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第4話 誕生日おめでとう




「ほぉ〜〜珍しい!!!この宝石は100万メロじゃ!!歴史的な価値もあるぞ!!!最近チラホラ出てくる様になったが……うむ、うむ、良き事じゃ……!!長生きはするもんじゃのう……」




「「100万!!」」




センヤと少女の2人は、ラグディスの一角に店を構える、年老いた鑑定人に装飾品を見てもらっていたのだが、やはりあの装飾品はかなりの値段となった。




「うむ!安心と信頼のカンテー爺さんじゃ!その辺は信用してもらって構わんぞ!これは是非とも買い取ってワシの博物館に展示したい!譲ってくれ!!」




カンテー爺さんは両手を合わせ、深く頭を下げて懇願してきた。

この世界の通貨が必要なこちらとしても、願ったり叶ったりである。




「こちらとしても換金してもらえると嬉しい」




「おお!ありがとう……!ありがとう……!」







金貨も道具屋で売り払い、所持金が一気に増えた2人は、宝石を見つけた時以上に、ニコニコが止まらなかった。

2人とも生きてきて、今まで手にした事の無い金額であったからだ。

当面の生活費を手に入れた2人は、街の市場で生活用品を見繕う事にした。

広間の修繕、常温でも持つ食料、その他生活雑貨……




「新しいカーテンと燭台にロウソクも買った。寝具も2セット……夕食は豪勢に肉……本当は自分で調理したいが台所がないので、既に調理済みのやつなのが残念だ。今日はもう遅いから服は明日にしようか」




センヤは吸血鬼自慢の力を活かし、多くの荷物を担いでいた。

それでもまだまだ余裕がある。

荷物はセンヤが引き受け、少女には店での応対をお願いしていた。

そろそろ店仕舞いの時間になったのか、店主達は商品を少しずつ片付け始めていた。




「もうそんな時刻か。帰ろうか」




「はい!」




2人は商店街を抜け、荒城へと続く山への入口がある、ラグディスの奥へと向かった。







〜荒城〜




「く、暗いな……」




「流石に夜に来た事は無いですよぅ……」




廃城である。荒城である。

普段は聖騎士軍が夜も巡回しているようだが、どうやら彼らは完全にここを投げ出してしまったようだ。

人口の灯りが一切無いのは分かっていたが、こんなにも暗いとは。

もう心霊スポットというレベルを軽々と超えている。




「とりあえず先に入口を塞ごう。無いよりはマシだ」




センヤは荷物を下ろし、敷地内の建物の残骸を集める。

一応、山へと繋がる入口がある門も、軽くは鎖状した。

勿論と言ってはなんだが、隣の聖騎士軍詰所には誰もいなかった。

朽ちた丸太などを軽々持ち上げ、どんどん門へと積み上げていく。

作業が終わる頃には、普通の人間では出入り出来ないレベルで丸太が積み重なっていた。




「よいせっ……と!ま、これで正面からは盗人は入って来れないだろ。次はこっちか」




センヤは再び荷物を担ぎ、城へと向き直る。

闇の中でも、城はその存在を大きく主張している。

元の広間に戻りたかったが、途中から床を破壊しながら落下してきたので、広間の場所がよく分からなかった。




「うーん……俺達が出会ったのは?」




「えーと……あの辺かと……」




少女は6階の大きく壊れた部分を指差す。

確かにあの広間の一部分、かなり壊れた部分はあった。

この暗闇の中、明かりもないボロボロの城内を通って、広間まで辿り着くのは、少々非現実的である。




「何か……手段…………ん。待てよ」




センヤは目覚めてからずっと羽織っていたコートを脱ぐ。

コートに覆われていた背中には、蝙蝠のような、黒い翼が存在していた。

普通の人間ならば、感覚が変だと気付くだろうが、センヤは今の今まで全く気が付かなかった。

この身体には『付いていて当たり前』という感覚があり、それが全く違和感を感じさせなかったようだ。

貴族服にはちゃんと翼が通るように加工がされており、これはやはり吸血鬼専用の服なんだな、と改めて実感した。




「流石は吸血鬼様!ありましたね!翼!」




「感覚が当たり前すぎて全く気が付かなかった……」



センヤは少女をチラリと見る。

確かに瞳は紅く、犬歯もやや尖っている。

しかし自分と違い、翼がまだ生えていない。




(すぐには変化しないのか……?いや、取り敢えず様子を見よう。今日は早く彼女を休ませるか。大分疲れただろう)




