第45話 刃の心と鋼の決意
腰が痛いのでマットレス買いましたわよ。
モンスターエナジーのピンクも箱で買いましたわ。
おーっほっほっほっ
つれぇですわ!
マキナリアは玉座を立ち、ゆっくりと歩きながら壁に掛けてある、歴代のアンビシャス家当主の絵画を眺めた。
そして、先代、先々代の男性、女性の絵画の前で足を止めた。
不慮の事故で無くなった先々代の父上、そして、まだ幼かった私たちに代わって、父の代わりをしっかりと務めた母上。
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母上は領土を拡大する侵略戦争の途中、突如として乱入した魔将の不意打ちを喰らい、致命傷を負った。
状況の確認の為、一旦作戦本部へ戻る途中の事であった。
私たち姉妹の目の前で、魔将は母上の腹に大穴を開け、嘲笑いながら姿を消した。
魔法ですらもう助からない事を察した母上は、私に告げた。
「……マキナリア。これからはお前が、女王としてアンビシャスを率いて行く……常在戦場、アンビシャスのみが『人』であり、全ては『駒』……お前の身体、心、そして血液までをアンビシャスに捧げなさい……」
母上は私の手を握り、私も母上の手を握り返した。
その手からは徐々に血の温かさが失われつつあり、死がすぐそこまで近付いている事を告げていた。
「……ッ!……分かりました、母上……マキナリアがこの身全てを捧げ、父上と母上の後を継ぎ、『人』として『駒』を率いて見せましょう!……ですから、安心して……お眠りください………ッ!」
この時から、私自身の存在は全てアンビシャスの為に動く歯車となった。
身体も、心も、血も、涙も。
「お母さん………やだ、死んじゃやだよぅ…!!」
「……泣くんじゃない、ロウェル。お前が、マキナリアを支えてやるんだ、遠くから……2人……を、見守って、い…………」
母上の手が、力無く私の手から滑り落ちる。
妹は泣きじゃくっていたが、私は涙の1つも流さなかった。
母上の思いに答える事こそが、何よりの恩返しであり、母上の望んでいた事であるからだ。
私が涙を流すのは、この国が終わる時だ。
僅か10歳の少女の胸には、一国を背負う並々ならぬ覚悟が出来ていた。
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「……姉さん、どうしたの?」
奥から妹のロウェルが現れた。
あれからロウェルも成長し、今は国内の普通の学校に通っている。
流石に護衛は数名程付けてはいるが。
彼女に残された家族は私しかいない、せめて母親代わりの事はしてやっているつもりだ。
「……いや、なんでもない、ロウェル。学校はどうだ?」
マキナリアは薄く微笑み、ロウェルの頭に手を置く。
彼女は家族の前でのみ、女王の鉄仮面を外し、1人の『マキナリア・アンビシャス』となる。
「うーん……勉強も運動も普通かなー……」
ロウェルはマキナリアと違い、あまり要領が良くなかった。
しかし、世の中何でも出来る事が良い事とは限らない。
出来すぎる者は尊敬の眼差しを向けられるが、その分、嫉妬や恨みなどを買う事も多々ある。
しかし良くも悪くも、ロウェルは『普通』であった。
顔こそ美形ではあるが、特に何かに秀でている事もなく、気取ることも無い自然体。
『アンビシャス』の名があったとしても、彼女の周囲には、邪な思いを持つ者ではなく、ただ純粋に、自然と人が集まってきた。
「良いんだ、自分のペースでやりたいようにやればいい。………おっと、すまない、用を思い出した。ごめんな、もっと家族で話をする機会も必要だとは分かっているんだが……」
「ううん、分かってる。姉さん……あんまり、無茶しないでね」
ロウェルは少し寂しそうな顔をする。
申し訳ないという気持ちと共に、魔王、そして、いけ好かないガキがトップのバンデッタを滅ぼし、世界を統一した後はロウェルと家族の時間を過ごそうと考えていた。
マキナリアは、広間を出て、階段を降っていく。
途中で何人かの使用人や、技術者たちに頭を下げられ、歩きながら軽く手を上げて返事の代わりとする。
これから向かう場所は、他の扉や壁などとデザインこそ同じだが、その内側は鋼鉄製で出来ており、唯一タッチパネル式の機械で鍵が掛けられていた。
