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第71話 2人の暗殺者

書いていた内容が保存されておらず真っ白になっており、頭も真っ白になったニンゲンがここにいました。顔面も蒼白。




目覚めたテンガイは、自身が眠っていた間の事について聞き、これから取るべき行動について、ロッシュから説明されていた。




「儂らは他の者の領地へと向かい、『天王剛壁(シエロ・レイ・ヴァント)』を使用し、壁を建てねばならん。全てが終わった際には結界だけでなく物理的な防衛もなんとかせねばならんな」




「や、でも正直爺さんよりも城護の方強くね?俺たちが出向かなくても……」




確かにテンガイの言う事も納得出来る。

城護はその気になれば、今後売り出される地図の内容を変えるレベルの攻撃を行う事もできるだろう。




「幾ら城護とはいえ、それなりの面積の領地全てを守りきるのは不可能だ。大規模な攻撃は、普通の人間が巻き込まれるのを防ぐ為、センヤが許可を出しとらん筈だろう。故に儂らのように自衛の何かを講じているやもしれん」




ロッシュの表情はあまり明るくはなかった。

城護の中に1人、不安な者がいるのだ。




「しかし……恐らくだが炎の拳を持つあのお嬢ちゃんが一番危ない。イフリート、イフリータ族は基本その場の雰囲気で行動する。一貫性が無く、思い付きで物事を決める為に、正直何を考えるかサッパリ分からん」




テンガイ一派は頭の中で能天気に笑うブーケを思い浮かべた。




「……不安だ」




一派の全員は頷いた。

そして、ブーケ以外にもレイズヴェルも不安だと数名は思っていた。




「ファテナの所は冒険者連合組合が付いとる。それに、聖騎士軍もいるしな。数には数で対抗できる……アンビシャスと敵対しているバンデッタから援軍が来ないのは、あちらも余程余裕が無いのだろう」




ロッシュが思考を巡らせる中、入口のドアがノックされ、女性が中へと入ってきた。




「失礼します。テンガイさん、服を直したのでお持ちしました」




「お、悪い悪い。ありがとよ」




テンガイは服を受け取り広げてみたが、しっかり補修されており、銃弾を受ける前と変わりない程になっていた。




「おおそうだ、話しておかなければならん。ここで聞いた話は他の連中にも伝えてくれ」




ロッシュはメモを取り出し、女性へと説明を始めた。




「良いか、街の外から助けを求められた場合、密集して壁の一部に4人程で黒の魔力を流せ。『天王剛壁(シエロ・レイ・ヴァント)』に微妙な揺らぎが生まれ、普通の人間なら中へ引き入れられる。あまり長時間触りすぎるなよ」




ロッシュが説明する横で、テンガイはベッドから起き上がり、補修された服を着て身体を軽く動かした。




「やっぱ痛てぇわ。超痛え。外側からも内側からも痛てぇ。服に物理耐性の防御魔法でも掛けりゃ良かったが、んなノウハウある奴はこの大陸にはいねぇ。多分旦那も知らん筈だ」




「寝てるか?」




「誰に言ってやがんよ。痛てぇ」




「………行くなら行くではよ支度せい。防御魔法の件は儂の知り合いに相談しよう」




ロッシュはため息をつき、アルム・ルブラと外へと出ていってしまった。




「ハハハ……なんだかんだで話してくれる辺り、やっぱあの爺さんは頑固だが良い人だまったく」




呆れているロッシュの背中を見送り、テンガイは支度を始めた。










ロッシュとアルム・ルブラは、テンガイらを待つ間、広場のベンチに座り、切り取られた夜空を見上げていた。

捕虜となっていた住人たちも疲れたのか、店は既に閉まり、人影もまばらだった。

2人共無言だったが、アルム・ルブラがおもむろに言葉を口にした。







「しかし……あれだけ吾輩に「坊主が死んじまったら」と慌てていた男の態度には見えんな。なぁ、坊主(・・)




「……言うなよ」




テンガイが治療を施され、命に別状が無い事を知っていたロッシュだったが、表面上は平静を装いつつも、心の中ではかなり焦っていた。

それをおくびに出してしまうと、後々テンガイが起き上がった時にイジられる事を知っていた為、ロッシュは決して口には出さなかった。




「我々の種族に感情が生まれ、自我を確立してから既に、長寿の我々ですら気が遠くなる程の年月が経っている。安心しろ。言うべき事と言わぬべき事くらいの区別はつく。だから先程、言葉を殆ど発さなかったであろう」