「よし……両手は荷物で塞がっているから君を押さえる事は出来ない。腕力で俺の首にしがみついて欲しい。……大丈夫か?」




「大丈夫です!で、では失礼して……」




少女はゆっくりとセンヤの首へと手を回し、気道を塞がないように、鎖骨付近で手を組んでくれた。

彼女が安定したのを確認すると、センヤは背中に力を入れ、ゆっくりと翼を上下に動かし始めた。




「よ……よし、浮いたな、行くぞ……!」




「わっわっ……と、飛んでますよ!」




飛行初心者の2人はおっかなびっくり、短時間の夜間飛行を楽しんだ。

時間にしては2分程だったが、2人の心臓をバクバクさせるには十分過ぎる時間であった。

そして6階にある、先程の広間に辿り着いたセンヤは、床を壊さない様にゆっくりと着地する。




「着いた、着いたぞ……!……やっぱり暗いな!」




「ちょっとこれは……私もブルブルしちゃいます……」




昼とは城内の雰囲気が180度変わっていた。

廊下へと繋がる入口まで見えていた広間は、今や月明かりはあれど、数メートル先は何も見えない闇であった。

月明かりに反射する壊れかけのシャンデリアが、とても不気味に感じる。




「よし、俺は先に床の危険な場所を木材で塞ぐ。君は待っていてくれ。俺は飛べるから良いが、君は落ちたら危ないからな」




「す、すいません……1から10まで……」




「こういう作業は慣れてるんだ。寧ろ好きまである。気にしないでくれ」




先程、門へと丸太を積み上げた時、部屋の補修の為に幾つか木材も持ってきていた。

爪に力を入れると、木材は簡単にスパスパ切れる。

まさかこの身体の持ち主も、身体が木材加工に使われるとは、夢にもおもわなかったであろう。




暫くして、壁に空いた穴は布で隠され、床に空いた穴は木材を。

窓のガラスは殆どが割れていたので、布で覆い、カーテンを無理くり繋ぎ合わせて長くし、割れたまま閉める事にした。

床が安全になったので、少女が床を軽く掃除し、センヤは部屋全体にある古びた燭台にロウソクを。

爺さん仕込みの日曜大工の経験もあり、簡単なベッドとテーブル、イスも出来た。

とりあえずは部屋としての体裁は出来たのではないだろうか。




「吸血鬼様って器用ですね……」




「恩人から良く言われてたんだ『何であれ死ななければ問題無い。成功か失敗するかは、やった後の自分に任せとけ。何であれその時の自分はやる前よりは良い顔してるぜ』って。それで色んな事を経験して、成功もしたし、失敗もした。そうして徐々に色々な事を身につけていったんだ」




「ふふ、その考え方って私、とても素敵だと思います!」




勿論、恩人とは爺さんの事だ。

爺さんもかなりの苦労をして生きてきたらしく、普段の生活で何かに動じる事など殆ど無かった。

俺もそんな爺さんに憧れていて、だからこそ将来、爺さんに恩返しをしてやりたかった。

それだけが唯一の心残りであった。




「さ、ご飯にしよう。今日は君が生まれ変わった誕生日だ。思いっきり祝おう!美味しいご飯でお腹が満たされれば幸せになる。これは誰でも同じだからな!」




「え、えへへへ……」




部屋中に立てられたロウソクの灯りは、数が多い為、部屋全体が入口までぼんやりと見える明るさだった。

2人は先程買った料理を、食器の上に載せてテーブルへと運んだ。

自作のテーブルの上に載せた、古びた燭台のロウソクの柔らかな光に照らされる少女の目には、涙が溜まっていた。




「……君には服の他に、名前もプレゼントしようと思う。俺は君の意見を尊重したい、自分で名乗りたい名を決めるといい」




名前が無い。

それがどれだけ悲しい事か。

自分を自分として尊重し、愛してくれる者もおらず、ただの奴隷の1人として日々を生きる。

世界から拒絶されていると思える程の孤独だろう。

彼女の痛みの全てを知るのは、センヤですら難しいだろう。

だが、それが何もしない理由にはならない。

全てが分からずとも、寄り添い、温もりを伝える事はできる筈だ。




少女は少し迷っていたが、きっと最初から決めていたのだろう。

自分の名前を持つ日を。ずっと。




「……私、捨てられた時の記憶があるんです。周りに、沢山のサナクトリアの花が咲いていたんです。花言葉は『冒されぬ自由』……これが唯一の私がまだ『自由』だった頃の記憶……だから……」




「私、サナって名前が良いです!」




少女はセンヤの目を真っ直ぐと見つめ、自分の名を口にした。

センヤは微笑むと、祝福の言葉と共に、一番に少女の名前を呼ぶ。




「分かった!誕生日おめでとう、サナ!」




「ありがとうございます!吸血鬼様!」




サナは涙を滲ませながら、満面の笑みでセンヤに微笑んだ。

もう、この少女は奴隷でもなんでもない。

『サナ』と言う名前を持つ、1人の人間だ。

彼女は涙を拭うと、サナはセンヤへと疑問を口にした。




「……気になっていたんですが、吸血鬼様には名前は無いんですか?」




「ん……?あ…………そう言えば全く言ってなかったかもしれない。すまない、いつまでも吸血鬼様呼びさせて……俺はセンヤ。俺の生きていた世界では千の夜って書くんだ。名前の由来は長くなるから割愛するが……吸血鬼っぽいだろ?」




