第61話 天才猫ちゃん
昨日の午後、ピンポイントで会社に呼ばれて更新遅れました……
悪い予感という表現も変ですが、なんかこういうのって被る気がします。
「これは……まともに戦うのは埒があきません。幸い、まだ距離があります」
大量の機械兵を目の当たりにし、リリーは剣を鞘に収め、精霊を呼び出す為に魔法を唱えた。
「『白魔法』精霊の番外『彼方への翼』」
するとリリーの隣に魔法陣が浮き上がり、その中心に光を放ちながら大鷲が現れた。
「リリーよ、最近鳥使いが荒いな。私は今、昼寝をしていたのだが」
精霊界から呼ばれた大鷲は、羽をバサバサと広げ抗議をする。
しかし、リリーはそんな事お構い無しである。
「ヴャトル、大弓になってください」
「……むぅ」
ヴャトルと呼ばれた大鷲は、迫る機械兵の群れを見て、渋々大弓の姿へと変わった。
「よしお前ら、魔法でこっからアイツらを迎え撃て。魔法の使えない脳筋はそうだな……あの木、あれを越えた奴らを倒せ。出来るだけ後ろから当てない努力はする。当たったら気合いで耐えろ」
雑だが的確な指示を出し、彼らを即座に動かせる。
このような場合は簡潔で分かりやすい指示の方が混乱を招かない。
迎撃を開始したが、魔法の扱いに不慣れな者が多く、この調子ではあっという間に距離を詰められてしまう。
それは誰の目に見ても明らかであった。
「……このままではこちらの迎撃する速度を上回ります。ファテナさん、彼の力を借りる事は出来ませんか?もしかすれば、彼ならば……」
(聡明でかっこいいファテナさんが彼と組めば、その強さはもはや神に匹敵するレベルです。常識ですね)
「えっ……あー……あー、うん、そうだな」
リリーの提案に、ファテナの視線が泳ぎに泳ぐ。
確かに、この状態ではあの精霊を呼び出すのがベストだ。
しかし呼びたくない、呼びたくないのだ。
(契約切れてますように契約切れてますように契約切れてますように)
「…『白魔法』……精霊の番外、『天災と天才』」
暫く呼んでいなかった為、精霊が愛想を尽かして契約を破棄している事を、普段全く祈らない神に祈りながら、ファテナは嫌々精霊を呼び出してみた。
契約が破棄されている場合、こちらとあちらを繋ぐ魔法陣は現れない。
しかし、ファテナの願いとは裏腹に、秒で魔法陣が現れ始めた。
「あああああああ………」
ファテナが頭を抱えながらも、魔法陣は光を放ち続け、中心に小さな可愛らしい二足歩行の子猫が現れた。
「わっ!猫ちゃんだ!きゃわいい!」
物理迎撃担当の筋骨隆々、顔面に大きな傷のある冒険者、傭兵の男たちは途端に頬を緩ませ、ニコニコと子猫の周りを囲む。
そして、その可愛らしい鳴き声を発するのを全員が今か今かと待っていた。
「……ゴクリ……」
「……ファテナ・クライス、久しぶりだな。太ったか?相も変わらず男みたいな奴だ。少しは気を使ったらどうだ?そしてこの匂い……まだ煙草など吸っているのか。まったく進歩の無い……嘆かわしい。それが人体にとって良いものでは無いとお前も理解しているだろう?」
「えっ……」
男たちが固まる。
「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………」
それと同時にファテナは誰にもはばかる事無く、とてつもなく大きなため息をついた。
それを見ていた大弓化したヴャトルは、小声でリリーに話しかける。
(…ここだけの話、あちらで彼はとても呼ばれたがっていた。私ばかり呼ばれるのを羨ましそうな目でみていてな。私まで辛かった)
(……素直になれない気持ち……分かります、分かりますともジェーニオさん)
リリーはうんうんと頷く。
「ジェーニオ……数年呼んでないのにまだ律儀に契約続けてんの…?おいおいアタシの事好きすぎか?」
ファテナはしゃがみ、ジェーニオと呼ばれるの子猫の精霊に目線を合わせ、人差し指で額をグリグリとつつく。
しかしジェーニオはそれを手で払い、深いため息をついた。
「ハァ………何だと?馬鹿を言うな。私はお前が基準を大きく越えていたから興味本位でずっと契約を結んでいるだけだ。有難く思え。そして、今回は何用で呼んだ。つまらん事ならぶっ飛ばすぞ」