「……そいつはありがてぇな」




他愛ないやり取りをして、また夜空を見上げる。




「………」




「………」




テンガイらはまだ来ない。







「……しかし……変わらぬものだな。精霊界も、この世界も。我々の頭上遥か高く、雲は流れ、星は煌めき、月は輝く……当たり前の事だが、その当たり前の中にある美しさを忘れがちだ」




アルム・ルブラはメインの腕を伸ばし、夜空に浮かぶ月を指さした。




「そうだな。太陽、月、星……誰にでも平等に与えられる美しさだ。しかし、当たり前の美しさだが、それは我々がどれだけ手を伸ばそうとも、決して届く事は無い……与えられるが、触れる事は叶わず……不思議な関係だと思っとるよ」




ロッシュも月を見て、独自の感覚を語る。

そして一呼吸をおくと、続きを語り出した。




「だが────真に美しいモノはきっと、どのような状態であれ美しいんだろうさ。人が触れ、その神秘性が失われても、見る者を自然と引きつける……最も、神秘性など我々が勝手に抱いた幻想であり、ソレはただ自然とそこに在るだけなんだろう。生き物であれ、モノであれ、風景であれ、な」




「……なるほど、『在りのままの美しさ』、『在るがままの美しさ』か」




アルム・ルブラは代々、契約しているパラツオ家の人間に同じ事を言っている。

特に深い意味は無いのだが、一族でも人によって考え方が異なる。

ロッシュの考えを聞いたアルム・ルブラは満足そうに頷いた。




「悪い爺さん、待たせた」




丁度、準備を終えたテンガイ一派が広場へとやって来た。




「では行こう」




アルム・ルブラは武器化し、再びロッシュの腕へと取り付いた。

一派が複数名で『天王剛壁(シエロ・レイ・ヴァント)』に黒の魔力を流し、テンガイ一派とロッシュは、休んでいる所をわざわざ出てきた街の住人たちに見守られながら、街の外へと出た。







「よし……1番心配な炎のお嬢ちゃんの所へ行くぞ。だが無理は禁物だ」




「了解、じゃあ出発だ。行くぞ皆」




一行は草原を走り抜け、ブーケが担当を任せられた領地へと向かう。

機械兵の残党を狩りつつ、第二波を警戒しながら進んでいく。







しかし、草原を抜け、森の中を進んでいる最中の事だった。







(──────────!)




テンガイは突如立ち止まり、それに合わせて他のメンバーも立ち止まった。




「テンガイ様?」




「……少し野暮用を思い出した。先に行っててくれ。爺さんも」




「しかしテンガイ様はまだ万全では無い筈……念には念を入れ、護衛を付けた方が………」




一派は突然のテンガイの言動に不思議そうな顔をするが、ロッシュだけは気付いているようだった。




「………分かった。行くぞ。…………坊主、必ず戻れ(・・・・)




ロッシュはそう言い残し、他の一派を半ば無理やり率い、先へ向かった。




1人残されたテンガイはこの状況にため息をつき、自身たちを付け回している気配の主に言った。







「……出て来いよ」




テンガイが視線を移した先、樹齢数百年程の大木に空いた洞の中から、その男は現れた。




『……かのテンガイ一派が居ると聞き、勧誘に参った………が、まだ登場する予定は無かったのだが。良く見つけたな』




「分かるだろうが、独特の気配だよ。熟練の同業のな。この界隈じゃアンタの名前を知らない奴は余程世間知らずのぺーぺーかモグリくらいだ。……通称『霧幻(むげん)』のキリサメ。俺に何の用だ?」




カルマを手伝い、オーク族の群れを分断、隙を突き魔物の侵入を防止する結界維持装置を破壊し、街や村へと襲撃を仕向ける仕事終えたキリサメは、本来の目的であるテンガイの勧誘へと現れた。




