第73話 命尽きても誇りだけは
ダンはサブキャラの中でメインのような感じです。千夜達のメインキャラも成長する中、彼もひっそりと成長しているのです。
「あれだけで終わるとは思っていなかったが、まさか強化されているとはな」
ダンは倒した機械兵の残骸を拾い、注意深く見つめるが、昼間の機械兵と違う点は特に見受けられなかった。
「何か罠とか仕掛けりゃ良いんじゃないか?後は防壁でも作って防衛ラインを敷くとか……」
主に森で活動する狩猟系の冒険者の提案に対し、他の傭兵たちは乗り気だったが、ダンは賛成ではなかった。
「いや、この状況で罠は焦った味方が引っ掛かる可能性がある。壁は余程の大きなものでなければ、かえって視界を遮ってしまう」
「う……た、確かに…………」
冒険者たちは先程の自分たちを思い返し、確かにあの時の自分達ではパニックになり、自分で自分の仕掛けた罠に引っ掛かるだろうと思った。
「俺たちは冒険者や傭兵であって、普段からきちんと統制されている聖騎士軍のような正規の兵士じゃない。数も分散して少ない、だから戦える者が減るのはかなりの痛手だ」
「だが、型にハマったお行儀のいい剣術と違って、俺たちはそれぞれの持ち味がある。実戦経験も段違いでタフだ。だからそのタフネスを生かすために俺達に出来るのは市民を守り、次の波が来るまで飯を食ってしっかり休む事だ。なに……戦士の休息ってやつさ。ダンディだろ?」
ダンのアドバイスとジョークに、周囲の緊張は少し解け始めるが、そこへ招かれざる客達が突如として現れた。
ドドドドドドド……………!!!
森が振動している。
人々は一斉に森を振り向き、ダンが叫んだ。
「────ッ!構えろ!負傷者は街へ!歩けない者には誰か補助を!」
急いで負傷者を街の中へ運び込み、ダンを含め残った人々は、音の正体が姿を現すのを待った。
そして、木々を薙ぎ倒し、奴らは現れた。
「人間人間人間ンンンンン!!!!」
「なっ……!?何故ここにオークの魔人が…!!」
人間の数倍の体躯を持つ、オークの軍勢が森を抜けて現れた。
オークの行軍を見付けたカルマは、彼らの元へ人間に擬態させた機械兵を向かわせた。
カルマはオークという種族が短気で人間嫌いなのを理解していた為、敵の戦力を減らす事に利用したのだった。
それをテンガイ一派を勧誘しに来たキリサメが発見し、意図を汲み取った彼はカルマの作戦に一枚噛んだ。
本来であれば、抵抗する冒険者や、傭兵の数を減らす事が狙いだったのだが、キリサメの手により誘導され、城護と思われる巨大な魔力を避けながら、効率よく結界維持装置が破壊され、オーク達の侵入を許してしまい、補給を行う村や街までもが破壊されてしまった。
結果的に、カルマが望んでいた成果に対し、キリサメの助力で150%の成果が得られる事となった。
「どけぇぇいッ!!」
「むんっ!」
ギィンッ!
(お、重いッ…!)
ガイネスの大斧による攻撃をいなし、目の前へとダンが立ちはだかる。
「ほう!!逃げるだけが能だと思ったが……ゴミの中にも、貴様の様な身の程知らずで無謀なゴミがいるとは!選ばせてやろう。逃げるか、死ぬかだ」
意地の悪い笑みを浮かべるガイネスに、ダンは不敵な顔で言い放つ。
「では後者を選ぼう。……死ぬのは貴様だ」
「ククク……グフフフ……グハハハハハハ!!!!よォーし、お前ら、手出しは無用だ。黙って見てろ。お前をズタズタの肉塊にしたのを他の人間共に見届けさせてから、蹂躙を始めよう!!」
ガイネスの言葉に、他のオーク達はそれぞれ武器を下ろした。
しかし戦力差は圧倒的、既に勝負が決まっているも同然。
他のオーク達はニヤニヤと笑い、ダンが敗北するのを今か今かと待ちわびていた。
「んじゃ……始めるとするかァッ!!」
ガイネスは足元の地面を割って飛び上がると、全体重を乗せて、ダン目掛け大斧を振り下ろす。
「……フッ!そこだッ!!」
ダンはそれをステップで躱し、横に回り込みながらガイネスの脇腹を切りつける。
しかし……
「何ッ!?」
「なんだ……?今のは………まさか、俺を切ったのか?グフフフッ!グフハハハハハハ!!!オイ!お前達!俺を見ろ!……どうなってる!?」
体勢を立て直したガイネスは、大笑いで仲間達の方へと向き直る。
仲間達も万歳をして身体を見せつけるガイネスを見て、大笑いをする。
「ハハハハハ!!筆頭!俺らにはいつもの筆頭しか見えねぇよ!!」
周囲がオーク達の笑いに包まれる中、それを見守る人々の間には機械兵の時を易々と超える絶望が広がっていった。
そう、ダンの攻撃に対し、ガイネスには傷一つすら与えられていない。
「コイツ………この図体はタダの肉じゃない……厚い筋肉で出来ている!」
ガイネスとの戦力差は、対峙した時点でダン自身が痛い程に理解していた。
しかし、まさか傷の一つすら負わせられない程とは予想外だった。
(俺の生半可な魔法じゃ結果は同じだ……ならば闘法か?……いや、奴相手に使う余裕は無い………)
闘法を使う為にはある程度の集中が必要なのだが、ガイネスはその時間を与えてはくれないだろう。
何より、闘法が通じなかった場合、もうダンには後が残されていない。
「さぁ!どうする!続けて死ぬか?それとも……諦めて死ぬか?」
ダンの方へと向き直り、大斧を地面へと突き立ててガイネスは両手を大の字に広げる。
まさに余裕の現れである。
「たとえ………勝てなくても……負けはせん!!」
ダンは改めて構えを取り、ガイネスを観察する。
力量差はあっても、決して倒れる訳にはいかない。
ダンが倒れれば、冒険者や傭兵だけでなく、背後の街に住む人々が犠牲となる。
「ほぉら!チャンスタイムだ!好きなだけ斬ってこい!」
「オイオイ筆頭!気前が良いなぁ!グフフフ!!!」
ガイネスらは完全にダンを舐め切り、とうとう大斧すら持たず、無防備な姿でダンを迎える。
「………ではそのチャンスタイムとやら、大事に使わせていただこう!!」
剣を構え、ガイネスへと斬り掛るダンを見て、他のオーク達は一瞬目を丸くした後に、一層の大笑いを始める。
人々の不安げな表情と笑いに包まれる中、ダンだけが可能性を信じていた。
「オオオオオオオオ!!!!」
ギギギギギギギギギギギギンッッッ!!!