「ぶっ飛ばすのはアタシじゃなくてあっちだよ」
ファテナは機械兵の群れを指差す。
「……不出来な人形もあれだけ揃えば壮観だな。少し待ってろ」
ジェーニオは懐から工具を取り出し、近くに落ちていた機械兵の残骸を集めて何かを作り始めた。
数分と掛からず、彼の手元にはバスケットボール大の玉が出来上がっていた。
「出来たぞ。言うならば……『壊れる狂機』か。こいつを爆発させれば、強力な電磁波が発生し周囲の魔力が通う機械の回路を纏めて破壊する事が出来る。しかしあの量では少しでも範囲がズレれば、敵は減らせるが、微量の爆発を食らった物は思考回路がズレ、予想外の動きをし、街に被害を出しかねん。やる気と根性、精度が大事だ」
「……?」
ジェーニオは難しい言葉を長々と話すが、幼少期から体育の成績以外、軒並み赤点の男たちにはイマイチよく分かっていないようだった。
「うぅむ……つまり、私が飛んで中心に落とすという事は無理なようだな」
タイミングの悪い事に、今日は強風が吹いていた。
大鷲のヴャトルが空から落とすのは、大きなズレが発生する場合がある。
「よし、お前ら援護しろ。囮はアタシだ。なんとかなるだろ」
ファテナはあっけらかんと言い放つ。
「いやいや姉御!そいつは無理だ!あの群れの中に突っ込んだら死んじまう!」
「アタシは100体の魔物から民間人を逃がす為に1人で戦って生還したような女だ。そんくらいじゃなきゃ支部長は務まんないよ。じゃ、援護頼む」
ファテナは軽い感じでジェーニオから『壊れる狂機』を受け取り、剣を片手に群れへと走っていった。
「全員、ファテナさんを援護してください。一発でも誤射した者は私が殺しますし殺した事実は権力で揉み消します。偉いので」
(こ、怖ぇ……!!)
屈強な男たちは「この女はマジで殺る」と、全員が心中で、支部長のリリーを恐れた。
魔法が使えない脳筋たちは、自分たちが魔法を使えなくて良かったと心から安堵したという。
「せっ!はっ!」
電磁波爆弾片手に剣を振るい、機械兵を斬り飛ばす。
後ろからの援護射撃もあるのと、人間に反応する機械兵と、ボタンの発信源に向かう機械兵が混在しているので、比較的楽にずいずいと中心へと向かっていける。
危ないと思った瞬間は、必ずリリーの矢が機械兵の体を突き抜けていく。
(やっぱりリリーはアタシよりも支部長向きだな。ノリと勢いで行動するアタシより、冷静に物事を対処出来る)
「そろそろだ、ファテナ。中心に着いてから起動させるのは、先頭のボタン反応型の奴らが先行してしまう。3カウントに設定してあるからもう押せ」
いつの間にか機械兵を改造し、ジェーニオが空から援護を始めていた。
「よっしゃ了解。ポチッとな」
何の躊躇いもなくボタンを押し、ジェーニオが伝えてくれるであろう機械兵の中心へとひたすら走る。
3……
2……
1……
「止まれ、そこだ」
「それでは皆さんご唱和くだ」
ダーーーーン!!!!!
ガガガガガガガガ!!!!!
ファテナが持っていた『壊れる狂機』は爆発、超強力な魔力の電磁波が発生し、次々と機械兵は動きを止め、その場に倒れていく。
しかし、これほどの電磁波を食らっては、人間のファテナ自身も無事であるはずが無い。
「あー……耳ぶっこわれるわー」
だが、爆心地にいたファテナは、蒼色の魔法壁によって一切の電磁波が遮断されていた。
いつの間にか傍らにはジェーニオがおり、彼がファテナを守ったようだ。
「お前なら助けてくれるって思ってたよ」
「馬鹿言え、次は助けないぞ」
全滅した機械兵たちを目にしたリリーと男たち。
大弓化を解除したヴャトルは、リリーの隣に立ち、独り言のように、その場の人々へと語る。
「……頭は良いが気難しい彼は、彼自身が設けた基準をクリアした者としか契約しない。基準は戦闘センス、知識、カリスマ性など多岐に渡る。私が知っている中で、彼と契約を果たしたのは彼女のみだ。恐らく、天才たる彼は、自身に釣り合うレベルの人間しか相手にしないのだろう」
「やっぱ姉御ってすげぇんだな……」
「だって、私の尊敬するファテナさんですから」
リリーは腕組みをし、うんうんと頷く。
ファテナが褒められている事に大満足のようであった。




