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第6話 サナの服選び




〜ラグディスの外れ・民家〜




「なぁ、姉ちゃんよ。ガキなんざ奴隷商にでも売っぱらっちまえ。そして貰った金と、立ち退き金でどっかの家に嫁入りした方が……俺ァ有意義だと思うぜ」




「ふざけないで!アタシはこの家を出るつもりも、子供達を奴隷商に売るつもりも無い!」




ガラの悪い男が、赤髪の女性の家の玄関前に立ち塞がり、下卑た言葉を投げかけるが、女性も男に対して食い下がる事はなく、男を睨み付けながら言葉を言い返す。




「アンタもいい加減強情だぜ……早いとこ決めた方が良い。グェネリロさんがキレたら、ガキ共は全員奴隷商に売り飛ばされた挙句、アンタも身体を売って生きていかなきゃなんなくなるぜ。継いだ店も売っぱらう事になる……」




「そんな事したらアンタのボスも聖騎士軍に目を付けられるに決まってるでしょう!」




「グェネリロさんは聖騎士軍とも繋がってるんだぜ?ま、その内通者は今じゃあの山の上に建ってる廃城に飛ばされちまってるみたいだがな……」




これ以上話しても、話が進展する事は無いと判断した男は、大きな溜息をつきながら、背を向けて手をヒラヒラと振りながら、その場を後にした。

女性はより一層、男の背中を睨み付けると、家の中へと戻った。




「姉ちゃん、私たち出ていかなきゃダメなの?」




「売られちゃうってほんと?」




リビングから、子供達が不安げに玄関の彼女を見つめる。

しかしそんな事もお構いなく、彼女は靴を脱いで子供たちに駆け寄り、満面の笑みで子供たちを抱きしめる。




「何言ってんの!ほら、早くご飯食べなさい!」




子供たちを抱き締める彼女の腕は、栄養が足りていないのか、目に見えて細く、頬もやや痩けていたが、彼女はそんな気配を少しも見せなかった。




「じゃあ姉ちゃん仕事行ってくるから。皆ちゃんと良い子にしてるんだよ!」




「「「はーい!!」」」




子供たちの元気の良い返事に見送られ、彼女は家を後にした。

彼女の持っている手提げ袋には、綺麗に折り畳まれた服が、いっぱいに詰め込まれていた。













〜ラグディス・商店街〜




多くの商店が立ち並ぶラグディスの商店街、センヤとサナは比較的人気と思われる服屋の店先に立ち止まり、様々な服を眺めていた。

センヤが腕を組んで見守る中、サナが小動物のようにあちらに行ったり、こちらに来たりと、忙しなく服を選んでいる。




「こ、こういうのは何を選べば良いのでしょうか!」




「自分が着たい服を選べばいい。アドバイスをしてやれるとよかったんだが……その辺は疎くてな。申し訳ない」




「……ではこれを!」




サナは良くもなく悪くもない布で出来た、茶色の地味な服を選んだ。

うん、確かにこの世界の女性達も似たような服を皆着ていたし、普段着にするには問題無いだろう。

しかし、今日は誕生日で服を買いに来たのである。




「サナ、普段着は別に買うからそれとは別に良い服を買おう。せっかくのプレゼントだからな」




「う……」




「ハハ、良いんだ。存分に悩んでくれ」




困らせたい訳ではないが、悩む彼女を見ているのもなかなか楽しい。

こうやって人と出掛けるのも悪くは無い、そう思った。

しかし……




「あの子って……奴隷じゃなかったかしら……」




「奴隷の癖に上等なコートなんか着て……」




「隣にいる蒼白い男は見ない顔だな。新しい飼い主か?」




「ザッハルンとこの奴隷だった筈だが……とうとう金が無くなってあの飼い主に奴隷を売り払ったか。なんでも最近は盗品で生計を立ててたらしいしな」




「聖騎士軍にしょっぴかれてたのを見たぜ。なんか片手がぐしゃぐしゃになってたが何したんだか」




それが当然だという悪意の無い声が、そこかしこから耳に入ってきていた。

それらはサナにも聞こえているらしく、申し訳なさそうに、しゅん……と、縮こまってしまった。




「セ、センヤ様……その、私のせいでセンヤ様まで……」




申し訳なさそうなサナの頭を、センヤは軽く撫でる。

次いで、声のする方向をギロリと睨むと、見上げる程の大男に絡まれてはたまったものではないと、そそくさと声の主達は離れていった。




「気にしちゃいないさ。サナも気にする事なんてない。場所を変えようか」




「……はい!」




サナを連れてセンヤは更に、商店街の奥へと進んで行った。

今はまだ仕方がない、数は力だ。

いずれ、何も気にする事無く、皆が分け隔てなく買い物を楽しめる様な、そんな世界へと変えてみせる。







〜商店街・奥〜




商店街の更に奥へと向かった2人。

円を描くように店が並ぶ商店街は、年々増設されて、外側へと少しずつ規模を大きくしていた。

故に、円の中心に行けば行く程、その店は歴史のある店という事になる。

中心に程近い店の1つに、少し気になった服屋があり、センヤとサナはその店に立ち寄る事にした。




「いらっしゃいませ」




センヤより少し年上と思われる赤髪のお姉さんが、愛想良く微笑む。