こちらの世界と、元の世界の字は当然違う。

しかし、元々こちらの世界に存在していたこの身体のおかげなのか、街での文字は全て読めたし、こうやってサナや、様々な人々と会話も出来る。

センヤは買い物をした時に付いてきた紙袋に、自身の名前の漢字である、『千夜』と、こちらも買ったペンで書いて見せた。




「千の夜の……センヤ様と言うのですね!……生きていた世界……そういえばセンヤ様は会った時に何も分からないって言ってましたよね?長年封印されていたので、私は記憶が曖昧になってるのかと思っていましたが……」




「あぁ。言おうとは思ってたんだが、その辺も長くなりそうだ。ま、食べながら話そう」




簡素なテーブルに載った皿。

その上には調理済みの濃厚ソースのかかったステーキが置かれていた。

飲み物はガラス瓶に入った果実のジュースだ。

簡素な誕生日だが、サナにとっては忘れられない日だ。




「……奴隷の私に夕食をお恵みくださり、心より感謝致します。明日からも誠心誠意、貴方様の為に働きます。今日も1日ありがとうございました」




サナは料理の前で手を合わせ、呪文のようにその言葉を唱える。

奴隷時代の習慣がまだ抜け切らないのは仕方ないだろう。

しかし、その言葉を聞いているだけで、彼女が食事時ですらどのような扱いを受けていたかは、想像に難くなかった。




「サナ、君はもう奴隷じゃない。俺の家族だ。もうそんな事しなくていい。普通で良いんだ」




「はっ!つい癖で……えへへ……それでは……いただきます!」




しかしサナはすぐに、ナイフとフォークを前に首を傾げる。

まさかと思ってはいたが、そのまさかは本当の事であった。




「……これ、どうやって使うんでしょうか?」




「!これはだな……サナは右利きか。じゃあ右にナイフ、左にフォークを持ってな……こう切って、こうやって食べるんだ」




センヤはサナの後ろに回り込んで、後ろから彼女の手を持ち教える。

二人羽織のように手際よくステーキを切り、フォークに肉を刺して、そのままサナの口へと運ぶ。

センヤの想像していた『まさか』は、最低限のコストで、一応お腹だけは満たせる様、肉や野菜の切りくずだったり、酷い時だと何も具が無い状態のスープばかりを飲まされているんじゃないか、という事であった。

不思議な事に歯並びこそ綺麗だったが、歯の大きさが少し小さいのを見て、彼女はあまり固形物を食べていないのではと感じていた。




「わむっ!」ぱく




「あっ、すまない、つい口に入れてしまった。だ、大丈夫か?」




「…………」もぐ……




「……サナ?」




「………………」もぐもぐもぐもぐもぐ




当初は肉をちゃんと噛み切る事が出来るか不安だったが、吸血鬼となった事により、歯もしっかりと強くなっている様であった。

妹の面倒を見ている、というよりは、娘を過保護なまでに心配する父親の様でもあった。




「…………」ごくんっ




「……うぁ゛あ゛ぁ゛………お゛……お゛い゛じい゛よ゛ぉ゛おおお……」




初めて食べる事の出来た、肉厚なステーキを味わったサナの瞳からボロボロと大粒の涙が溢れる。

センヤは号泣する彼女を見て、悲しい気持ちと嬉しい気持ちが胸の中に溢れ、彼も涙を流した。




「……サナ、約束する。俺が……君に、年相応の暮らしをさせる……!君は……幸せになっていいんだ……!!」




あの日、爺さんが俺にしてくれたように、今度は俺が少女を救う。

センヤは、サナを後ろから固く抱きしめた。












誤字チェックはするんですが抜けもあるかも知れません。

その時は「しょうがねぇ奴だな!!」の精神で教えて頂けるとありがたいです。



吸血鬼に噛まれると吸血鬼になります。

しかし、かつてデュラハルド大陸に住んでいた吸血鬼達は、そもそも大陸内に吸血鬼と、僅かな魔物しか住んでいなかった為に、進んで誰かを吸血鬼にする事はありませんでした。

故に眷属という概念も特に存在せず、噛まれて自分と同じ吸血鬼になった時点で、彼らは仲間同士!という認識になります。

しかし、突如として芽生える仲間意識は、元々仲が良好な場合は特に何の問題も起こらず、変化した感覚も特にありません。

ですがそれは敵を瞬時に味方に変える能力であり、敵からすれば、味方が突如敵に変わる能力なので、かなり厄介だったりします。





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