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番外編 残雷…2

生きてます。ハネルも、千夜も。



残された人にも救いがあって欲しいんです。






雷造の目の前には、棺に納められた千夜の亡骸が横たわっていた。

月並みな、在り来りな表現だが、千夜はいつ目を開いてもおかしくないと思える程に、『生』を感じさせた。




部隊に入る前に、元々現場で働いていた雷造は、人の遺体など見慣れている。

しかし千夜の姿は、少しでも見る事すら辛かった。




葬儀は雷造のみで行った。

今まで千夜を苦しめた親戚が来て、千夜が喜ぶ筈もない。

どこからか話を聞き付けやって来ようものなら、雷造はその親戚を一切の情も無く殺していただろう。







「……なぁ、千夜……」




「お前さんの人生、やぁっと光が差してきたというのに……俺より早く逝くだなんて…………千夜………千夜………!俺を、俺を置いていかないでくれ………」




肩を震わせ、雷造は1人、棺に涙をこぼした。








『千夜が焼かれ骨になった』という事実を受け入れる事ができない雷造は、全てを職員に任せ、最後に骨壷だけを受け取る事を選択した。




その後、職員から骨壷が手渡された。

自分より小さかった少年が、成長と共に徐々に自身に迫り、遂に身長を抜かした時はとても嬉しかった。

しかし、その千夜は今、雷造の持っている骨壷の中に納められている。




千夜は千夜の両親が入っている墓に入る事になった。

寺の住職は、代々紅月家の人々に良くして貰ったらしく、無縁仏にならずに無償で住職が自ら管理をしていた。




後日、千夜に鞄を取り返してもらい、命を救ってもらった女性が、家に線香をあげにきた。

彼女は涙ながらに詫びの言葉と感謝の言葉を交互に口にした。

彼女がもし現金を引き出す所を見られていなければ、もし別の銀行に行っていれば。

意味は無いと知りつつも、既に過ぎ去った事を延々と心の中で繰り返し、その度に自身の心を自分で抉っていく。

女性が帰った後、残された雷造の心には、何も残っていなかった。







雷造はその晩、現職中の飲み会や、付き合いでしか飲まなかった酒を飲んだ。







千夜が既にこの世に居ない事実から、何をしてでも目を背けたかった。

這いつくばり、逃げる様に大量の酒を飲んでも、どうしようも無い現実ばかりが背後から波のように押し寄せ、呑み込まれていく。




そんな生活を何日も続け、心に比例するかのように部屋は荒れていった。

生きていても、心は既に死んでいた。

近隣の住民も、自棄となった雷造に対してなんと声を掛ければ良いのか分からず、酒を買いに店へと行く雷造をただ見ている事しか出来なかった。







「………」




雪が降る街を、覚束無い足取りでフラフラと歩く雷造。

泥酔した状態のまま、酒を買い、酒の入った袋をぶら下げながら、フラフラと家へと戻る途中であった。

家のカギすら掛けておらず、玄関を乱暴に開け、靴を脱ぎ捨てて、ゴミだらけの廊下を歩いて、同じくゴミだらけの居間へと戻った。







「……なんだ、お前さんは………」




雷造が散らかった居間に入ると、純白の髪の見知らぬ女性が1人、ゴミをかき分けてコタツの前に座っていた。




「……強盗か?金なら、そこのタンスにある通帳を持ってけ………俺は抵抗はせん………殺すなら殺してくれ…………もう、酒を飲むのも……生きるのも……疲れた………………」