『『霧幻』…か。仕事を終えると雨に降られる故な。難儀な定めに目を付けられたものだ』




腕組みをして唸るキリサメ。

本人にも制御が出来ない不思議な現象らしく、どれだけ気配を消しても自分が仕事をした事がバレてしまうのは本人も悩ましい点だという。




『まぁそれは置いといて……だ。単刀直入に聞こう。……拙者と志を共にする気はあるか?』




テンガイの眉がピクリと動く。

急に現れた最高峰の暗殺者からの誘い。

敢えて返事は返さず、キリサメが続きを話すのを待った。




『……拙者は今、アンビシャス女王陛下の元に仕えている。『三機将』などと大層な肩書きも賜ったが、他の機将と違い、拙者には兵が1人もいない。故に、集団で行動し、尚且つ全員の練度が高い主らに目を付けた』




キリサメは話しながら、風に流され落ちてきた葉を、目にも止まらぬ速さで切り裂いた。

手のひら程の大きさの葉は瞬時にバラバラになり、本人の技術の高さをテンガイへと見せ付けた。




「アンタ、今アンビシャスに付いてんのか。ハハ、そんでもって満身創痍も良い所の俺を勧誘か。高名な暗殺者からの誘いだ。勿論……と言いたい所だが、悪いな。無理だ」




『…………ほう、何故だ?』




予想外の答えに、キリサメは怪訝な顔をする。




「今の主がどこまでやれるのか……見てみたくなった。ま、俺も仲間もそれなりの立場に入れるし。将来の事も込みだけどな」




『……そうか。真に信頼出来る主を見つけたか。拙者にとっては惜しいが……良き事だ』




キリサメは本心からうんうんと頷くと、腰から二対の小刀を抜いた。




『ならば、これより拙者らは敵同士。────抜け』




自身と同じ道を辿り、信頼出来る主を得たテンガイに対して喜んだのは、先駆者としてのキリサメ。

そして今、テンガイの前に立つ男は既に、先程の男とはまるで別人のような雰囲気を纏っていた。




(これが……『霧幻』としてのキリサメ……!)




どこまでも静かなキリサメ。

最初にセンヤと戦った時は、肌に感じる程の圧倒的な『圧』を感じた。

しかし、この男は違う、それは『外』からではない、『内』にいつの間にか取り付いていた。

心臓をゆっくり撫で回されているような、その気になれば簡単に握り潰されてしまいそうな、腹の奥からジワジワとやってくる『恐怖』。




「腰の後ろに小刀差すスタイル。アンタをリスペクトしてんだぜ。最も、少し変わっちまったようだがな。特に本数」




(俺が手負い……っていうのはキリサメも分かっている筈だ……正直勝てる気が微塵もしねぇ。てか超絶好調でも傷一つが精一杯か………だが、やるしかねぇ。ここで死ぬ気もねぇしな……!)




『………』




「ま、深くは聞かねぇよ。それじゃあ………」




そして、テンガイの顔からも普段の軽い態度は消え、暗殺者としての冷酷な側面へと変わった。







向かい合うは二人の無頼漢




互いに得物を手に………




『いざ──────』




「──────勝負」







──────────────────────ッ!!







勝負は一瞬、お互いの凶刃が交差する。







再び沈黙が訪れた。







……先に言葉を発したのは、キリサメだった。







『────命までは獲らん』










『元より手負い。今回はお主の両腕に免じて見逃そう』







「………やるじゃねぇか……」




……キンッ




…ドチャッ……




キリサメは小刀を仕舞う。

それと同時に、小刀を持ったテンガイの両腕は生々しい音を立て、地面へと落ちた。

身体のあちこちも深く斬られており、テンガイはそのまま地面へと倒れ込んだ。




斬られた箇所からは大量の血が吹き出し、朦朧とする意識の中、キリサメの声だけが頭へと響き渡った。




『もし、次に相見えるならば、アンビシャスにて待つ。同胞として来るなら快く迎えよう。新たな腕も用意する……しかし敵としてならば……次に落ちるのは腕ではない。首だ』




そう言い残すと、キリサメは国跡の方角へと飛んだ。

ロッシュや仲間の元へと行かなかった事をテンガイは安堵したが、彼自身は瀕死の状態となっていた。




(は、蜂の巣の次は……腕まで無くなりやがった……ハハ………ツイて、ねえな……厄日だ……ぜ……駄目……だ……今回……ばかりは……やべ………ぇ……………)







テンガイはその場から動けず、気を失った。




暫くして、夜の森に霧雨が音も立てず降り始めた。













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