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第49話 治癒の絶章

ねむい!!!!!




「メロ、無事だったか?」




センヤは唯一蘇生が可能そうな腐死人(ゾンビ)の少女を背負い、拠点の近くへと戻ってきた。

拠点近くの広場には、メロと『虚栄虚飾の王政(イミテーション・キングス)』の分身が数名おり、倒したスケルトンの骨や、腐死人(ゾンビ)の残骸を一箇所に集めている最中だった。




「ん、全員蹴り倒した。アカツキ君の分身も中々働いてくれたよ。……その子は?生存者?」




「恐らく、ここ数日以内に亡くなった冒険者だ。まだ完全に腐りきってないし、損壊も少ない……もしかしたら、蘇生できるかもしれない」




「……はぁ!?」




センヤはサラッととんでもない事を口にする。

メロが驚くのも無理は無いだろう。

死者を蘇生するなど、神の領分に等しい。




「俺は出来そうな事ならベストを尽くしたい。例えそれが生き物の摂理に反する事だとしても。彼女に砂粒1つでも『生命の力』が残っているならば、俺はその意思に応えるつもりだ」




少女を近くの投げ出されたテーブルの上に乗せ、センヤは体内の魔力を整える。

こればかりは、詠唱破棄で行える魔法ではない。

かなりの精度、そして慎重さが求められる。







「……我はこの時を以て、神域へと至る」




「其れは全てを癒し、彼方の地より御魂を呼び戻す禁忌である」




「其れは血潮、其れは脈動、其れは命、即ち、輪廻を逆行せし力なり」




「人々の現し世に、死した仮初の肉体に、再び目覚めの刻を与えよ」




「均衡を司るは白に在らず、黒に在らず、紅き者である」




「我が紅き力を捧げよう、更なる強大な力を行使せよ」




「『紅魔法』治癒の絶章『輪廻を乖離せし禁忌(フォービドゥン・メビウス・カタストロフィ)』」




少女の乗ったテーブルを中心にして、地面に神代文字の魔法陣が浮かび上がり、触れている指先から少女の身体に、魔法と生命力の奔流が流れ出し始めた。

やがて神代文字が彼女の身体にも現れ、じんわりと体内に吸収されていった。




「……終わりだ。操っていた死術者(ネクロマンサー)の魔人は既に消え、操られる事は無いだろうが、もし上手くいかなかった時の事を考えて、魔物から襲われず、そして皆の安全を確保出来る場所に一晩置いておきたい」




「魔法ほっとんど知らないメロでさえ、今とんでもない量の魔力が動いたの分かったんだけど……吸血鬼すご」




異常な量の魔力を使ったセンヤに、メロが軽く引く。

そしてセンヤが再び少女を背負うと同時に、拠点の中から、センヤを見つけた皆が飛び出してきた。




「皆!無事だったか!……ん?サナは?」




「うん、なんとかね。奥の部屋に地下室があって、そこからスケルトンが出てきて驚いたけど……出てきたのはアタシとサナちゃんが。地下に残ってたのはセンヤさんの分身が皆倒してくれたみたい。




「サナちゃんに怪我は無いんだけど、スケルトンに不意打ちされそうになって、腰が抜けちゃったらしくて。センヤくん見たら安心するだろうし、早く行ってあげて」




「分かった、ありがとう!」




センヤは少女を背負ったまま、急いで拠点へと走っていった。




「ねーねー、メロちゃん、兄ちゃん背負ってたの誰?」




子供たちの1人、ナーナがメロに尋ねる。

確かに、今まで家の中にいた皆が知る筈ない。

しかし、なんと説明したものか。

ストレートに「死体だよ」と言うのも気が引ける。




「んー…………ね、キリナさん」




メロはキリナを呼び、背負っていた少女の件を耳打ちをした。

こういう事を聞くのは、キリナさんがベストだ。




「えっ、ほ、ほんと…?うん、うん、分かった」




キリナも驚いていたが、すぐに話を理解し、ちゃんと子供たちに話す内容を既に考えていた。




「あの子はセンヤさんが助けた女の子みたい。スケルトンに襲われそうになった所を助けてもらったのは良いんだけど、気を失ったらしくてね、拠点で休ませてあげるんだって」




「へーやっぱ兄ちゃんすげーな!」




「勇者っぽい!魔王も倒してくれないかなー」




子供たちも信じてくれたようだ。

なんだかんだで、今ここで一番の年長者はキリナだ。

センヤ不在時は色々な事を纏めてくれるし、アッシャーが頼りにする事も多い。







「サナ、大丈夫か!」




拠点の中に入ると、サナは座布団の上にぺたんと座っている状態だった。

キリナの報告通り怪我は無かったが、腰が抜けているようだ。




「あ、センヤ様!ぬ、抜けちゃいました……えへ……」




サナが照れ笑いをする。

年相応の素朴な可愛らしさ、美しさを感じるような笑い方だった。




「立てるか?」




「や、やってみます」




センヤが差し出した手を握り、ゆっくりとサナは立ち上がる事が出来た。

足が産まれたての小鹿のようになっているが、暫くしてなんとか落ち着いた。




「ありがとうございます………あれ、その女の子は……?」




「もう亡くなっていたが……なんとか蘇生措置を試みた。一晩待とうと思ってな。……子供たちには内緒だ。キリナさんがあちらで話を纏めてくれたようだ」




「センヤ様そこまでできちゃうんですね!神様みたいです」




キリナとメロの2人の話は、バッチリセンヤの耳に届いていた。

確かに子供たちに、既に亡くなっている少女だ、と伝えるのは、彼らの精神的にも良くないだろう。

心の中でキリナに感謝をした。




「……そうだ、この子は話にあった地下室に寝かせておく。一応、念には念を入れて、地下の入口には重石をしておこうとは思う」




暫くして、皆が拠点へと戻ってきたので、センヤを先頭に地下へと降りる事となった。

奥の部屋の床に、地下室へと続く階段があった。

子供たちは掃除をした時に見つけたのだが、中が真っ暗だったので探索はしなかったようだ。




センヤは途中の村で買ったランタンに火を灯し、少女を背負いながら地下へと降りていった。




中にはセンヤの分身が1人おり、他の分身と同じく、倒したスケルトンの残骸を片付けていた。

ちょうど降りた所で片付けが終わったらしく、分身は魔力となってセンヤの元へと戻った。




地下は簡素な机が幾つか並んでおり

本棚、そして簡素なベッドが置かれていた。

机の上にホコリの被った資料があり、センヤはそれを手に取る。




「これは……元々予定していた区画図か。ありがたい。回収しよう」




どうやらこの拠点は、元々国跡を設計した施工管理技士たちが利用していた建物らしい。

ここが他の建物と比べて、比較的壊れていなかったのは、重要な場所だった為に最期まで守っていたからであろう。




「流石にホコリの被ったベッドに寝かせるのは可哀想だ。少しベッド周りを綺麗にしよう」




後々使う事になりそうなので、掃除用具で地下を綺麗にし、少女をベッドに寝かせた。




「………さ、一日の終わりにバタバタしてしまったな。念の為、外には分身を数名置いておく。皆は安心して寝てくれ」




子供たちやサナ、キリナも疲れたらしく、緊張状態から解放されて、口数少なくうつらうつらとしていた。

センヤは中の燭台に幾つかロウソクを灯し、地下室を後にした。

通気口が上へと続いている為、中毒になる事もないだろう。




皆は灯りを消し、センヤが作ったベッドと、途中の街で買った布団と毛布へと横になり、すぐに寝息を立て始めた。







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