ダンは高速の剣技で、ガイネスの腹を延々と斬り続けた。
鋼鉄を斬り付けているような音が周囲に鳴り響き、剣が弾かれているのをその場の人々は理解していた。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンッッッ!!!
「俺は!昔そうしてもらったように!」
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッ!!!
(音が………変わった……?)
オーク達は大笑いで気付いていなかったが、傭兵や冒険者達の中には、音が徐々に変わり始めている事に気が付く者が何人か現れ始めた。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッ!!!!
「笑われようと!泥に塗れようと!どれだけ無様であろうと!!」
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッ!!!!
「自分がカッコイイと思える事を!気取らずに突き詰めて行く!!」
(…………!コイツ…………!!)
ガイネスも気付き始めていた。
自身の筋肉が徐々に破壊されつつある事に。
ギギギギギギギギギギギギギギギギ………ミシィッ!!!
「それが『ダンディ』ってもんだァ!!!!!」
………バギィッ!!!ズンッ!!!!!
それは、一滴の雨粒が長年をかけて大岩に穴を穿つが如く。
一点を攻撃され続けたガイネスの筋肉は破壊され、割れた中心には剣が突き立てられていた。
傷口からは血が流れ、ダンは確かにガイネスへと傷を負わせる事が出来た。
「筆頭ォッ!」
「や………やりやがった!あのダンディ!」
状況を察した他のオーク達が叫ぶ。
今度は逆に人々から歓声が上がった。
腹に剣を突き立てられたガイネスは沈黙し、ダンは荒い息を吐いていた。
「ハァ……ハァ……………──────ッ!!!」
────ズゥンッ………
視界が揺れ、脳が揺れる。
ガイネスの巨大な拳がダンの右頬に打ち込まれていた。
脳が理解を始めると同時に、ダンの身体は大きく横薙ぎに吹き飛んで行った。
「………血が出ちまった。人間如きの攻撃でよ」
ダンの剣はガイネスの臓器まで届いておらず、更なる内側の筋肉で締め付けられ、致命傷は避けられていた。
「チャンスタイムは終わりだ…………殺す」
「………グッ…………ぐぁぁぁぁッッ!!!」
痛みで立てずにいるダンの元へと向かい、ガイネスは何度も身体を踏み付ける。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
一変したガイネスの態度に、他のオーク達は沈黙し、人々は目の前で行われる残酷な光景に目を背けた。
ダンは息も満足に吸えず、臓器を傷付けられたのか血を吐き出す。
骨がバキバキと割れ、身体のあちこちがひしゃげている。
ガイネスは大斧を取り、それを高く掲げた。
「何か言い残す事はあるか?」
見下ろすガイネスへ、ダンは血を吐きながらも言い放った。
「ハァ………ハァ………グハァッ……!……俺の………命がァ………尽きよう、とも…………この、魂は…………ダンディと、共に!!!」
「ゴミクズに!!誇りなぞあるものかァァッ!!死ねェェェェ!!!!」
ガイネスの巨大な斧が、瀕死のダンへと振り下ろされる。
(すまねぇ………皆…………せめて、せめて逃げてくれ………!!俺に構うんじゃねぇ……!!)
────ギィィィンッ!!!!
死を覚悟したダンだったが、彼の意識はまだ途切れてはいなかった。
肉が引き裂かれる音の代わりに、響いた金属音に目を開けるダン。
「……ッ………あ……アンタ、は………!?」
ダンに振り下ろされたガイネスの大斧は、 1本の日本刀によって抑え込まれていた。
お互いに僅か1ミリにも満たぬ切っ先。
余程の技量、精度でなければ不可能な芸当。
「皆さん、お待たせいたしました」
吸血鬼王の翼竜執事、アッシャーの姿がそこにはあった。




