き、言った。




「キリナさん、貴方はとても素晴らしい人だ」




「えっ…急にどうしたの?」




「貴方もまだ若い。それなのに立派に親の代わりを務めている…普通の人には出来ない事だ…ありがとう。君の頑張りは俺が今ここでしかと確認した。今の今まで良く頑張った。15人の子供の人生を救ったんだ、それは貴方の誇りだ」




「…キリナさん。センヤ様は『思い』は抱え込むタイプですけど、『想い』はストレートに伝えちゃうんです。出会ったのは昨日ですけど、人の為に第一に動いてくれる人なんですよ」




「えっ、なっ…えっ…ははは…!」




センヤのストレートな想いに、キリナは意識をしない内に涙を流していた。

子供たちはキリナが泣き出したのを、センヤが泣かせたと勘違いして足に攻撃をしてくる。




「姉ちゃん、泣いてるの?」




「そこのでっかい男!姉ちゃんを泣かすな!」




「ワーッ!!!」




「きゃー!!」




センヤが子供たちを驚かすと、子供たちは慌てて居間へと逃げ出した。




キリナは今まで誰にも評価をされずに子供たちの面倒を見てきた。

別段、評価が欲しかった訳でも無いし、自分が好きでやっていた事だった。

しかし、きっと心のどこかでは誰かに自分の頑張りを見て欲しかったのだろう。




その頑張りを認めてくれる人が居た。

それだけでキリナは救われた気がした。







「はは…!ありがとう、センヤさん。なんだか元気が出てきたよ。アタシも手伝うから夕食の準備をしよう!」




「よし、今日は腕によりを掛けよう」




「サナも作りますよ!」




センヤとサナは玄関にコートを掛けさせてもらい、貴族服を腕まくりした。

そして子供たちの期待を背負いながら厨房へと向かった。




(翼…?)




キリナはセンヤの背中に目が行ったが、特に説明も無かったのでその場は流す事にした。

世の中には魔力を使って飛べるようになる道具もあるらしい、とどこかで耳にした事があったからだ。







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