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第5話 決意




「センヤ様は若くして亡くなっていたんですね……」




「あぁ、残してきた爺さんが気がかりなんだが……っと『様』は付けなくて良いんだ。センヤで構わない」




年下とはいえ、さすがに『様』付けは恥ずかしい。

吸血鬼様ならまだしも、自身の本名に付けられると、とても違和感を感じる。




「いえ!私が好きで呼んでいるので呼ばせてください!」




「見た感じ、サナとはそんなに歳も離れてないから余計に恥ずかしいな……」




サナと食事をしながらセンヤは、紅月千夜という人物のこれまでの人生と、目が覚めたらこの身体で、棺桶の中に封印されていたという経緯を話した。

人生を語る筈だったが、意外とすぐに話が終わってしまったので、自身の生涯は味気なく、かなり短かったんだな、という事を改めて実感した。

しかしそれでも、両親や、様々な事を教えてくれた爺さんに感謝は尽きず、こちらの世界でも生き方の指針になる事は有難かった。




「だからあの時、センヤ様は私と同じだと言ったのですね……」




「だがサナに比べたら俺はまだ恵まれていた時間はあった方だ。君と同じだなんて失礼だったかもしれない……その、悪かった」




「そんな!謝らないでください!時間の長さに違いはあれども、センヤ様も辛い思いをしていたんでしょう?それは良くない事なんです!私とそれは何一つ変わらない事なんですよ!!」




座っていた椅子から立ち上がり、サナはセンヤを見つめる。

サナの人生に比べれば、センヤの2年間の苦しみなど、短いものだろう。

しかし彼女は、苦しみを比べる事はせず、受けた痛みや感じた思いは同等だと、声を大きくしてまで比較の否定をしてくれた。




「君は、本当に優しい子だな………」







「……決めた。これは『誓い』だ」




センヤはこの選択が正しいのかは分からなかった。

この世界では、それが当たり前として扱われている。

ファテナも言っていたが、それに反対する者はかなりの少数だと。

正直、迷っていた。

しかし彼女の真っ直ぐな目を見て、決心した。




「俺は、この世界を変える。俺はサナのような子を救って、ちゃんとした教育を受けさせたい。そしてゆくゆくはこの世界から奴隷を全て解放する。この世界では奴隷が当たり前でも、それは他者の人生そのものを犠牲にした当たり前だ。奴隷の上にある幸せなんて俺は認めない。認めてはいけないんだ……!!」




「センヤ様……」




前の世界では、家族以外の人との繋がり、関わりを避けて来た。

将来は爺さんに孝行をしてやりたい以外、生きる意味や、人生の目標を見出した事は無かった。

しかし何の因果か、前世での記憶を引き継いだまま、新たなる身体を授かる事が出来た。

爺さんが現れなかったら、俺は救いの無い世界に絶望し、高校生まで生きる事は無かっただろう。

だから、爺さんに孝行出来なかった分も含めて、俺は第二の生を誰かの為に、誰かを救う為に使いたい。




「しかし俺1人では成し遂げられないだろう……だからサナ、君にも力を貸してほしい。一緒に来てほしいんだ」




「……!ええ!そういう事なら喜んで協力しますよ!!嫌だと言ってもついて行きますから!」




「ありがとう、サナ!改めてよろしく頼む!」




サナは手を差し出し、満面の笑みで快く引き受けてくれた。

センヤも差し出された手を力強く握り返す。

彼女の手は年頃の少女にしては硬かったのだが、冬場の家事や様々な事をこなしてきたのだろう。

今まで頑張ってきた証拠だ。







「ステーキ、美味しかったか?」




「それはもう!今まで幾つも焼きはしましたが、食べたのは初めてでした!」




サナがステーキを初めて食べたように、センヤも爺さんに救われた後、爺さん以外の人間とは一線を引いていた為に、こうやって一緒に食事を共にするのは初めてであった。

たとえ荒れ果てた城の、簡素な机と椅子で行う食事ですら、彼の心は暖かく満たされていた。

センヤが彼女の運命を大きく変えたように、彼女もセンヤの生き方を大きく変えるきっかけを与えてくれた。




「満足してもらえたなら俺も嬉しいよ。明日もステーキにしようか?」




「いえ、こういうのはきっとたまに食べるからこそ有難みが実感できるんです!」




「分かった。じゃあ明日は魚を食べようか」




サナも毎日の贅沢はするべきでは無いという考えはあるようだ。

市場を覗いた際、センヤが見た事のある魚なども多く取り揃えてあったので、恐らく調理が出来ないという事も無い。

明日はサナの服を買った後に、城の玄関までの簡易的な修繕、水場などの修理もしたい。




食器は洗い場が無いので、今晩は片付けるだけにした。

風呂も同じくである。

なので、今日はもう寝る事にした。

しかし部屋は広間なので、無駄に空間が広い。広すぎる。

センヤは部屋の隅に簡易的な仕切りで、部屋の様な空間を作った。

その空間の中に更に仕切りを作り、サナと分ける事にした。




「わっ!跳ねますねっ!これ1回やってみたかったんですよねっ!」




サナがベッドの上でとても楽しそうにポンポンと跳ねる。

仕切りの上から頭が出たり引っ込んだりしている。




「壊れない程度になら幾らやっても大丈夫だ」




「センヤ様が作ったベッドですし大丈夫で」




バキッ!




「ああああ申し訳ございませんんんん!!」




「あー……材料少し少なめに作ったからな……少し脆いんだ……」










「えへ……」




センヤは壊れた方で寝ると言ったが、サナがそれなら私は床で寝ますと全く聞かなかった。

そんな問答が1時間近く続き、結局最後はセンヤが折れた。

1つのベッドにセンヤとサナの2人。

センヤが壁際にギリギリまで寄るが、彼女が腕をぐいぐいと引っ張り中央へと戻そうとする。




「センヤ様!お城の中はすきま風が吹いてますし、もっとくっつきましょう!」




「い、いや、俺はその……慣れてないんだ。異性と同じ布団で寝るのは」




「私なんて誰かと一緒に寝たのもベッドで寝たのも初めてですよ!」




「うぐっ……」




サナは特に意識せずに言っているのだろうが、発言の度にセンヤの心に、重い右フックが打ち込まれるような感覚を覚える。




「……今日だけだぞ」




「分かってます!………たまには良いですか?」




「……………………たまになら」




「えへ……ありがとうございます!」




それから、サナは満足気に朝までセンヤの腕にしがみついていた。

一方センヤは、年頃の少女のささやかながらも、しっかりとその存在を主張する双丘の感触が腕に当たっていた。




(これは………まずいのでは………)




無下に払い除ける訳にもいかず、センヤは朝まで眠る事が出来なかった。












全ての人間の犯罪記録等は、聖騎士軍によって管理されています。

勿論、奴隷も例外ではありません。

主人の命令によって行った罪が大多数ですが、元盗賊や山賊なども、敵対するグループによって壊滅させられ奴隷に落とされる事もあります。


通常の奴隷商人は、奴隷の前科等を聖騎士軍に届け出ねばなりません。

非認可の奴隷商人も少数ですが存在していたりしますが、一部の者しか知らぬ、とある非認可の国が大元だったりします。

この国が出てくるのは暫く、暫く、暫く後になります。


センヤは全奴隷の解放を誓いましたが、現時点では転生したばかりなので、自らの意思で罪を犯した奴隷の存在は知りません。

彼がそれを知った時、解放の前にまずは1人の人間として、然るべき罰を受けさせ、罪を償わせる事から始めるでしょう。


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