しかし彼女の細い腕を見て、センヤは思わず聞いてしまった。




「失礼、余計なお世話だと思うが……貴方は、ちゃんと食べているのか?」




「あっ……いえ、アタシは元々あんまり食べないので、細いだけなんです」




「……それなら良いが……」




「あうあうあう」ぷしー……




お姉さんはそう言うが、明らかに足元がフラついており、誰かが支えなければ今にも倒れそうだった。

その横で、頭と耳から煙を出しているサナは、服の種類が多すぎて混乱してしまったようだ。

彼女も別の意味で倒れてしまいそうだ。




「すまない、お姉さん。この子に合う服を見繕ってくれないか。彼女に服をプレゼントしたいんだが、本人はもうこの通りでな。多少値が張っても構わないから良い服を頼みたい」




「はい、構いませんよ。うーん……そうですね……」




「少々お待ちください」




ショートしてポンとコツになってしまったサナを、お姉さんは頭からつま先までじっくりと見定める。

最後にサナの目をジッ……と見つめ、直ぐにドレス類が並ぶコーナーへと消えた。




「あうあう」




「サナ、お姉さんが君に合う服を見つけたらしいぞ」




「はっ……!楽しみです!!」




センヤが軽く頭を撫でると、ようやくサナは正気に戻った。

少ししてお姉さんが戻ってきたが、手には何も持っていなかった。




「お客様、服そのままで見てもらうよりは実際に着て、見てもらった方が良いと思います。こちらへ……」




「サナ、行っといで」




「で、では、不肖サナ!着させてもらいます!」




ギクシャクとおもちゃの機械のような動きで、衣装部屋へと連れられるサナ。

果たしてどのように変わって戻ってくるのだろうか。

多分何を着ても似合うだろう。

髪質や肌質を整えれば、素材は良いので更に可愛らしくなるだろう。

血は繋がっていないが、センヤは妹を溺愛する兄のようになっていた。




少しして……




「ど、どうでしょうか!センヤ様!」




「おおっ……!似合ってるぞ!サナ!」




「え、えへへ……」




美しい血のような深紅のドレスを着て、サナはもじもじと恥ずかしそうに下を向いている。




「お二人の目がとても綺麗な赤色をしていたので……別の色を組み合わせるよりも、何にも染まる事の無い、気高く力強い紅を、見る人々に真っ直ぐぶつけられるようなイメージで、選ばせて頂きました」




「ありがとう、お姉さん。是非購入させて頂こう。幾らだ?」




「これは……かなりの自信作なので、7万メロです」




「7万メロだな。分かった」




センヤは袋の中から7万メロ分の紙幣を、お姉さんに渡す。

爺さんもそうだったのだが、本当に良いと思った物には、金を惜しまない。

あまり金は持っていなかった筈の爺さんなのだが、使う時はかなり使う事もあった為、中途半端な物はあまり買う事が無かったので、そのせいもあって普段から金を使う機会がそんなに無かっただけかもしれない。




「確かに7万メロ頂きました。そのまま着てお帰りになりますか?」




「どうする、サナ?」




「着て帰りたいのは山々なんですが……今から外の土埃で汚すのも勿体ないので、一旦着替えます!」




サナはえへえへふんふんしながら謎のステップを踏む。

余程嬉しかったのだろう。




「ところでさっき『自信作』と言っていたが、ここの服は全てお姉さんが?」




「はい、ここは亡くなった両親から受け継いだ店なんです。裁縫の技術は母から……」




「なるほど。……お姉さん、サナの服を選んでもらった礼をしたい。今夜食事でもどうか。勿論支払いは全て俺が持とう」




サナの服を選んで貰ったのもあるが、一番の理由はお姉さんの裁縫の腕が気になったからである。

爺さんから過去に裁縫も教わったのだが、これがまた難しかった。

ミシンを使えば良いんじゃないかと言ったが、手作業でも出来る事はまず手作業を身に付け、それから利器を頼れと何度も言われた。

それから爺さんに色々教えられたが、未だにセンヤは裁縫が苦手であった。

あわよくば、彼女から裁縫も教えてもらいたい……そんな思惑もあった。




「え、えぇと……」




(そ、そんな急に……でもコート、中に着てる服も上等な服……7万メロもポンと出したし……貴族?お金持ち?え、誘われてる?)




急な食事の誘いを受け、お姉さんは困った顔をする。

それもそうだ、普通の反応である。




「勿論無理にとは言わない。断ってもらっても構わない」




「その…家に子供達が沢山いて…」




「あぁ、それなら材料を買ってお姉さんの家で手料理を振舞おう。俺もサナも料理は得意なんだ」




(子供…見た感じ既婚者では無いように見えるが…?)




「い、良いんですか?」




「安心してくれ。今日のお礼がしたいだけさ。なにせ2人とも服の事にあまり詳しくなくてな」




「…ではお言葉に甘えさせて頂きます」




お姉さんは店先の服を店内へと引っ込め、早めの店じまいをした。






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