第70話 アンビシャスの変化
元々呼吸が浅い方なので、マスクをするとハヒハヒなります。ガリガリなんですが。
滅銀機械兵の攻撃で重傷を負い、気を失った後、テンガイは医者の家に担ぎ込まれ、体内に残った弾の摘出、魔法による傷口の回復など施された。
現在は全身が包帯で巻かれ、ベッドに寝かされていた。
そして────
「……ッ!……痛てぇッ!」
「テンガイ様!まだ動いては…!」
目を覚ましたテンガイはベッドから上半身を起こすが、身体に走った激痛により再びベッドへとダウンしてしまった。
周囲にはテンガイの部下たちが居て、目覚めた首領を見て安堵の息を漏らした。
しかし自身を庇い、テンガイに重症を負わせてしまったテリートは終始ボロボロと涙を零していた。
「テンガイ様がいなかったら……今頃……!本当に、本当にありがどうございまず……!!無事で良がっだ………」
「情けねぇ顔すんな。お前も生きてる、俺も生きてる。それで良いじゃねぇか。……オイこれ人様のベッドじゃねぇか。鼻水付けんな」
テンガイは自身が寝ているベッドで、涙と鼻水を垂らすテリートの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「しかし………クソッ!旦那が最前線で戦ってんのに呑気に寝てたのか俺は……!情けねぇ……」
テンガイは悔しそうに拳を握りしめるが、悔やんでも時間は戻らない。
「目が覚めたか。坊主」
ドアを開け、ロッシュが入ってきた。
その隣には人間サイズになったアルム・ルブラも立っていたが、人間と同じ大きさだと正直、不気味だった。
「じ、爺さん!いや礼は言うが……今どうなってる!?」
「あまり余裕は無いが……まずは気を失ってからの話を聞け」
ロッシュとアルム・ルブラは椅子に腰掛けると、テンガイが気を失ってからの事を話し始めた。
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〜テンガイが気を失ってから〜
ロッシュがアルム・ルブラと共に、アンビシャス兵諸共、滅銀機械兵を文字通りぶっ飛ばした後、直前に気を失ったテンガイは仲間たちや、解放した街の人々によって治療を受けていた。
ロッシュはテンガイの命に別状が無い事を知ると、広場の一部を借り、武器化したアルム・ルブラを元の姿に戻した。
「で、でけぇ………」
「精霊なんて初めて見たぜ……」
人々はアルム・ルブラを見上げ、何名かはぺたぺたと巨木のような足を触っている。
「吾輩の姿が珍しいか。ウゥム……将来は人間と精霊の契約をもっと身近なものにするのも一考か。契約を果たせば精霊界にも行き来しやすくなるだろう」
「うむ、精霊界とこちらの世界は近しい存在だからな。きっと不可能ではないだろう。さて、お喋りは後だ。先にやらねばならぬ事をするぞ」
「心得ている。……最も、召喚時に地面に埋まっているのを是非とも何とかして欲しいが」
アルム・ルブラの話を聞いてはいるが、返事は返さず、ロッシュは地面へと手を置き、詠唱を始めた。
「堂々たる大地の神々よ。我々に力を貸したまえ」
「其れは全ての災厄を断つ堅牢なる絶壁である」
「其れは石、其れは岩、其れは鋼、即ち守護を齎す力なり」
『此度の詠唱、精霊、アルム・ルブラの名の元に見届けよう。精霊界の加護があらん事を』
「黒き者からの全ての力を弾け」
「『白魔法』鋼壁の九章『天王剛壁』!」
すると、遠くで大地が唸る音が聞こえ始めた。
それはこの街の地面も例外でなく、激しく振動をしたかと思うと、地面から呪文が描かれた巨大な白い壁がせり上がり始め、街の周囲を高さ20メートル程の壁ですっかり囲んでしまった。
「こ、これは……?」
テンガイ一派、そして人々は高くそびえる壁と、切り取られた空を見上げた。
「坊主らが街や村を解放している間、儂とアルム・ルブラは外で術式を仕込んでいた。これは機械兵、そして魔物や魔人に対して強力な防御力を誇る魔法だ」
「しかしアンビシャス兵は既に倒され、機械兵も倒し終えたのでは?」
確かに、アンビシャス兵や機械兵、滅銀機械兵もテンガイ一派、ロッシュが倒してしまった。
しかし、ロッシュは終わったとは微塵も思っていなかった。
「いいや、動きを見ていると分かる。予め設定されている筈の動きを行おうとすると、それに制限が掛かっているのか、注意深く見ていると、動きが微細に停止する事が何回も確認できた。手を抜く理由など己の慢心か、相手の油断を誘うしか無いだろう」
ロッシュはテンガイ達が入口の機械兵を倒す最中、それを注意深く観察していた。
その度に、不審な動きをする機械兵の存在を確認した。
「アンビシャスの真に恐ろしい点は技術力だけではない。異常な生産能力も。だ。儂は一度、アンビシャスの侵略を受けた国の侵略後を見たが、こんなもので済むはずがない」
過去、ロッシュはアンビシャスからの依頼を間接的に受けた事がある。
様々な理由で弱っている国を見つけると、宣戦布告も無く、翌日には短期決戦で戦争を仕掛けるアンビシャスの事を、快く思わないロッシュは断りたかったが、古くから付き合いのある大工が、監督役不足の為に頭を下げに来たのだ。
知り合いの頼みを無下にする訳にもいかず、引き受けたロッシュは戦争で破壊された建物や、地面の補修作業へと向かった。
国には視界を埋め尽くす程の鉄クズと、無惨にも散った兵士の亡骸がまだ放置されていた。
ロッシュが無言でそれらを見ていると、傍らに冒険者がやって来て、何があったかを話し始めた。
「……悲惨なモンだぜ。まるで獲物に群がるアリみたいだったって聞いた。ここの兵士は度重なる魔物の侵略で、ここ最近は兵士不足に悩まされていたらしい。ただでさえ兵士不足なのに、相手はこの物量だ」
「体力の無くなった者、油断をした者、魔力を使い果たしてしまった者………一瞬で機械兵が群がりメッタ刺しだ」
ロッシュは悲惨な最期を遂げた兵士達の無念を感じ、沈痛な面持ちで目を瞑った。
「……新女王に変わってから、アンビシャスはおかしいぜ。前女王も好戦的だったが、攻める前に投降か、戦争かを聞いた。だが新女王は……容赦が無い。徹底的に武力で制圧し、まるで世界に向けてアンビシャスの武力を誇示しているような……」
少しして冒険者はどこかへと行ってしまった。
知り合い、そして自身の部下が到着するまで1人残されたロッシュは、犠牲となった兵士の魂に祈りを捧げた。
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過去の経験や情報、知識を踏まえ、ロッシュは断言する。
「敵方の将、指揮しているのは侵略の三機将、カルマ・トランキリテだ。奴は我々の油断を狙っている」