雷造は酒の入ったレジ袋を床へと落とし、その場にガックリと膝をついて、ボロボロと大粒の涙を落とした。

誰にも本心を伝えなかった雷造は、酒のせいもあってか、己の心を零した。

そんな雷造を、女性は真っ直ぐとした目で見つめて言った。




「……雷造さん。貴方がそんな事を言っては、あちらで頑張っている千夜さんに怒られてしまいますよ」




「お前に……お前に何が分かる!!!」




雷造は空き缶と惣菜のプラスチック容器が、山の様に乗ったコタツを引っくり返した。

空っぽの空き缶同士がカランカランとぶつかり合う音が、空虚に響く。




「お前がアイツを語るな!!千夜は……千夜はこんなとこで死ぬ様な奴じゃなかったんだ!!俺が死ぬべきだったんだ!!畜生………畜生がぁ……!」







確かに、私は千夜さんの事を全て知っている訳では無い。

こちらで雷造さんと過ごした時の方が長く、情報として知っている部分以外にも、雷造さんは千夜さんの多くを知っている筈だ。

話を聞いてもらうには、実際に見てもらうしかないだろう。




「……私はナナリア・ナルズエルナと申します。雷造さん。きっと、私の言葉では伝わらないと思います。なので、こちらを観ていただけますか?」




ナナリアは両腕を広げ、次にそれを上下に広げ、最後に両手を胸の前で閉じた。




すると、雷造の家は姿を変え、周囲には造りかけの城跡、そしてそれへと迫る機械兵の群れが出現した。




「な、なんだここは!?い、家は……?」




慌てる雷造を、ナナリアは何も語らずに見守る。




<攻撃対象です。攻撃対象です。>




機械兵が徐々にこちらへと向かってくる。

しかし泥酔した雷造は腰が抜け上手く立ち上がれない。




「……ゼェェアッ!!」




そんな雷造の前に1人の男が現れ、機械兵たちを大剣の一振りで斬り捨てた。

残りの機械兵も大剣、そして体術を駆使し、纏めて倒していく。




「……せ………千夜…………千夜、なの、か?」




身長こそかなり高くなっているが、見た目は千夜があと数年成長したらこのような顔になるだろう、という顔だった。

それに、千夜が所々で繰り出す体術は、雷造が教えたものであり、クセが千夜そのものであった。




雷造が手を伸ばすが、千夜に触れる事は出来なかった。




「これは………お前さんは………あの、千夜に似た男は………何が起こっている…?」




様々な疑問が湧き上がり、雷造は言葉が纏まらない。

ナナリアはそんな雷造をまっすぐと見つめ、千夜の現在を静かに語り出した。




「……千夜さんの魂は、こことは別の世界を救う為、あらゆる魂の内の、1つの可能性として呼び出されたのです。些か、特殊ではありましたが。この空間は、現在のあちらの様子を立体的に映し出したに過ぎず、こちらからの干渉は不可能です」




「私は千夜さんが今、存在するあちらの『世界』を『世界』として存在させる為の『表面』の一部の様な物です。実際に世界を動かすのは細胞や歯車のような人間……というのも変な話ですが、私は直接の干渉が出来ない神のような……うーん……説明が難しいですね……」




「ここは天国じゃないのか……?千夜は……千夜は何故戦っている…?もう、休ませてやってくれ……これ以上辛い思いをさせないでやってくれ。両親の元へと………」




「……いえ、千夜さんは今、ある願いの為に戦っているのです」




「願い……?だと……?」




「千夜さんは元々、千年前に封印された吸血鬼の王が、人間を知る為に記憶をゼロにし、この世界へと送り込まれた人格の1つに過ぎませんでした」




「……そして、千夜さんはその生涯を終え、元の人格である吸血鬼の王へと、記憶を引き継ぎ、消える予定でした」




「しかし、様々な要因の歯車は噛み合い過ぎてしまった。それはイレギュラーを発生させ、千夜さんの人格は統合されず、主人格として封印を破り、王の身体を使い始めたのです」




「そして彼は奴隷の少女と出会い、世界から奴隷を解放する事を誓った」




「少しして、ある事がきっかけに、本来の王の人格が表面に現れましたが、彼は千夜さんの行先を見てみたくなり、彼に自身の身体を差し出す事にしました」




「そして千夜さんは奴隷が1人の人間として生きていける国を作る為、仲間たちと共に別の目的がある勢力と現在、戦っているのです」




ナナリアの説明、そしてこの空間にすっかり酔いが覚めてしまった雷造は、今度は別の涙を流した。




「……ハハハ……間違いない、アイツは……千夜はそんな男だ……!仲間か…!殻を……しっかりと破ったんだな……!!ハハハハ!!良かった……!!良かった………!!千夜はまだ……生きている!!!」




雷造は喜びに声を震わせながら、機械兵と戦う千夜を見つめていた。

そして、暫くしてナナリアは映像を止め、空間は元の雷造の家へと戻った。







「……宜しければ、ここを片付けた後、千夜さんの事をもう少し詳しく、お聞かせくださいませんか?」




「……すまないな。手間かけさせて……俺なんかの為に………」




「いえ、私としても千夜さんの事を知っておきたいんです。彼の存在は、きっとあちらの世界を大きく、根本から変えてしまう。そんな気がするんです」




一度に多くの事を思考・観測出来るナナリアは、雷造と話しながらも、千夜の動向を見守っていた。




(紅月千夜………きっと、貴方なら…………新しい世界を切り開く存在になれる………止めることの出来ない、今も静かに崩壊している世界を…………)







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