入り組んだ地下一階の最奥、そこにその扉はあった。
(……………)
20桁の数字を打ち込むと、ロックが解除され、重々しい音と共にその扉が開いた。
マキナリアが通ると、その扉はすぐに閉じ、再びロックされた。
扉の向こうはすぐに階段となっており、赤褐色がメインカラーの国内とは裏腹に、真っ青な光が地下深くへと続いていた。
カツン……カツン………
1人、先の見えない地下へと続く階段を降る。
この先にあるのは武器庫である。
一般の機械兵は国内外の様々な工場で量産されており、この武器庫には置いていない。
ここに置いてあるのは、バンデッタを含めて他国にすら見せていない、言わば『秘密兵器』の様なものや、道理に反する非人道的な兵器たちである。
大規模な画力を誇る巨大兵器が並ぶ通りを抜け、最奥へと向かう。
そこには大量の『棺桶』の様なものが並び、中には死人……ではなく、生きている人間が眠っていた。
それは、捕らえた『転生者』を仮死状態にし、保存しておく装置であった。
彼らの右腕には『自由無き輪廻』、そして左腕には、周囲1キロ以内で『スキル』を発動した際に、一瞬だけ現れる謎の周波……先程の研究員が言っていた『波動』と呼ばれる物を探知する『機装』が取り付けられていた。
今でこそ量を優先し、一瞬の『波動』のみしか感じ取れないが、もう少しすれば『水晶』を利用した高精度の『機装』が開発されるだろう。
マキナリアは、一般の転生者達の区画を抜け、『覚醒』済みの転生者が並ぶ区画へと訪れた。
そして1人の少女の前で止まり、ガラスの表面を薄く撫でる。
「我が国の最高傑作……『千刃姫装カンナ』。………美しい。お前は『人』としての美しさを持っている。他の愚劣なヒトモドキとは違う……」
『覚醒』した転生者の改造、強化は、マキナリア自身の手で行われていた。
既に『千刃姫装カンナ』も、右手、左足が機械化されていた。
彼女を捕らえた際に、人間の兵士と機械兵が抵抗する彼女を抑える為に、切断してしまったのだ。
彼女を連れ帰ってきた彼らを、マキナリアは無言で斬り殺した。
再び手足を再生させるには、十章以上の回復魔法を使わねばならないが、制御が難しい高度な回復魔法の使用者は、かなり限られている。
マキナリアが『覚醒』済みの転生者の強化を行おうとした時であった。
彼女の腕に取り付けられた通信機から、緊急の通知音が鳴り響いた。
「……なんだ?久しぶりだな……」
マキナリアは通信機のタッチパネルを操作し、通信を繋げた。
相手は、各地へと散ったアンビシャスの密偵からの連絡を統括する情報統括部からのものであった。
「私だ。緊急の連絡を使うとは……それ程重要な事なんだろうな?」
「マキナリア様、至急のご報告があります」
情報統括部の統括部長は、少し早口気味に、やや喜ばしいという雰囲気を出しながら、内容を伝え始めた。
「デュラハルド大陸にて国跡を利用し、新たな国を興そうとする勢力の存在を確認しました。聖騎士軍との繋がりもあるようで、各領地の領主を全て自身の勢力で固め、大陸を統一するようです。領主を任された者も、周囲の魔物を単騎で一掃する程の実力の持ち主と見受けられます。魔物が一掃され、国のベースが出来上がりつつあります。十分な用意が出来る前に、我々が全てを奪い取る事も可能かと……!!」
今まで魔物の数が多く、国跡を作り直すのもかなりの手間が掛かるため、取りあぐねていた国が手に入るかもしれない。
なんと大陸1つをモノに出来る、千載一遇の機会がやってきたのだ。
統括部長が早口になるのも無理は無いだろう。
「……そうか、では、こちらから全体の半数の機械兵と『転生者』をデュラハルドへと派遣しよう。指揮官も複数名、足りないなら増援をすぐに要請しろ。大陸1つ手に入れる事が出来れば、この世界の覇権へ大きな一歩となるだろう。出し惜しみはしない。伝えろ。」
「『アンビシャス』の武力を以て、デュラハルド大陸、及び建造中の国跡を制圧せよ。この世界は『力』を持つ者によって、正しく導かれなければならない……!」
その命令を下すマキナリアの表情は、ロウェルと話していた時と打って変わり、冷酷な為政者、そして獲物を狙う獣の様なモノへと変わっていた。




